一之輔のすすめ、レレレ「味噌蔵」「天狗裁き」

「一之輔のすすめ、レレレ~春風亭一之輔独演会」に行きました。「味噌蔵」と「天狗裁き」の二席。ゲストは漫才の風藤松原先生、林家きよ彦さんで「追っかけ家族」、開口一番は柳亭市遼さんで「狸の鯉」だった。

「味噌蔵」。主人の赤西屋吝兵衛に奉公人たちがいかに虐げられているかをユーモアたっぷりに描くのが良い。我々に自由を!とフランス革命の「ラ・マルセーエズ」を歌う甚助さんはフランス人三世の共産党員とか。奉公に入った小僧は右腕に“吝嗇”と焼き印を入れられるとか。

主人が留守のうちに、帳面ヅラをドガチャカにして、ご馳走にありつこう。番頭が声を大にしてカツ煮の美味しさを訴えるのが愉しい。8歳で奉公に入る前に、父親ととんかつ屋に入って、ロース肉を注文し、サクサクのとんかつが出てくると思ったら、玉ねぎと一緒に玉子でとじられたカツ煮が出てきて、それを口にしたときの幸福感!伝わる!

奉公人たちに「何でも食べたいものを言いなさい」と問うときに出る食べ物?がいかにも吝嗇に虐げられているかを表わしていて面白い。ご飯のおこげに醤油をかけたもの。食パンの耳を揚げて砂糖をまぶしたもの。カステラについている紙。納豆のタレの袋の残りをチューチューしたい。アメリカンドッグの棒についたカリカリしたところ。かた焼きそばにヤングコーンを切らずに1本入れで!…。これぞ一之輔ワールドなり。

「天狗裁き」。女房のおみっちゃんがエキサイティングだ。喧嘩腰で、口汚くて、乱暴で、亭主の八五郎をボコボコにしちゃう。「稼ぎが少ない」だの、「甲斐性なし」だの、責められている八五郎が可哀想なくらい。

七十五歳の大家の幸兵衛の「あらすじだけでも教えてくれ」とか、紙と筆を持ってきて「絵に描いてくれ」とか、冥途の土産に夢の話を聞きたがるのも可笑しい。でももっとすごいのは、指で狐の形を作って擬人化し、「僕も聞きたいよお」と願って、「知りたい君です」と名乗るのには大笑いした。

大岡越前守こと加藤剛は、上司からの重圧、部下からの突き上げ、そして家内との不和に悩んでいて、夢の話を聞いて励みにしたいというのも面白い。50両、100両、200両、わしは勘定奉行とも繋がっている、幕府の金庫からいくらでも出すからと金に糸目をつけずに聞きたがる。遠山の金さんに人気で負けたくなくて、自分もえっちゃんと呼ばれたいと土下座するのがすごい。

高尾の大天狗には、八五郎も折れて、本当は夢など見ていないのに、「いい天気だから、散歩していたら、猫が出てきて、可愛かった」と作り話をするが、天狗は納得しない。「もっと面白い夢だろう?魚河岸に行ったら、財布を拾って、魚屋に精を出すとか、暮れにはそういういい噺があるのだろう?」と天狗が訊くと、八五郎が「それのどこが面白いんだ!そんな噺を面白がっているんじゃねえ!」と、天狗に向かってファイティングポーズを取り、「かかってこいよ!」と叫ぶのが堪らなく可笑しかった。天狗の「芝浜を馬鹿にしやがって…」という一言含めて、斬新な「天狗裁き」だった。