【渋谷らくご 八月興行】 ニッポンの夏、シブラクの夏(下)
配信で「渋谷らくご 八月興行」を観ました。(2020・08・14~18)
きのうの続きです。
16日14時回「告白コース」立川吉笑/「地べたの二人~愛しのロウリュ」玉川太福/「お菊の皿」古今亭志ん五/「守護霊」林家きく麿
吉笑さん、ソーゾーシーが全国ツアーをする資金を調達するためにクラウドファンディングを採用した流れで。自分の両親が19歳で学生結婚するために「産まれてくる子ども」の養育費をクラウドファンディングで3万人から2億円集めたことを知らされた息子の衝撃。当然、リターンがあって、「親戚になる権利」に2500人、その中から「結婚式に列席できる権利」が100人。その実施日も決めてある。息子が彼女の結婚を申し込む告白に立ち会える権利は村上さんが持っている!人生すべてがクラウドファンディングというタカシは…。
太福さん、サウナ大好きだからこそ、できたネタ。いま、ちょっとしたサウナブームでもあり。熱波師という特殊技能をもった人が滑舌悪く、何を言っているかわからないシチュエーションも愉しい。戸惑う齋藤、そして金井。♪旅ゆけば~と唸っている客もいて…。サウナ情報、詳しすぎ!(笑)
志ん五師匠、アニマックスで「進撃の巨人」にハマっていて、スキンヘッドの志ん橋師匠が巨人として向かってくる夢までみたとか。やりがいを感じて、「芸」に脂がのってきたお菊ちゃんが可笑しい。いいモノを食べているから、血色がよくてポチャポチャした以前とは違った色気が出てきたお菊に「お前さん一人の身体じゃないんだ!大事にしろ!」と客席から声がかかるなんて。
きく麿師匠、二段ベッドに寝ている兄弟というのも昭和の風景だなぁ。兄は「シュ、シュ、シュ」言って、守護霊を呼んでお願いごとをしたいと。正雀師匠、圓歌師匠、正楽師匠に似た守護霊、最高!弟はホテル経営が夢で、「泊まってみたいなニュー相模」とかいうCMソングを歌うし。もう、きく麿ワールド全開!
16日17時回「土産話」柳家花いち/「転宅」橘家文蔵/「崇徳院」柳亭小痴楽/「大山詣り」古今亭文菊
花いちさん、義理に渡すお土産が徐々にエスカレートするのが面白い。熱海、鬼怒川温泉の饅頭~仙台の牛タンと名古屋の手羽先~北海道のスープカレーと九州の焼きカレー~オーストラリアの木彫りのコアラとインドのムンバイの仏像!
文蔵師匠、間抜け泥棒が最高!ヌタは世につれ、とか言いながら夢中で食べちゃう。枝豆まであるのは「馬のす」が好きだから?お菊の掌に転がされ、メロメロのなる泥棒先生。翌日、約束通り再訪する途中で、赤ん坊の寝かしつけから小学生になった息子の作文まで妄想してしまう、哀しくも愉しい男の性。
小痴楽師匠、等身大の熊さん。喧嘩早そうで、江戸前。「いい女だったら、名前くらい訊くがいいやぁ!」。清水様の茶屋の羊羹を「いくつ食べたか」、若旦那に問い詰め、「5つ!」と答えさせるのもすごい。床屋18軒、湯屋36軒。三軒長屋のために「瀬をはやみ~」。
文菊師匠、こちらも喧嘩早そうな熊さん。決め式を破ったために坊主にされた腹いせに、長屋のかみさん連中を全部、尼さんにしちまう落語的面白さを余すことなく。ホラ熊、チャラ熊と呼ばれるだけのことはある。「冬瓜船がついたよう」という先達さんのセリフも好き。
17日18時回「寝床」柳亭市童/「質屋庫」入船亭扇里
市童さん、太田蜀山人の狂歌。まだ青い素人浄瑠璃黒たがり赤い顔して黄な声を出す。本編はもっとオリジナリティーがほしいところ。扇里師匠、芋羊羹を買ってもらった定吉のいい加減な説明に勘違いする熊さんがいい。竹筒にカラカラストン!酒を買わないようにして、帯を買う。それで、酒樽泥棒、沢庵泥棒、さらには下駄八足泥棒まで露見してしまうが、熊さんが憎めないのがいい。
17日20時回「次の御用日」三遊亭好二郎/「一眼国」立川笑二/「おちよさん」瀧川鯉八/「妾馬」柳家勧之助
好二郎さん、レアネタ。萬橘師匠で聴いたことがある。臥煙の藤吉が家主のお嬢様・糸に道で「アァーー!!」と襲いかかり、糸が記憶喪失になってしまう罪をお奉行様が裁く藤吉とのやりとりが面白い。僕の妻は「アァーー!!」を連呼するのが不快に感じると言っていた。お客様を選ぶ噺かも。
笑二さん、噺の再構築の上手さ。江戸時代の見世物小屋のことを調べたら、琉球民族が見世物になっていたことがわかり、途中で調べるのをやめたとか。香具師が六十六部をもてなし、何か珍しいモノを訊き出そうとするのが通例だが、これを逆転。六十六部は物乞いのように香具師を訪ねる設定がいい。で、元噺家で、双つ頭の蛇とか、上半身が馬で下半身が人間のケンタウロスならぬウロスケンタとか、「いたらいいですよね」って(笑)。
鯉八師匠、まずは好二郎さんの「アァーー!!」が不愉快だと表明。で、ドラマ「半沢直樹」が面白い!と。実はシーズン1は見ていないが、それでもついていけると。銀行員が悪と立ち向かう、講談や浪曲にあるような勧善懲悪が受けているのではないかと分析。ドラマにありがちな、恋愛の要素を入れるとかしないのがいいとも。
勧之助師匠、本寸法。殿様に気に入られた八五郎がふるまわれた酒に上機嫌になり、お鶴を発見し、「サンちゃん、黙ってろ!アンちゃんに気付いたら、呼んでくれよ」。でも、「お前が偉くなったからって、威張るんじゃないぞ」と兄貴らしいことも。「おふくろに初孫を一度でいいから抱かせてやってくれ」と殿様に懇願するのは、八五郎に人間の血が流れているからだ。
18日18時回「お見立て」春風亭昇々/「居残り佐平次」柳家小八
昇々さん、杢兵衛大尽の描き方に難。彼の声のトーンが高いからか、田舎の人間ののっそりした感じがなく、騒々しい印象を受けた。だから、喜助との駆け引きも喧嘩みたいに聞こえる。
小八師匠、吉原と四宿の違いについて。品川、新宿、千住、板橋は飯盛り女であって、花魁ではない。花魁はお高くとまっているが、飯盛り女は「この金でお前の自由を奪ってやるぞ」「や、やめてください!」という風情があったそう。佐平次が「無一文」を高らかに宣言した後、声のトーンが一段高くなり、幇間のようなお調子者に豹変する演出が光った。