【SWITCHインタビュー 松任谷由実×坂東玉三郎】「人の心を動かす」最高峰のクリエーターの目指す山登りの目的は同じ(下)

NHK―Eテレの録画で「SWITCHインタビュー達人達 松任谷由実(シンガーソングライター)×坂東玉三郎(歌舞伎俳優)」を観ました。(2017年11月4日放送)

きょうは番組後半、ユーミンのスタジオでお二人が対談した部分についての記録と感想です。

ユーミンはこれまで他のアーチストに提供したものを含めると500の楽曲を作ってきたという。自分の歌だけに絞ると、380曲。どんなときに曲は生まれるのか。

夜寝ようかなと思うぐらいのとき、脳がそういう状態になるんです。傍に小さなキーボードを置いておいて、ボイスレコーダーに入れておく寝ることもあります。作詞は机に向かってウンウンうなる。でも、散歩しながらアイデアが湧いてくることもある。だいたい、曲が先です。それに合う言葉というか、リズムも必要ですし、言葉にする前にその歌の世界観を持っているんですよ。カオスみたいになって。それを通訳するように、歌詞になると、本当に快感があります。ステージに立つよりずっと嬉しいです。世界中誰も知らないのに、自分の中でアイデアが孵化した瞬間は嬉しい。

玉三郎が「アイデアが出るときって、水に関係があるんです。シャワー浴びているときとか、湯船に浸かっているときとか」と訊く。

私の歌詞をある書家の方が書いていたら、「さんずい」が非常に多いと言われて。「滲む」とか、「流れる」とか、「浮く」とか。移り行くものが、水に関係あるのかもしれません。

ユーミンは6歳でピアノを習い、11歳で三味線を習った。18歳の大学在学中にレコードデビューをする。オリジナルアルバムは38枚。3000万枚の売り上げは、女性アーティストとしてはトップだ。

玉三郎が「実家が呉服屋さんなんですね。意外と日本の味っていうか、日本が近くて創作していることは知らなかった」と言うと、「詩をつくるときには日本の美しさが出るようにしている」と答えるユーミンが印象的だ。

「やさしさに包まれたなら」という曲があります。「目に映る全てのことはメッセージ」という歌詞をすごく評価してもらえて。音律に乗せてフレーズを言ったときに、いろんなことを伝えられる。それをもし文章にしたら、膨大になってしまう。そこが音楽の立体的な行間にニュアンスが出たり、「花」と言ったときに、即物的な花じゃなくて、色々なことが想像できる。そういうところを音に乗せながら、広げていきたいなと思っています。

自分の(楽曲)に似ないようにする。手癖が出ているなとか、そこは主人(松任谷正隆)がプロデューサーなので、あそこにあったぞ、とか指摘してくれることもあります。主人は私の曲の中に演出の情報はあると言ってくれる。それを標本化し、ちゃんと整理してくれ、アレンジしてくれる。それは本当にありがたいことです。

クリエイティブな意味での、ここは譲れないという葛藤はありますが、だいたいは私が折れちゃう。ゼロを1にした段階で、どういじられても変わらない。歌手の場合、100%は声で運命が決まっている。ギフトで。そこを逃れたいなとは思いますけども。でも、それによって曲を作っているので。

ユーミンのコンサートは演出が凝っていることでも有名だ。99年から3年間おこなった「シャングリアツアー」は華やかなステージで一世を風靡した。ユーミンが振り返る。

いい時代に恵まれました。経済的にもね。世界的にもあんな時代はもうこないと思います。主人とギャンブルができる。今やって成功させれば、次のステージに行ける。

――ショーと言う意味では歌舞伎も江戸時代のショーでした。

歌舞伎って形態じゃなくて姿勢だと思うんです。ロックとかもそうだと思います。どうあるか、よりも、どうなっていくか。お客さんが夢のような世界を広げなきゃいけないし、でも、今は(経済的に豊かだった時代と比べると)時々悲しいときもある。もう、その段階ではなく、牛乳瓶に活けた1本の野の花がすごいカサブランカより豊かかもしれない。そういう魔法をかけるのが、音楽の役目だと思います。

三次元的に物量でお金をかけて、設えをすごくしたということではなく、受け手のイマジネーションにどれくらい訴えられたか、それに勝るものはない。五次元くらいいけちゃう。縦横、高さ、時間、過去未来、イマジネーションっていう感じで。

ユーミンは2012年から新たな試みを始めた。ユーミン×帝劇。ユーミンの歌詞を基にして作られた物語を俳優が演じ、その劇中でストーリーテラーとして、ユーミンが歌う舞台だ。

宇宙の片隅でめぐり遇えた喜びは うたかたでも身をやつすの

12年に上演された第3作「朝陽の中で微笑んで」は、500年先、時空を超えて巡り合う恋の話だ。SFである。ユーミンは語る。

宇宙とか、永遠とか、日本のポップスに初めて(私が)取り入れたと思っているんです。

「VOYAGER」や「ジャコビニ彗星の日」などの楽曲を見ると、それが如実にわかる。

そして、自分自身の存在について、ユーミンはこう語る。

ダークなものや、あやしいものを演じられても、生きている喜びが生まれると思う。私、ブラックユーミンなんですよ。カワイイ!と観客から声があがると、「だってユーミンだもん!」。私は意識してないけど、私自身は「ユーミンの奴隷なの」って言っている。ステージに乗ると、自分では意識せずに、そうさせられちゃう。

番組の締めで玉三郎とユーミンは期せずして自分の役割を語った。

玉三郎は言う。

目の前の山を全力で登ってきた。違った人生が歩めたかというと、そうでもない。目の前のことを一つ一つやるしかなかった。越えられない山は山を認識できないから。全力で登れば越えられるんですよね。その都度、目の前に山が現れる感じですかね。振り返ってみると、山だったんだと。だから、そうやって歩いているうちに、何かが現れてきて越えなきゃいけないのかとなって、まだまだと思っているうちに、峠過ぎていたり、頂上に上がっていないのに、下りているみたいなこともあるんでしょうね。

ユーミンは言う。

詠み人知らずの歌を作りたい。「さくら さくら」は誰が作ったのか、知らないけど、皆が知っている。それがスタンダードナンバーになることだと思います。演劇は持ち運べないけど、歌はモバイルなんですよ。その人が思い出だと思った歌は、その人のものなんですね。その人の心のスクリーンにいろんなものが映せるから、そういう歌を作りたいと思います。

玉三郎は歌舞伎、ユーミンはポップス。芸能ということでは同じだが、全く異ジャンルのアーティストだと思っていた。だが、お二人はともに人の心を動かすクリエーターだということを教えられた。よく考えれば当たり前のことなんだけど、「人の心を動かす」って素晴らしい仕事だなあと思うと同時に、いやちょっと待てよ、日本人の多くの働く人々は「人の心を動かす」仕事をしてやしないか。だとするならば、この二人とは立つステージは違うけれども、同じ志を持って生きていけたらいいし、いかなければならないのではないか。そう、思う。

おわり