立川小春志真打昇進披露興行 三日目

立川小春志真打昇進披露興行三日目に行きました。ゲストは昼の部が立川志の輔師匠、夜の部が春風亭一之輔師匠だった。

昼の部

「かぼちゃ屋」立川談春/「ハナコ」立川志の輔/御披露 小春志・談春・志の輔/中入り/「化け物使い」立川小春志

志の輔師匠はまず、「よく頑張った」。談春師匠の弟子が次々と辞めていく中、たった一人、良く耐えに耐えたと。談春師匠いわく「この子は自分で踏ん切りをつけて辞めることができる人間だと思っていた」。それが最後まで辞めずに、ここ(真打)まで到達したことに喜びを隠せないのが微笑ましい。

談志師匠はこはるが女性であることを知るのに1年かかった。志の輔師匠に対して、「ひょっとして女か?…談春、どうするのかね」と言ったという。「こはる!」と初めて名前で談志師匠が呼んでくれて、「舞台の上のエンターテインメントに男も女もない。頑張れ」と言ってくれた。その後に日暮里寄席で開口一番を勤めたとき、談志師匠は「坊や、口調はいい。そのままやれ」と言ってくれたそうだ(笑)。ちなみに、そのときのネタは「権助魚」。

小春志真打昇進披露パーティーを明治記念館で開いたとき、小春志師匠が黒紋付から白無垢の花嫁衣裳に着替えるという演出は、彼女が「余興としてやりたい」と談春師匠に申し出たそうだ。「面白い!」と師匠は思ったが、実際はパーティー会場がしんみりとしたという。志の輔師匠が「お父さん、お母さんも嬉しそうで、あれは本当に良かった」。

志の輔師匠は談春師匠の落語だけでなく、書く文章も学んでほしいと言った。無駄がなく、句読点をうまく打ち、読み手を引き付ける、あの文筆力はすごいと。談志から談春、そして小春志。吸い込まれるような文章を書く力も伝承していってほしい、これからもう一つ上の段階にいくとき、古典落語を極めるために文章力というのは武器になるとおっしゃっていたのが印象的だった。

小春志師匠の「化け物使い」。いきなり引越しの場面から入る。隠居が権助に家財道具を全部収納し、その他雑用を言いつけて、それが全部終わったところで、権助は暇を貰いたいと言う。「国許の父親が患っている、死に水を取りたい」。隠居は承知し、これまでの賃金とは別に餞別を渡し、別れを告げる。

だが、それは嘘だった。桂庵で「あそこの隠居は人使いが荒くて三日もたない」と皆に言われ、悔しいので「3年辛抱を続けられるか」、賭けをした。きょうで丸三年経つ。もうここで働きたくないと言って、「あなたは悪い人じゃないが、思い付きで仕事を言いつけるから、効率が悪い」と逆に隠居に説教する。

それに加えて、この新しい家は化け物が出るという噂があるから、働きたくないと言って、権助は去ってしまう。その後、一つ目小僧、のっぺらぼう、大入道が出てきて、隠居が用を言いつけるという構成になっている。化け物が出てくるまでの権助にまつわる部分が噺の大きな比重を占めてしまい、“化け物を使う”面白さが前面に出てこなかったのが残念だった。

夜の部

「小言幸兵衛」立川談春/「加賀の千代」春風亭一之輔/中入り/御披露 小春志・談春・一之輔/「品川心中」立川小春志

一之輔師匠と小春志師匠(当時はこはる)は一緒にヨーロッパ公演で廻って、互いに気心が知れた仲だ。こはるの真打昇進が決まったときも、まず一之輔師匠に連絡をしたそうだ。そのとき、一之輔師匠は鈴本の主任を取っていて、楽屋に電話がかかってきて、すぐその日に打ち合わせをしようということになり、こはるが鈴本の入り口の前(立川流だから中に入れない)で待ち合わせをして、焼き鳥屋で策を練ったという。

一之輔五夜など連続公演でも数々の実績を残している師匠にアドバイスを受けたいとこはるは考えた。そして、その夜の作戦会議で「5日間昼夜で10公演、毎回豪華ゲスト、そして大ネタのネタ出し!」という今回の披露興行の骨格が固まったそうだ。一之輔師匠いわく「プロデュース料をもらいたいくらいです」。

一之輔師匠は高校時代、ソニービルの上で開催されていた100人キャパの「談春時代」に通い、志らくの真打トライアルも、談春の真打トライアルも観に行った落語少年だった。談春・志らくから入って、談志ひとり会にも通うようなったそう。当時、「すごいなあ」と思っていた師匠がメチャクチャ厳しく育てた弟子の真打の披露目の席に出ている自分がいること、とても感慨深いという。

一之輔師匠は師匠・一朝には放任主義で育てられたし、自分の弟子に対しても放任主義を貫いている。だから、こはるが心配だったとも。テキパキ、先へ先へ動きすぎる。もっと気を緩めてもいいんじゃない?と。そうしないと、噺にもそういう部分が出てしまう、僕は緩すぎるけどね、とおっしゃっていた。男も女も関係なく、“一人の落語家”として「これからはライバルだね!」と言って、小春志師匠の肩をポン!と叩いたのが印象に残った。

談春師匠は「俺たちの時代は自我を壊される、潰されるというのが当たり前だった。でも、今の時代はそれをやっちゃいけない」と前置きした上で、「(こはるに対しては)談志の弟子で、女の子で、そういう高いハードルを超えるためには、自我を壊して良かった」と。女の人が落語を演じて喜ばれるにはどうすればいいのか。本当に真打になった後のこれから、どんどん振り回されながら成長していってほしい、と。スタート地点に立った小春志師匠に期待をこめていた。

小春志師匠の「品川心中」。かつては板頭を張っていたお染が紋日に移り替えもできないことを悔しく思い、「いっそ男と心中してしまおう」と発想する変なプライドだけは負けていない愚かさ。その愚かさに気づかずに、持ち上げられてのぼせあがっちゃって心中を請け負う金蔵も金蔵で馬鹿である。そのあたりの可笑しさを上手に表現していた。

だけど、いざ心中となると、腰が引けてしまって頼りない金蔵。そして、その金蔵を海っぺりまで連れ出し、怖がるのを無理やり海に突き落としてしまうお染の気の強さ。だが、旦那が50両を用意してくれたことを知ると、急に態度を豹変させて、「ごめんなさいね。失礼!」と置き去りにしてしまう現金なお染に聴き手としては腹が立つが、溺れていると思った金蔵も遠浅の品川の海ゆえに、立ち上がったら膝から下までしか水に浸かっていなかったという落語的バカバカしさで十分に楽しませてくれた。