オール新作 春季特別号、そして全国若手落語家選手権
「オール新作 春季特別号」に行きました。林家つる子さん、入舟辰之助さん、三遊亭ふう丈さんの三人が新作落語に取り組む会だ。きょうは朝から雪が降って、大雪警報も出て、開催が危ぶまれたが、無事に開演した。特別ゲストは柳家喬太郎師匠だったのだが、何と新作落語をネタ卸しされた。「こんな雪の中、頑張って来てくれたお客様に温かい気持ちになって帰っていただこう」と、会場に到着してから創作したのだそうだ。やはり、喬太郎師匠は素晴らしい!
三遊亭ふう丈「ゲセワセワ」
介護施設でリハビリをしているオカザキのおばあちゃんは男女の色恋の話が大好き、下世話な話に目がない。そういう話を聞くと、あまり乗り気でないリハビリも俄然やる気になるという…。そこで展開するリハビリのマエダ先生とケイコとサヤカの職場恋愛の三角関係、さらにそこに院長先生が絡んで、大興奮するおばあちゃんが面白い。
入舟辰之助「死神エピソード0」
神様養成学校を卒業した男、他の同級生がポセイドンとかロマンスの神様とかに指名される中、なぜか死神を命じられる。どうすればいいのか、思案しながら街を歩いていて、一軒のSMクラブに客引きされて入店すると…。そこで体験したことによって、死神の呪文「アジャラカモクレンキューライス」や蝋燭を人間の寿命にすることを思い付くという…。古典落語「死神」の前日譚という発想が面白い。
林家つる子「JOMO」
お馴染みの噺。群馬県出身のつる子さんの地元愛を感じる作品だ。群馬県独特の風習である上毛かるたに情熱を燃やす高校生の青春ラブコメディ仕立てにした台本がとても良い。「タッチ」の主題歌を自分で歌いながら、主人公みなみちゃんが全国大会優勝に向けて奮闘する回想シーンを演じる演出力もさすがだ。つるまうかたちのぐんまけん。ちからあわせる200まん!
柳家喬太郎「最後の湯豆腐」
雪降る中、路上で倒れていた若い女性を居酒屋主人が助けて、湯豆腐を振舞ってあげる。訳アリっぽいが、そこはあえて訊かない主人。「豆腐が美味しい」というと、実は朝は豆腐屋を営んでいるという。だが、あまり繁盛していないのはメディアの取材を一切断っているからだと明かした。
20年前、主人はあなたと同じような体験をしたと話しはじめる。会社が倒産し、給料も未払いとなり、雪の中で途方に暮れていた自分を居酒屋の大将が声を掛けてくれて、湯豆腐をご馳走してくれた。大将いわく「これが最後の湯豆腐になる」。近所の美味しい豆腐屋が閉店してしまったのだという。
主人はこの大将に恩返しがしたいと、10年間豆腐屋で修業を積み、再び大将の経営する居酒屋に行くと、店は畳まれていた。その店を買い取って、自分が豆腐屋兼居酒屋を営み、大将がいつの日か訪ねてくるのを待っているという。だから、評判を取ってお客が沢山来て、大将が入りづらくなるのを避けるために取材拒否をしているという…。とても心温まるエピソードだ。
そんなエピソードを聞きながら、助けられた女性はなぜかメモを取っている。実は彼女はライターで、しかもその“大将”は自分の祖父だと打ち明けた…。心温まる良い話と思わせてくれるが、最後に大どんでん返しが待っていた。これぞ落語!という創作魂を喬太郎師匠が見せてくれた。
配信で先月29日に開催された「公推協杯 全国若手落語家選手権 本選」を観ました。三遊亭わん丈さんが優勝した昨年に続いて第2回である。
今回は大阪予選1つが加わった4つの予選を勝ち抜いた4人による決勝戦で、出場は笑福亭笑利さん、春風亭一花さん、立川吉笑さん、柳亭信楽さんだった。審査員6人(一人持ち点25票で複数演者に自由に分配)と客席(一人1票)の合計で競った。結果は以下の通りで、吉笑さんが優勝した。
笑福亭笑利(観客38+審査員33)71点/春風亭一花(観客57+審査員20)77点/立川吉笑(観客109+審査員59)168点/柳亭信楽(観客56+審査員38)94点
笑福亭笑利「神に誓って」
高座に大きな材木を持って現れた。実は上方落語に必要な見台、膝隠し、小拍子が用意されていなくて、講談の釈台で代用されていたことをいじるマクラのための小道具だった。その“いじり”含めて、本題とは関係ないマクラが延々と続いて、持ち時間20分を有効に使っているとは思われなかった。
ネタの新作落語は、3年前に結婚したハルオとヤスコが離婚するので、“離婚式”が開かれたという…。牧師が滅茶苦茶怒っているのが面白い。「軽々しく誓わないでほしい」「あなたは浄土真宗?なぜ教会で式を挙げたのですか?キリスト教に対して失礼だ」。日本人の結婚式と宗教の関係についての皮肉のセンスは良いと思った。
春風亭一花「のめる」
彼女もマクラで本題とは関係ない、大学時代にクレープ屋さんでバイトした体験を長く話していたが、あまり面白いとは思えなかった。
4人の中で唯一の古典落語だったが、審査員の古今亭志ん輔師匠が講評でおしゃっていたが、「独自の細かい入れ事が多すぎる。それを削いだ上で勝負しなさい。もっと落語を信じなさい」。物置に100人乗っても大丈夫とか、八五郎が実際に“網を張って”待っているとか、小細工が本筋の滑稽に繋がっていないのが残念だと僕も思った。実際、半さんが「俺にやらせろ」と詰将棋に向かって考える時間を十分取らないうちに、八五郎が「詰まろうかね?」と訊くのは、そこがこの噺の肝だけに、本当に勿体ないと感じた。
立川吉笑「小人十九」
さすが、真打昇進が決まっている実力者であることを見事に証明した。持ち時間20分を有効に使っている。“言葉警察”のマクラ、「煮詰まるはプラスの意味だったとは」とか、「江戸落語を演じる京都出身者」ゆえに関西弁と江戸弁、どちらにしても訛ってしまうとか、面白く聴かせた上で、その流れから本題に入る実にスマートな高座だ。
コロナ禍という時流を上手く使って、上方言葉が飛沫感染して江戸の町に蔓延するという発想が素晴らしいし、それを擬古典として演じる噺運びの良さもある。マクラからパッケージとして20分の高座が完成されており、堂々の優勝と言っていいと思う。
柳亭信楽「変身」
マクラは程よい量。この選手権のタイトルの長さについて触れた後、会場の「紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA」は五七五の俳句になっているという目の付け所もセンスがあると思った。志ん輔師匠は「センスなんか要らない。20分をちゃんと作ってこないと」とおっしゃっていたが。
本題の新作落語のぶっ飛んだ発想が良い。大学1年生のシゲルが朝起きたら、見た目がバッハになっていた!という…。だけど、見た目だけで、絶対音感とかピアノが弾けるとか、音楽的才能は全くないというのも可笑しい。そして、お父さんがベートーヴェンに変身して登場するも、全く動じないで、ポジティブに捉えているというのも面白い。