【渋谷らくご 九月公演】お彼岸ですね。やっぱり、シブラクですよね(上)

配信で「渋谷らくご 九月公演」を観ました。(2020・09・11~15)

9月11日18時

古今亭志ん五「寄合酒」/古今亭文菊「唐茄子屋政談」

志ん五師匠、ロングバージョン!誰も金を持っていないところ、「火曜(かよう?)とか、水曜とか、木曜とかは、人を疑う言葉でいけねえや」っていうのが江戸前で好き。酒も調達するバージョンも珍しい。底の抜けた一升徳利と桶を持っていき、無尽蔵に酒が溢れるのがすごいね。鯛をさばく係が猫を追い払うのに「食らわす」の意味を取り違えて、猫に鯛をあらかた食べられちゃうのも可笑しい。隠し芸をやろうということにになり、「鍵屋と鍵屋が喧嘩して…」の5年かけて覚えた指の踊りも愉快。最後は「ん廻し」もついて、落語の愉しさを満喫。

文菊師匠、たっぷり。「大釜の湯気で育った若旦那」という表現がいい。転んで飛び散った唐茄子を売りさばいてくれる通りすがりの江戸っ子の心意気。「いい叔父さんだ。苦労はしなきゃいけない。苦労しないと人の痛みはわからないから」という言葉が沁みた。吉原田圃での売り声の稽古。「声が出るわけだ。長唄、小唄、稽古したもんな」。相当に道楽したことがわかる。♪止めても帰る なだめても カエル、カエルのミヒョコヒョコ とんだ不首尾の裏田圃 ふられついでの夜の雨~。芸に深みがある。

9月11日20時

柳家あお馬「夢屋」/入船亭扇辰「お血脈」/立川談吉「青菜」/瀧川鯉八「おはぎちゃん」

あお馬さん、自作。商売敵の呉服屋に負け、貧乏暮らしへ転落する主人公が、夢屋と称するばあさんから金を払って「いい夢」を見るが、それは夢だけのこと。麻薬のように「いい夢」を見ることで現実逃避するが、借金は雪だるま式に増えていく。そこで「悪い夢」を買って一念発起しようと試みると、女房も命も失う悪夢にうなされ…。サゲが鮮やかに決まった。

扇辰師匠、釜の中で五右衛門が唄う「タコの唄」で扇橋師匠を思い出す。♪きのう生まれたタコの子が弾に当たって名誉の戦死 タコの遺骨はいつ帰る 骨がないから帰れない タコのかあちゃん可哀想~。

談吉さん、独自の世界観。ところどころに不思議な遊び言葉のようなフレーズがちりばめられられているのがいい。カピバラが化けると、化けカピバラですな。シマウマで言うところのシマですな。デースキ?100番、100番。ダスキンですか。柳影?たけし軍団ですかな。

鯉八師匠、豊島園閉園のニュース。ワイドショーで号泣する女性客へのインタビュー、「人生のすべての思い出の中で一番」という表現。思い出にランキングをつけるのはいかがなものか、と。よしんばそうだとしても、その女性の飼っている犬は「絶対臭い」に爆笑!

9月12日14時

立川こしら「短命」/春風亭昇羊「二階ぞめき」/橘家圓太郎「厩火事」/隅田川馬石「宿屋の富」

こしら師匠、いい女とパチンコやめられない男の表現が絶妙。絵空事ではなく、本気に婿になったという気で考えなさい。いつまで経っても謎は解けない。それでもお前さんはおまんまを食うか?外で食ってきてお腹いっぱいと言うと、それなら連絡くればいいじゃない、無駄になっちゃうじゃないと叱られる!裸にになって横たわる、脇にお嬢さんが座る・・・土踏まずをはさんでもらってイク!それだ!

昇羊さん、大好きな喬太郎師匠エピソード。稽古をつけてもらうので、挨拶しに池袋演芸場の落語協会の芝居の楽屋を訪ねた。楽屋入り口の若い前座に入門志願者だと警戒、拒絶されないように自分なりの努力をした心理描写がけなげ。名前は知られていないだろうが、せめて同じ芸人、それも先輩なんだよオーラを出そうとするお気持ちを察する。

圓太郎師匠、ベテランの風格。お崎、その夫の新吉、仲人をした旦那の関係がより明確になった。旦那の家の二階に居候を新吉がしていて、旦那のおかみさんも髪結で、それで後輩のお崎が新吉に惚れたんだね。

馬石師匠、宿屋主人のキャラクターが最高。欲の塊で、一文無しに売った富くじが千両当たるように寝ないで「子の1365番」と願掛け。明け方にどこからともなく「当たるよ」という声が聞こえてきたと興奮しながら翌朝に報告しにくるところ、可笑しい!湯島天神の抽選会場の熱気の活写。「盛り上がりましょうよ!」という台詞、大勢の気が集まって、木札の集まった籠が揺れたという情景。その会場に居合わせる一文無しの男という演出も珍しい。当たり番号を発表する子どもの甲高い声に動転する男の様子も愉しい。

9月12日17時

柳家小せん「金明竹」/雷門小助六「禁酒番屋」/柳亭小痴楽「湯屋番」/蜃気楼龍玉「お直し」

小せん師匠、フルバージョン。お手本になるような高座。声がいい。小助六師匠、番小屋の役人が次第に酩酊していく様子が愉しい。小痴楽師匠、ちゃきちゃき!さて、その次はお湯屋の奉公人に住み込んで、普段気慣れしメリヤスのシャツ股引も穴だらけ、うちこむ薪のその傍で油断のならねえ窯番は黒く染まっておくんなせい、煙突小僧煤之助!

龍玉師匠、男のだらしなさと女の強さ。旦那の温情で救われたにもかかわらず、女郎買いと博奕に走る男の弱さ。堕ちるところまで堕ちて、決断した蹴転の商売に、女房は覚悟を決めて、客に「思ってもいないこと」を言って線香の本数を増やそうとするが。亭主はどうしても悋気をおこしてしまう、これも弱さ。「たまには喧嘩もしたいよ。殴られも痛くない。半殺しの目に遭ってもい」といった心にない台詞に「直してもらいなよ!」という声をどんどん荒げていく。挙句に「もうやめた!馬鹿らしい!」。でも、そこが夫婦。昔、一つの鍋焼きうどんを二人で食べた思い出を挟みながら、仲直りしていく情景にホロリ。

9月12日20時

柳家緑太「さし呑み」「佐々木政談」

二ツ目勉強会における大先輩からのアドバイス。「アンちゃん、まつ毛長いな」「まつ毛用のビューラーがあるわよ」・・・挙句の果てに「あんちゃん、カッコよすぎるよな」。文楽師匠とご一緒させていただいて呑んだときの、会話を繋ぐ気苦労。ある老舗の干物屋に共通項を見出したと思ったら、「あそこの店、まずいんだよな」。地雷を踏まなくて良かったと。