百栄てきぃーら!!、そして寸志・信楽二人会

「百栄てきぃーら!!~春風亭百栄独演会」に行きました。「お血脈」「露出さん 劇場版」「サヨナラ旅行社」の三席。

「お血脈」、漫談好きだから、地噺には思い入れがあると師匠。真打昇進披露でもこの噺が演りたかったが、地獄の噺は縁起が悪いと先輩に言われ、「鮑のし」に変更したのだとか。

血脈の印を皆が押し戴くようになって、誰も地獄に来なくなったことを憂いた閻魔大王が、犯罪のハードルをものすごく低くするのが面白い。中学時代に友人の持っていた「GORO」の袋綴じを開けてしまったとか、池袋駅のホームの階段の下りと書いてある方を上ってしまったとか、本屋の店頭で平積みになっている本の上から二冊目を取って買い求めたとか。

善光寺から血脈の印を盗み出す役を誰にするかで、アルセーヌ・ルパンに目を付けたのはいいけれど、ルパン三世の守護霊、アサダ二世の後見、乱一世のマネージャーと使い物にならない人選をしてしまうのも愉しい。

「露出さん」は永遠の爆笑ネタ。町に馴染み過ぎた露出さんが、もう一度キャーッと悲鳴を上げさせたい、変態!と罵られたい!と願う。町内の時計になれや、露出狂。そんな小商人みたいな了見じゃ駄目だ!とつぶやくのが可笑しい。

町内のベストパフォーマンス賞を受賞して有名になり、ぶらりの意味を取り違えて、「ぶらり途中下車の旅」のレポーターに抜擢されたり、皆でお金を出し合って去勢手術をしてあげようなんて地域猫みたいな扱いを受けたり、兎に角、笑い沢山だ。サゲは今回、初めての試みで「浅草キッド」リスペクトバージョン。というわけで、今回は「劇場版」と演目に付いている。

「サヨナラ旅行社」は、初めて聴いた。2013年1月、落語協会二階でやっていた勉強会で卸したネタで、そのときの演目は「格安〇〇ツアー」、その後1カ月で4、5回かけたきり、お蔵入りしていたものを掘り起こしたそうだ。

自殺願望のある男が旅行会社の店頭で「海外自殺ツアー」というパンフレットを見ていたら、店員が声を掛けてきて、色々なプランを提供するという噺だ。南の島で首吊り、ピサの斜塔から飛び降り、アメリカで銃乱射に巻き込まれる、と言った無茶苦茶なプランは百栄師匠らしいブラックユーモアで好きだ。

国内でもいいのではないか、ということになり、東尋坊断崖絶壁、青木ヶ原樹海、などが候補にあがる。死神の「おせーてやろーか」の囁きも可笑しい。自殺キットとして、青酸ナトリウム、練炭、トリカブトなどのセットを勧められるが…。別に旅行社に頼まなくてもいいじゃないか、というか、旅行社を儲けさせるくらいなら、生きていた方がいいんじゃないか。死ぬのはいつでも出来ると男は思うようになる。最終的に自殺を思い留まるというのが、この噺のミソだ。

帰宅後、配信で「道楽亭寄席 立川寸志・柳亭信楽二人会」を観ました。これは24日に開催されたものだが、ツイッターで信楽さんが「イワヌマン」と「出生の秘密」という、まだ僕が聴いたことのない新作落語二席を演っているのを知って、アーカイブを事後購入した。

「庭蟹」立川寸志/「出生の秘密」柳亭信楽/中入り/「イワヌマン」柳亭信楽/「井戸の茶碗」立川寸志

信楽さんの一席目「出生の秘密」。父親が亡くなる前に遺言を遺す、なにやら息子のシゲルには出生の秘密があるという。病院のベッドにシゲルは駆けつけると、「家の苗字はマキタ、なのに会社の名前はマキヤマエンタープライズ。実は共同創業者にヤマダという男がいて…」。どうやら、シゲルは父親の本当の子ではなくて、そのヤマダの子だったことが判明するが…。

シゲルの知りたいのは、そんなことよりも、マキタ家の全財産が入っている金庫を開ける番号。だが、出生の秘密だけを言い残して、父親は死んでしまう。と思いきや、父親の身体を揺り動かすと生き返る。そこで、金庫の番号を聞き出そうとするが、また出生の秘密を繰り返して、死んでしまう。だが、また息を吹き返し、金庫の番号をと思うが、出生の秘密を言って死んでしまう。それを何度も繰り返す。

途中、父親は書斎にある絵の裏に隠し部屋があってエッチな本が入っているとか、自分の使っていたゴルフクラブには松山英樹のサインがしてあるとか、不要な情報を言うだけで、肝心の金庫の番号を言わないで苛々するばかり。さらには母親が霊媒師だと言って、父親を蘇生するという場面もあったり、シゲルが兎に角、遺産を巡って、出生の秘密なんかどうでもよくて、バタバタする感じが実に愉しい。

二席目の「イワヌマン」は宮城県岩沼市でご当地落語を創作したときの噺。岩沼市の特徴は「話題性がなくて、住みやすい」。その魅力に惹かれて移住してきた家族が主人公だ。毎日が「話題性なく、何事も起きずに」過ぎることを願う父親のポリシーが皮肉で良い。

日本三大稲荷の竹駒神社は話題性があるから行かずに、国道4号線と6号線の交差点の交通量の少なさを家族で見にいこうと提案し、出掛けたが…。そこに、全身黒タイツの仙台の闇組織ブラックターンが現われて、息子を誘拐しようとする。目的は子どもの脳を空にして、その中に銘菓「萩の月」を埋め込み、ツッキーに改造するというもの。

そんなとき、正義のヒーロー、イワヌマンが助けにやってくる。話題性がないことが売りの岩沼市は、この存在の広報を控えていたのだ。助けてもらうためには、様々な書類を作成し、審査しなければならないが、そんなことは言っていられない!と父親は息子を助けてほしいと頼むが…。

ご当地落語と言っても、岩沼市長が喜ぶような内容にしないところが、信楽さんらしくて、とても愉しい高座であった。