【柳家喬太郎 新作も昔は古典だった】「鰍沢零」
鈴本演芸場で「新作も昔は古典だった」六日目を観ました。(2021・07・16)
金原亭駒平「道灌」/柳家小んぶ「あくび指南」/ぺぺ桜井/三遊亭白鳥「山奥寿司」/柳家さん喬「締め込み」/林家二楽/柳家わさび「ぼたもち小僧」/入船亭扇辰「団子坂奇談」/中入り/ニックス/蜃気楼龍玉「鹿政談」/ダーク広和/柳家喬太郎「鰍沢零」
「鰍沢」の前日談である。古典として昔から存在していたのではないかというクオリティの高さである。月之斗花魁(お熊)と伝三郎の出会いから心中のし損ないまでを描いた。なるほど、うまくつながる手腕はさすが喬太郎師匠だ。
伝三郎は高麗屋という生薬屋に奉公しているが、その仕事ぶりから間もなく出店を旦那に出してもらえる算段になっている。商売仲間と吉原に繰り出し、熊造丸屋に行って、月之兎花魁と出会う。
二人は初回から惚れ合う。が、悟られるといけないので、名指しはしない。伝三郎は、辛抱強く他のお客をすべて済ませてからやってくる月之斗を待つ。月之兎も最後に伝三郎の部屋に行くのが楽しみという仲になった。
ここで、心中のし損ないになる原因がわかる。それは高麗屋の若旦那、つまりは跡取りが月之兎花魁にご執心で、一カ月後には身請けする手筈が整っているのだ。「それでいいんでありんすか?」。月之兎花魁に迫られ、伝三郎も覚悟を決める。
吉原では御法度とされた「足抜け」だ。二人は肚を据える。心変わりをしない約束をする。どこへ逃げようか。生まれ故郷だと見つかる可能性がある。どこか知らないところがいい。とは言っても、まるで不案内な土地は困る。遠縁に叔父みたいな人がいる。甲州の身延山の傍。そこへ私と逃げておくれ。
約束の日にちを決めた。場所は吾妻橋。どこからか、祭囃子が聞こえてくる。月之兎花魁ことお熊は祭りの日に吉原に売られてきた。そして、祭りの日に足抜けをする。これも何かの縁かもしれない。「あなたがここにいるだけで、もうそれだけで、私はいいんです」。お熊の言葉を合図に逃げようとしたが…。
その現場に現れたのは、高麗屋の旦那。「様子がおかしいと思った」。(若旦那との)婚礼も支度も整えたのに、よくも恥をかかせたな。落とし前をつけてやる。「見逃してください」と頼むが、にべもない。お熊が可愛がっていた猫(名前はお熊という)がニャーと鳴く。「その猫をお熊と思って諦めろ」。
伝三郎は大川へ飛び込む。続いて、お熊も大川へ身投げする。心中である。この二人は死んだとものと思ったが…。運命のいたずらが綾なす物語は、「鰍沢」へと繋がっていく。