弁財亭和泉「銀座なまはげ娘」スキルを磨く上昇志向を持ちながら、ダメンズを見抜けない女の性が我々現代人の共感を呼ぶ。
国立演芸場で「弁財亭和泉真打昇進披露」を観ました。(2021・05・18)
都内4軒の定席の披露目が終わり、最終ラウンドの国立演芸場のこの披露目で、最後となる10回目の口上で新真打和泉の師匠である歌る多は「謙虚でいなくていい」と言った。これまでの口上に並んだ人たちが美辞麗句を並べて褒めた。それに乗っかって、どんどん勘違いをしなさい、と。そして、「これで、この子に小言を言うことから解放される。ようやく私の責任は終わった」。小言を言い続けることはつらかった、だが、我慢して聞く和泉の方がその10倍も100倍もつらかったろう、と。「旦那の小八さんが古典、和泉が新作。夫婦手を携えて進んでいってほしい」とも。これからは弁財亭として独立して活躍してほしいという意味であろう、「うちのベンちゃんをよろしく」という表現が良かった。
国立の披露目は一門の師匠たちが並ぶ。歌武蔵師匠は「ウイットに富んで、センスのある新作で頭角を現している」と評価し、押せば命の泉湧くと洒落た。圓歌師匠は「もう鉱脈を当てている。打っ棄っていても大丈夫」と太鼓判を押し、あとは情熱を継続することだと付け加えた。歌司師匠は植物のベニカナメに喩え、やがて濃いグリーンになることを期待していると言った。
三遊亭志ん吉「真田小僧」/三遊亭歌武蔵「支度部屋外伝」/ロケット団/三遊亭圓歌「かあちゃんのアンカ」/三遊亭歌司「小言念仏」/口上/三遊亭歌る多「金明竹」/アサダ二世/弁財亭和泉「銀座なまはげ娘」
7年間、会社員をしてから入門した和泉師匠らしい新作で有終の美を飾った。よくマクラで「総務部人事課から噺家に転職した」という笑いを入れるが、「転職」の悲哀をユーモアに包んで、なおかつ女性目線の味付けをしているところに、この作品の魅力があるように思う。
高級ジュエリーショップに就職した主人公が、バイヤーとしてのスキルを磨くためにパリに留学しようと、退職を決断。だが、その留学資金を当時付き合っていた男に持ち逃げされてしまって、留学どころか、日々の生活費にも困って応募した秋田ふるさと館の「日給1万5千円の手軽なアルバイト」が巻き起こす騒動記だ。
さらなるスキルアップを目指す上昇志向を持ちながら、一方でダメンズを見抜けない女としての隙が、女性だけでなく、現代を生きる我々の共感を呼ぶ。だけれども、バイトをちゃんとやらなくちゃと、店長から渡された教則DVD「はじめてのなまはげ」を観ながら練習をする主人公の一生懸命さがユーモアに包まれて、共感だけでなく随所に笑いが起きる。
ピンポイントの笑いに捉われた作品でなく、主人公が元職場には内緒にしておきたい、この「なまはげアルバイト」が最終的にばれてしまうストーリー展開の上手さも光っている。何と言っても、高級ジュエリーショップの外国人社長が日本の伝統文化好きで、なまはげを大いに気に入っているという伏線が爆笑の落ちにつながっているのが、和泉師匠の面目躍如たるところだ。
それこそウィットに富み、センスのある笑いの地雷を仕掛けながら、現代社会らしい人間模様を描いていく弁財亭和泉の新作魂は今後、多くの名作、快作を生み出し続けることだろう。本当に目が離せない。