【プロフェッショナル 数学教師・井本陽久】答えは、子どもの中に(1)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 数学教師・井本陽久」を観ました。(2020年1月7日放送)

数学教師・井本陽久さん(50)。全国から視察が殺到するカリスマ教師だ。超進学校から児童養護施設まで、いくつもの教室を飛び回る。生徒に魔法をかけると称される。学力、才能、一切興味なし。にもかかわらず、エリートも落ちこぼれも、生き生きと輝き、伸びていく。

保護者が言う。

息子の良い所をいろいろと拾ってくれて、伸ばしてくれるような気がするんです。井本先生のところだったら、息子は何とか生きていける。変な先生さとは思いましたよ。

生徒が言う。

井本先生の授業が面白いから来ている。学力を上げようと思って来ているわけじゃない。

教えなくても人は育つ。育ての極意がここにある。「答えは子どもの中に」。数学教師・井本陽久さんを追ったドキュメンタリーに涙した。(以下、敬称略)

鎌倉にある私立栄光学園。完全中高一貫の男子校。井本はここの名物教師だ。朝8時、まず向かうのは職員室ではなく、生徒たちのいるところ。わざと遠回りしては、何かと生徒にからんでいく。あだ名はイモニイ。スキンシップが大好きな少年のような50歳だ。

井本の学校は東大合格者数が常に全国トップ10の超進学校。卒業生には世界的な学者や宇宙飛行士もいる。井本は28年間、ここで数学を教えてきた。

この日は中学2年生の授業。いきなり、不思議な図形を黒板に描いた。

この円と、この円と、この直線に接する円をすべて書いて。

井本は教科書を全く使わない。ノートを取らせることも一切ない。最低限の基礎を教えた後は、オリジナルの問題を出し、見守ることに徹する。

自分が兎に角、授業で一番大切にしていることは、できるできないじゃなくて、理解する理解しないじゃなくて、今考えているかどうかということだけ見ているので。そうすると、授業は変わりますよね。少なくとも、ずっと黒板で盛会をずっと書く授業って、何も考えていないわけだから。

生徒たちが自分の頭で考え始めた。この様子を井本はずっと観察する。

内側、外側、いいっすね。

相槌を打ち、そっと背中を押す。

5個以上見つかった人!

短い言葉でやる気に火をつけていく。教師として井本が目指すのは、ただひとつ、“ぷるっ”とさせる。

びっくりさせるとか、喜ばせたい。それこそ、ぷるっとさせる感じですかね。その問題に向き合っているときに、僕がいるのが全然気づかないくらい夢中になっちゃうみたいな、分かったみたいな、ここはこうだみたいな。言っていることは全然間違っていても、その子はやったみたいな、ほとばしっているみたいな、そういうのを作りたい。兎に角、目の前の子どもたちをぷるぷるさせたいだけなので。

授業開始から10分。さらに火に薪をくべる。

ちなみに言うと、今のところ6個じゃん。もっとあります!

生徒たちは好き勝手に席を立ち、夢中になる。

つづく