鈴本5月中席八日目夜の部(三遊亭天どん主任)
鈴本演芸場5月中席八日目夜の部に行きました。三遊亭天どん師匠が主任を勤め、「天どんオール新作大進撃」と銘打っての、ネタ出し興行である。新作ばかりをネタ出しするのは、三遊亭白鳥師匠の「落語の仮面」通し公演以外では初めてではないか。少なくとも、僕は聞いたことがない。
「十徳」三遊亭まんと/「ゲセワセワ」三遊亭ふう丈/奇術 ダーク広和/「善光寺由来」柳家小せん/「おもち」林家きく麿/漫才 ホンキートンク/「元犬」隅田川馬石/「レモンの涙」古今亭駒治/中入り/ジャグリング ストレート松浦/「洒落のお清」柳亭こみち/「匙加減」三遊亭わん丈/粋曲 柳家小菊/「こわい建物」三遊亭天どん
ふう丈さん、天どん門下。ふんわりとごはんをおわんによそって天丼を引き立てる、と覚えてください。下世話な話が大好きなおばあちゃんが介護施設の職員のドロドロした恋愛模様を聞いて元気になるという新作。(後日、演目名判明しました)
ダーク先生、手品ヲタクぶりが愉しい。粒子のもつれ、という手品が面白かった。小せん師匠、アミちゃんとシャカちゃん。余はチンチュウにまかり越したい。きく麿師匠、昔の名前で出ています熱唱。砂糖醤油は餅界の銀幕のスター。きな粉は餅界の永遠のアイドル。
ホンキートンク先生、山内農場。遊次さんの小林旭風に自動車唱歌を歌うのが一番受けた。馬石師匠、フラが好き。わざとじゃなくて、自然に変わっていて、嫌味がない使用人を好む旦那も変わっているよなあ。駒治師匠、お父さんが悪役レスラーで、お母さんは正義のヒーローの恋人という役回りの女性レスラー。リングの上では敵対していたはずが…。レモネード・ティアドロップス!
ストレート先生、初めて観る曲芸に感動。ニュージーランドのマオイ族のポイ。とても綺麗。こみち師匠、女性版落語。番頭を女中のお清に置き換えて。わん丈さん、来春真打抜擢祝いでヒザ前の出演。大岡裁きの人情噺を笑いを盛り込みながら、コンパクトにまとめる技術は一級品だ。小菊師匠、艶。梅干しは酒も飲まぬに赤い顔 年も取らぬに皺寄せて 元を正せばネ 梅の花 鶯鳴かせたこともある~。
天どん師匠、独自のユーモアを生かした新作だ。お化け屋敷をアミューズメントパークのリニューアルのエキスパートがテコ入れするという…。“怖い”から連想して、「昭和の呪われたブラック企業」にしてしまうという着眼点が面白い。
給湯室でお局様が、ありもしないことを噂にしてしまうとか、直属の上司が新入社員の女子の尻を撫で、廊下で煙草を吸って、ポイ捨てしてまうとか、顧客からの大量のクレーム電話とか、絶対服従の飲み会でお酌を要求とか、残業の嵐が吹き荒れるとか…。
コンプライアンスやパワハラやセクハラといったハラスメントが一番怖い世の中では、それを具体化することが一番怖いお化け屋敷になるという、皮肉たっぷりの、世間を斜めから描いた新作に天どん師匠の真骨頂を見た。