立川談洲「大工調べ」矛盾だらけの棟梁の啖呵に対し、与太郎の冷静沈着な理詰めの説得で問題解決!

上野広小路亭で「立川談洲独演会」を観ました。(2021・04・18)

談洲さんの「大工調べ」に思わず、膝を打った。前座時代に師匠から習っていいよと許可が出て、稽古をつけてもらってから、2度ほど高座にかけたが、納得がいかず、そのままにしていたネタだそうだ。今回、3年ぶりの蔵出しだそうだが、何と言っても、与太郎の棟梁に対するツッコミが鋭く、面白かった。

この噺、まずお白州までいく噺家が少ないが、それゆえ、大家に対してブチ切れた棟梁がまくしたてる啖呵に力点を置く演者が多いように思う。でも、落語は早口言葉選手権でもなんでもなくて、その啖呵がスラスラと言えたところで、噺自体が面白くなかったら、どうしようもない。

その点、談洲さんの力点は、棟梁が啖呵を終えてから、「与太郎!お前も毒ずけ!」と促し、与太郎が今の啖呵の盲点を論理立てて並べるところにある。そして、その論理が抜群に面白い。

大前提として、「大家さんは頑張って、ここまで来たんだよ」と指摘する。そうだ、六兵衛さんが亡くなったあとに、後家となったおかみさんに親切にしてやったから再婚できたのだ。また、町役人になるのも、そんなに簡単ではないはずだ。お上の信用や長屋連中の信頼があるからこそ、大家として長屋の守りを任されているわけで、そんなに大家は悪人ではないということだ。

おかみさんのことを悪く言うのもおかしい。後家になったら、心細い。寂しい。誰か良い人がいれば、一緒になって所帯を持ちたいと思う気持ちは至極当然のことだ。誰かと再婚したいと思う願望を否定するのはおかしい。寧ろ、いい人に巡り会えてよかったね、とさえ思う。

それから、これは店賃を払わない与太郎が悪いのだが、そのことは置いておいて、与太郎が「大家さんは家賃を請求するのは当たり前」と言う与太郎の台詞も当然のことである。だから、与太郎は「払わない俺が悪いんだ」とまで言っている。棟梁としては与太郎を擁護しようとしたのかもしれないが、与太郎の言い分の方が正しい。

「たかが800負けてくれてもいいじゃないか」と棟梁が言った台詞も、与太郎は間違っていると指摘した。大家さんが「800負けてあげる」と言うのはわかる、とまで与太郎は言った。これもまた理屈である。

棟梁の「人情にすがった強引な要求」の矛盾点を、与太郎が理詰めで突いたおかげで、大家も納得する。「800は待ってやるよ。道具箱も邪魔だったんだ。持っていておくれ」。これで、与太郎に道具箱は戻ってくるわ、店賃不足分は待ってくれるわ、すべての問題は解決。めでたし、めでたし。お奉行様に訴える労力や費用を考えたら、こちらのほうがリーゾナブル。

細工は流々仕上げを御覧じろ、サゲも見事に決まった一席に拍手喝采であった。