大手町落語会、そして玉川太福「任侠流れの豚次伝」第7話・第8話
大手町落語会に行きました。久しぶりだなあと思って、調べてみたら、2018年12月以来だった。2010年2月にスタートして、今回が第80回だそうだが、僕は第52回を最後に行っていなかった。だから、大手町の駅を降りて、思わずよみうり大手町ホールの方向に歩いてしまった。「いけない、いけない」と足を日経ホールに向き直したくらいだ。
「一目上がり」入船亭扇ぱい/「小人十九」立川吉笑/「糖質制限初天神」鈴々舎馬るこ/「花筏」柳家喬太郎/中入り/「鰻の幇間」桃月庵白酒/「船徳」柳家さん喬
吉笑さん、マクラでいわゆる日本語警察の話題。「煮詰まる」という言葉は本来、ポジティブな意味なのに、「息詰まる」という似たような言葉があるために、最近はネガティブな使用が目立つ、というのは確かかも。
上方言葉が飛沫感染するという発想がユニークで面白い。検査薬が昆布の一番出汁というのも可笑しい。京都で二十歳まで育ち、東京に出てきた吉笑さんは、いわば“東京言葉”と“上方言葉”のバイリンガル。だからこそ成立する、しっかりとした理詰めの落語に天賦の才を感じる。
馬るこ師匠、“フジロックフェスティバル最長出演アーティスト”と自称するのがとても愉しい。きく麿師匠主任の鈴本八月上席の初日と四日目に行ったが、そのときに馬るこ師匠が喋っていたマクラ総ざらいという感じで、どれもクオリティーが高いのが良い。
酒も煙草もギャンブルもやらない、給料もボーナスも全額妻に渡し、僅かなお小遣いで倹しく暮らしている父親の唯一の楽しみが“糖質を身体に入れること”。そばめし、たこ焼き、ライスボウル…欲望に挫けず、誘惑に負けず、見張り役の小6の娘の言う事を聞いて頑張るお父さんを思わず応援したくなる。
白酒師匠、騙されたと判ってからの幇間の毒づきに本領発揮。徳利と猪口が三蔵法師や孫悟空など西遊記キャラで統一され、漬物がザーサイ。この鰻屋は5年前まで中華屋をやっていたというのが可笑しい。
箸置きがコクヨの消しゴム、酒は「上善如水」ならぬ「上善如酒」。酒じゃないのか!?鰻重に入っている魚について質問しても、「国産です」「養殖です」「浜名湖です」という答えは返ってくるが、そこに鰻という言葉が入っていない怪しさに笑ってしまう。床の間の掛け軸は「いいじゃないか、人間だもの」。“みつを”じゃなくて、“まつを”と揮毫されている。圓生か!?
夜は玉川太福月例木馬亭独演会に行きました。5カ月にわたって三遊亭白鳥師匠の作品「任侠流れの豚次伝」全10話をうなる企画も、きょうが第7話と第8話。これまでは一番弟子のわ太さんと二番弟子のき太さんの二人に一席ずつ前方を勤めてもらっていたが、きょうは開口一番を一人にして、もう一人には「豚次伝のこれまでのあらすじ」を喋ってもらうと、太福先生が番組冒頭に幕前に出てきて説明した。
結果、開口一番をわ太さんがネタ卸しの「日吉丸」、続いてき太さんが「あらすじ説明」をすることに。ところが、き太さんが全くと言っていいほど、説明することができない。途中で居た堪れなくなったわ太さんや曲師の鈴さんが横から援護射撃をするも、効果なし。ただオロオロするき太さんの姿を見て可哀想になってしまった。
後で太福先生が「無茶振りでした」と客席に謝っていたが、き太さんは惚れて入門した師匠がライフワークとして取り組んでいる「豚次伝」に興味を持たないわけがない。おそらく、前座働きで豚次伝の概要を理解する精神的、時間的余裕がなかったのだと思われる。き太さんはこれにめげることなく、精進していってほしいと願うばかりだ。
第7話「悲恋カミナリ山」
ドーベルマン権蔵との死闘を制すも、傷だらけとなった豚次は京都へ向かう途中、バッタリと倒れてしまった。これを助け出したのが、アライグマのオスカル。恋しい豚次を追いかけ、血の跡を辿って、見つけ出したのだ。そして、伏見稲荷のオコン姫が手当をしてくれた。昔からキツネとイヌは敵対関係にあり、権蔵を倒した豚次を助けたのだ。
一方、権蔵の女房のチワワのお菊は豚次が捕まえられないことに苛々している。そこに名古屋のブル松一家のラブ平が、雌猫マリーと虎雄を伴って現れる。「憎いのは豚次」という点で一致し、手を組むことになった。豚次が京都に向かったという情報を得ると、伏見稲荷には手を出せないから、カミナリ山に豚次を誘き出す作戦を取る。
オスカルの献身的な看病によって傷も癒えた豚次は、オスカルの真心に触れ、「女房になってくれ」と頼む。そこへマリーから手紙が届く。「牛太郎を返して欲しければカミナリ山に来い」と、牛太郎の毛を添えてある。これは罠に違いないとは思うが、豚次はあえて行く覚悟をする。そして、オスカルに離縁を告げる。オスカルはマリーに恩がある。この争いに巻き込みたくない。そう判断したのだ。
豚次と行動を共にしたいオスカルに対し、オコン姫は妖術を使う。アライグマの生まれ変わりで、モグラにしたのだ。しかも、盲目の爺さんに。オスカル改めモクイチ爺さんを名乗る。
カミナリ山山頂。豚次は待っていたマリーに対し、「牛太郎を返せ」と言うが、そこに牛太郎はいない。名古屋の激流に落ち、生死を彷徨っているだろうと。豚次に、野犬たちが襲い掛かる。お菊も、虎雄も、ラブ平も加わっての激闘だ。土の中からモクイチ爺さんも助太刀に現れ、戦闘は激化する。そのとき、空が曇り、黒い雲が出て、雷が鳴る。マリーをはじめとする敵陣はその雷に打たれ、倒れてしまう。オコン姫が助けてくれたのだ。残された豚次とモクイチ爺さんは二人で一緒に山を下りて、金毘羅への旅を続けることに。
第8話「チャボ子絶唱」
流山動物園にカラスのカー助爺さんが「名古屋で牛太郎がマリーにやられた」と報せに来た。チャボ子は流山のカラスの大群の力で籠に揺られて名古屋に移動した。
名古屋でカー助と居酒屋に入ると、コンドルのジョーと野犬4匹が“豚次探し”の話をしている。牛太郎が激流に飲まれていったことを笑っていたので、チャボ子は怒って「ハゲタカ!」と喧嘩を売ってしまう。だが、コンドルのジョーに滅多打ちにされ、血まみれになってしまった。
このチャボ子を助けてくれたのが、東山動物園のアシカの文太郎親分だ。実は牛太郎もこの親分に助けてもらっていた。運命の再会だ。数日すると、傷も癒えたので、牛太郎とチャボ子は豚次を探しに、西へと旅に出る。そこへコンドルのジョーが襲来し、チャボ子をさらってしまう。人質にして、豚次を誘き出す作戦だ。
東山動物園で、チャボ子がカー助爺さんに教わったことがある。鶏鳴三声。ニワトリは神の鳥で、その鳴き声は人々に勇気を与えるという。そのことを思い出し、チャボ子は絶唱する。コケコッコー!すると、コンドルのジョーを撃退することが出来た。
さらにこの絶唱は、名古屋の何千、何万というニワトリに波及し、一斉にコケコッコーと鳴いた。その鳴き声は耳をつんざくもので、魂が籠り、仲間たちに勇気を与えた。こうして、牛太郎とチャボ子は再び、豚次を探して旅を始めた。