わん丈ストリート

「わん丈ストリート~三遊亭わん丈独演会」に行きました。「隠居が家にやって来た」「矢橋船」「鰻の幇間」の三席。

「隠居が家にやって来た」。“名刺落語”というのを企業などの発注を受けて創ることがあるそうだ。わが社ではこんな仕事をしているんですよ、というメッセージを直接的ではなく、落語という媒体を通してイメージを伝えるというものだろうか。この噺は人生デザイン構築学校さんからの依頼を受けて創作したものだ。

「一目上がり」を八五郎と隠居だけのやりとりで一席演じた後、今度は隠居が八五郎の家を訪ねる。そうなのだ。落語の国では常に隠居は訪ねられる側であって、隠居が訪ねることはない。そういう固定概念を覆してみましょうよ、というのがこの噺の最大のポイントだろう。価値観の転換とでもいうのだろうか。おそらく、人生デザイン構築学校では、一旦“常識だと思い込んでいた”ことを取り払うことから学ぶ学校なのではないか。なかなかに興味深い試みだった。

「矢橋船」。やばせぶねと読む。上方落語だ。桂米朝師匠が掘り起こし、笑福亭福笑師匠が手を加え、笑福亭たま師匠に伝わった噺をわん丈さんが習ったそうだ。琵琶湖の南岸を渡す舟の上での風景を描いたものだ。

前半は乗船客が“色問答”という言葉遊びをしていて、鳴り物も入り、とても粋な感じなのだが、後半は酒を燗するのに徳利を忘れたので尿瓶で代用するという、ちょっと品のない噺になる。僕の印象では、寄席の15分高座で色問答の部分だけ演じるととても良いと思った。

「鰻の幇間」。ネタ卸し。幇間が騙されたと判ってからの毒づきが身上だが、わん丈さんにしてはパンチが弱い気がした。鰻が堅くて切れない、鰻を彫ったのは初めてだ、左甚五郎じゃない!とか、猪口がこちらは天丸、天婦羅屋から盗んできたのだろう、そしてこちらは「人力車吉田 俥夫募集中」とある!とか。

座敷に最初から最後まで子どもがいて、夏休みの宿題の絵日記を描いていて、「久しぶりにお客が来た」と書いてある!というのには笑った。