日本浪曲協会二月定席初日、そして鈴本二月上席初日夜の部

木馬亭で日本浪曲協会二月定席初日を観ました。コロナの感染者も日毎に減っていき、5月の大型連休明けには新型コロナは「2類」から「5類」にランクダウンするという。それに並行するかのように、平日でも浅草雷門周辺はコロナ前の賑わいを取り戻しつつある。だが、寄席の集客はまだまだ厳しいというのが実感だ。

「出世定九郎」三門凌・馬越ノリ子/「四千両白浪草紙」港家小そめ・玉川祐子/「牛若と弁慶」国本はる乃・広沢美舟/「二十年目の恩返し」花渡家ちとせ・馬越ノリ子/中入り/「弁天小僧」広沢菊春・広沢美舟/「光秀眉間割り」神田真紅/「湯島の白梅」富士琴美・水乃金魚/「安兵衛の騙り妻」三門柳・広沢美舟

三門凌さん、前座15分の持ち時間で中村仲蔵ができる!すごいなあ。編集能力は勿論のこと、その意気が良い。はる乃さん、気持ちの良い伸びやかな声。五条大橋での牛若丸と弁慶の一騎打ちの絵がくっきりと見える鮮やかな高座だ。菊春さんも、弁天小僧菊之助と南郷力丸のコンビが弱きを助け、強きを挫く活躍ぶりに思わず拍手した。

この日、興味深かったのは三門柳先生の「安兵衛の騙り妻」。堀部安兵衛の家に女中奉公していた女が尼僧となり、悪い男と結託して、「私は安兵衛の未亡人だ」と泉岳寺に日参し、住職もこれを信じたことから評判となり、悪党男女コンビが大儲けをしたという話。

だけど、そこは浪曲で、偽未亡人は安兵衛の供養をしているうちに純粋な心を取り戻し、罪悪感に駆られる。男はどこまでも悪党で他に若い女を囲って、儲けた金を持って逃げてしまう。それでも、偽未亡人は尼僧として93歳の生涯を貫き通したという、心洗われる結末になっているのが良いと思った。

夜は鈴本演芸場に移動して、二月上席初日夜の部に行きました。主任は鈴々舎馬るこ師匠。開演直後はツ離れしない状態だったが、終演時にはお客さんは15人に。コロナで離れたお客さんが戻って来ない。でも、きょうのような良い内容を継続していれば、やがて戻ってくると信じるしかない。

「牛ほめ」鈴々舎美馬/「松竹梅」柳家あお馬/ジャグリング ストレート松浦/「猫と金魚」林家しん平/「締め込み」古今亭菊志ん/紙切り 林家八楽/「黄金の大黒」柳家小せん/「権兵衛狸」春風亭柳枝/中入り/漫才 ロケット団/「大仏餅」蜃気楼龍玉/奇術 マギー隆司/「姉妹仇討白石噺」鈴々舎馬るこ

あお馬さん、素直な芸風が良い。手本を見せる隠居の謡の調子が実に堂に入っている。それと、竹さんが「俺はガキの頃から常磐津、新内、義太夫と習っているんだ」と自慢するだけあって、本寸法な「何蛇にな~られた」。

ストレート松浦先生、踊る傘が相変わらず楽しい。しん平師匠、亡くなった平井の圓蔵師匠から習ったとか。「銭湯の煙突の上に金魚鉢を置いて双眼鏡で見ればいい」「山本五十六じゃないんだから!」。このギャグは必ず入れるように言われたそう(笑)。菊志ん師匠、客席を見て、「まずLINEのグループを作るところから始めましょうか」。

八楽さん、早くも貫禄。ハサミ試しの文金高島田の花嫁姿は見事な出来。注文で、「節分」と「藤井聡太」をしっかり漫談しながら切るのは流石。小せん師匠、良い声。柳枝師匠、狸の頭の毛を散髪する仕草が愉しい。

ロケット団、流行語大賞は「袋は要りません」「また増えてきましたね」だろ?言い得ている。龍玉師匠、先代文楽を思い出させる高座。こういう逸品に出逢えるから嬉しい。マギー隆司先生、小道具の「写ルンです」はまだ売っているんだ!

馬るこ師匠、大変珍しいネタに感激した。去年9月に文楽公演で「碁太平記白石噺」を第1部と第2部の通しで観たが、それを落語として演じているのにビックリ!父親の敵を討つために、宮城野・信夫の姉妹が由井正雪の道場に入門するというストーリー。

女性が武術をストレートに習得しても駄目で、行儀見習いをしている内に身に付くテクニックが仇討につながるという正雪の考えが素晴らしい。剛には剛で対するのではなく、柔の心構えで臨みなさいという教えに頷く。

姉の長刀、妹の鎖鎌。父が討たれてから6年後、正雪に入門してから3年後に御前試合が正式に開かれ、見事仇討本懐を遂げる結末が気持ち良い。

この噺を馬るこ師匠は現代の父親が娘2人をどう躾したらよいのかを隠居に尋ねる構造で構成しているが、これは現代社会にも通用するメッセージだと受け入れることが出来るのが素晴らしい。