【美の壺 語りの芸術・講談】③時代を読み、伝統をつむぐ

NHK―BSプレミアムの録画で「美の壺 語りの芸術 講談」を観ました。(2020年4月10日放送)

この番組には、貞水先生のほかに、もう一人、放送された年に亡くなった講談師が出演している。上方の旭堂南凌先生だ。講談にまつわる浮世絵コレクターとして登場している。

講談のはじまりは、江戸時代初期。太平記などの読み物に注釈を加え、語る辻講釈に由来している。幕末から明治初期、人気の講談を題材にした浮世絵が多く出版された。

南凌先生が語る。

芸能はお互いに刺激し合っている。講談の台詞を言うときに、歌舞伎の台詞の言い方も勉強になる。昔は歌舞伎の役者さんは講釈場によく来ていた。講談の芸能の語り方、台詞の言い方を勉強した。

南凌先生が最も大切にしているのが、明治7年に出版された浮世絵集「講談一席読切」。講談の一場面を歌舞伎俳優が演じているように描かれている。

講談が人気があったという証拠。幕末から明治にかけての一番の娯楽は講談だった。今で言うと、小説があって、それが映画になって、今度はテレビドラマになるような。

講談人気を支えたある講談師の演目が多くの浮世絵に描かれている。松林伯圓。様々な事件を創作講談にした。

昔の人は事件の全貌を知るのに、よく講釈場に通っていた。実際にその現場に行って調べたりする人もしたが、新聞などから色付けしていく。その色付けの仕方が伯圓は上手かった。

時事ネタを題材にした伯圓の講談を、速記者が記録し、本や雑誌が出版された。創作講談は様々な形で人気を博していった。

南凌先生が言う。

語る内容は常にその時代に合わせていく。伝統のスキルを生かしながら、現代に合うようなストーリーを描き分けていくことも大事。

時代を読み、伝統をつむぐ、ということか。

神田すみれ先生は創作講談に力を入れている女流講談師だ。一万円札の顔になる渋沢栄一を取り上げ、講談を創ることにした。

すみれ先生が言う。

すごい人ですからね。日本人の持つ良さ、心を大事にした。人のために一生懸命に尽くした。

近代日本経済の礎を築いた渋沢栄一を題材に、1時間近い講談を創る。

娯楽として飽きさせないために、会話を中心に描こうと思います。渋沢栄一を知らない人、講談を初めて聴く人、皆さんが初めて聴いてもわかるように創りたい。

着想から3カ月。完成した「渋沢栄一物語」をお江戸上野広小路亭で披露した。栄一が岩崎弥太郎から一緒に事業をやろうと誘われる場面。二人に生き方の違いを台詞に込めた。

どうです、あなたの英知と、このわしの財力をもってすれば、日本最大の財閥ができる。手を組んで一緒に仕事をやりませんか。

お断りします。

なぜだ。今の実業界はこの岩崎が牽引している。

いえ、違います。富を独り占めにするということは大変な問題です。

君はこの岩崎をばかにしているのか。

いえ、岩崎さん。あなたと話し合っても、平行線です。生き方が違うのです。

江戸時代も、令和の現代も、時代を切り取った講談が生まれていることを嬉しく思う。