19時40分の残酷~オモ(重)クラ(暗)い喬太郎~「赤いへや」

鈴本演芸場7月上席仲日夜の部に行きました。「19時40分の残酷~オモ(重)クラ(暗)い喬太郎~」、きょうは江戸川乱歩作「赤いへや」だ。昨日一昨日に較べて大変に後味の悪い作品だが、この「後味の悪い」が褒め言葉になる傑作である。聴く人を選ぶだろうが、僕は大好物だ。

「松竹梅」柳家小きち/「壺算」柳家吉緑/奇術 アサダ二世/「猫の皿」柳家小平太/「歯ンデレラ」林家きく麿/漫才 ニックス/「穴泥」柳亭市馬/「お菊の皿」古今亭菊之丞/中入り/ものまね 江戸家猫八/「不精床」金原亭馬玉/紙切り 林家二楽/「赤いへや」(江戸川乱歩作)柳家喬太郎

吉緑さん、お天道様に当たるとふやけるの?アサダ先生、火気使用。タネを見せる手品。小平太師匠、茶店の爺さんがちょっと変わったキャラクター。

きく麿師匠、熱唱。昔の名前で出ています。ニックス先生、「大丈夫ですよ、受けていますので」。(1+0.25)÷2=0.625。市馬師匠、アンヨはお上手。菊之丞師匠、鳴り物入り。主催者発表が5万5千人。臭い芸が面白い。

猫八先生、高知県観光特使。ウグイスの色はカフェオレに大匙一杯の青汁を加えた感じ。イリオモテヤマネコとツシマヤマネコ。信じる気持ちと折れない心。馬玉師匠、猫の蚤とりましょう。二楽師匠、鋏試しは芸者さん。注文で、七夕、カネゴン。

喬太郎師匠、唯一無二の高座。あくせく働く必要のない、退屈しのぎに噺家になった男の殺人遊戯の残虐性に、聴いているこちらもゾクッとする。善意に見せかけた殺人、悪気はなかった、偶々死んでしまった、プロバビリティー。罪に問われることはないのだが…。それを面白がる男の狂気に、聴き手である私たちもゾクッとして快感すら覚えるが、これはもしかすると罪なのかもしれない。

生活に何不自由なく、退屈な日常に飽きて、何か刺激的なことがないか、と集まった旦那衆。赤い毛氈を床だけでなく、壁や天井にも敷き詰めたお座敷に、噺家を呼んで退屈がまぎれないかと考えていたが…。その噺家が繰り出す殺人遊戯の問わず語りに、さすがの旦那衆も「もう十分だ」「やめてくれ」と言うが、噺家の口は止まらない。その様子を想像すると、聴いているこちらも切なくなってくる。

自動車事故を目撃し、適切なT医院ではなく、藪医者のM医院を教えて、結果として轢かれた老人は死んでしまった。踏切を渡っている婆さんに「危ないですよ」と声をかけたばっかりに、立ち止まり、逆に急行列車に轢かれて死んでしまった。男の子が小便をしているので、電線が剥き出しになったところまで届くかい?と声を掛けたら、男の子は感電死してしまった。天邪鬼の按摩に下水道工事の穴があるから、気を付けなよ、右へ行きなよと言ったら、左に行って、按摩は落下して死んでしまった。

全部、殺人の罪には問われない。偶々死んでしまった。そこに快感を覚え、刺激を感じるという噺家の狂気にゾクッとする。これまでにそういう形で99人が死んでいった。

そんな殺人遊戯にも飽きてしまった噺家がお座敷で取り出したピストル。芸者に向けて引き金を引くが、空砲。「おもちゃなのね」と芸者は安心すると、今度は自分に向かって撃てと噺家は言う。それは本物のピストルで、芸者が撃った弾が噺家の心臓を貫く。倒れる噺家。100人目の殺人遊戯の犠牲者は、その噺家本人だったという…。それは皮肉でも何でもない、その噺家にとって最高の刺激であったのかもしれない。