プーク人形劇場 新作落語お正月寄席
プーク人形劇場の「新作落語お正月寄席」三日目に行きました。僕は2019年に伺って以来、5年ぶりの参加である。2000年にスタートしたとのことだから、今年で25年目になる。実に四半世紀。どうして、人形劇の劇場で新作落語の寄席を開催するようになったのか、僕は存じ上げないが、冒頭の主催者挨拶で今年は二人三番叟を「舞台初め」に演じると説明があって、プークさんの“本当の顔“を見たような気がして嬉しかった。
人形二人三番叟/「ジョー君大好き」瀧川はち水鯉/「全自動」三遊亭ごはんつぶ/「深夜バス」三遊亭ふう丈/「私が私が」弁財亭和泉/札―1グランプリ」古今亭今輔/中入り/「桃太郎後日譚」「江戸っ子検定」春風亭百栄/「銭湯の節」柳家喬太郎
はち水鯉さん、自虐ネタで笑わせる。“ザコ前座ハンターゆうこ”の存在がとても気になるう!ごはんつぶさん、AI家電の進化をユニークに皮肉る。江戸っ子口調の音声サービス、アサクサ(笑)。全自動みかん剥き器の緩慢な動きに苛々するのが可笑しい。
和泉師匠、これぞ和泉落語。陶芸教室で知り合ったオダワラさんとアオヤマさんの二人の女性のマウントの取り合い、遠回しのディスりが爆笑を呼ぶ。オダワラさんは文京区春日に一戸建てを新築、美大出身でウェブデザイナー、ただの主婦だったのが「君を世の中に出したい」と誘われたのでやっているだけと謙遜しているようで自慢になっているのが可笑しい。
アオヤマさんはファッションセンスが良いと褒められると、全部ユニクロとシマムラよと言いながら、元読者モデルだったことを訊いてもいないのにさりげなく挟み、スレンダーな体型は「食べても太れない体質」と答え、「10歳は若く見られるのがコンプレックス」と、これまた謙遜しているようで自慢になっている。
喫茶店で延々と繰り広げられる、この大人同士の“甘噛み”の会話が聞きたくないのに聞こえてしまって、大学1年生のバイト君がメンタルをやられてしまう気持ちも良く判る。男女問わず、「わかる、わかる」と共感できる爆笑落語だ。
今輔師匠、さすがクイズ王。財務省が次のお札の肖像画を誰にするか?と検討するために、歴史上の人物を面接するという発想が面白い。最終選考に残った、太宰治、坂本龍馬、織田信長に関する雑学が満載のクスグリで笑いが絶えなかった。
百栄師匠、名作おとぎ話の裏の闇が愉しい。イヌ、サル、キジの家来たちに「鶏も食べ残すようなきびだんご1ツで小林多喜二の『蟹工船』のようにこき使われた」と反旗を翻された桃太郎がメンヘラになって納屋の中に閉じこもっているという構図がまず可笑しい。
その上で、「荷車の上で大胡坐かいて、鼻唄を歌っていたのはどこのどなたですかね」とか、「本当に酷い奴というのは、すっかり観念した鬼たちを女房や子供の目の前でズタズタに切り裂いた人のことをいうんじゃないですか」とか、「ニタニタ笑いながら返り血を浴びていたのは誰ですかね。鬼退治の大隊長様!」とか、家来たちによってファンタジーとしての「桃太郎」の夢が打ち砕かれる様が実に痛快である。
喬太郎師匠の昭和の香りが好きだ。森光子の「時間ですよ」の世界もそうだが、実際に僕が小学生の頃には、銭湯の湯船に浸かって「旅ゆけば~」と浪花節をうなっている爺さんが確かにいた。太っていなくて、胸板が洗濯板みたいな、坊屋三郎みたいな…というディテールがまた良い。
浪曲の節の部分ではなく、啖呵の部分にも独特の唄うような口調があるのも確かで、喬太郎師匠が「芝浜」のほんの一部をそれで演じてみせたのには、畏れ入った。説得力があるし、喬太郎師匠が浪曲に敬意をもって、この新作を演じているのも伝わってくる。
主人公のメグミが社内のプレゼンを、習った浪花節でやるところ、初演の頃よりも膨らまして演じていたが、これが素敵だ。おばあちゃんに喜んでもらいたいというメグミの情熱がよく伝わってきた。