異例の4派合同での真打および二ツ目昇進披露公演 「渋谷らくご」の温かさと機転に拍手喝采

オンラインで「渋谷らくご六月例会 2020上半期昇進 顔見世特別公演」を観ました(2020・06・12~16)

緊急事態宣言が5月25日に解除されたとは言え、新型コロナウイルス感染リスクが全くなくなったわけではなく、ステップ2、ステップ3へと移行して外出自粛が緩やかになりながらも、イベントなどはソーシャルディスタンスを保ちながら主催者や会場がそれぞれの判断で適切な対応をすることが求められる社会情勢は変わっていない。寄席も人数制限を設け、検温、アルコール消毒、マスク着用義務ほか演者の団体と協議を重ね、ガイダンスを作成して、6月1日から一部が再開した。

5月は無観客で配信という方針で5日間全11公演が行われたが、6月についてはキュレーターのサンキュータツオさん、ユーロスペースさん、ユーロライブさんなどを中心に多角的な観点で、慎重かつ前向きな運営を協議され、「2020上半期昇進 顔見世特別公演」と銘打った公演を実施することに。観客はソーシャルディスタンスを保つことを第一に、当日券のみ限定数販売、その上で公演を有料配信(12日のみ無料配信)、24時間アーカイブ対応することも決定された。

思えば、3月以降のコロナ禍で、東京の落語4団体の真打昇進披露、および二ツ目昇進披露はほとんどできず、落語芸術協会が5月上席から予定していた真打披露興行は秋に延期という決定がされた以外は、ほとんどが昇進はしたけれど、披露目ができなかった、芸人さんたち本人にとって、また演芸ファンにとっても大変残念な事態になってしまった。その気持ちを汲んでの、「渋谷らくご」さんの六月公演の実施は大変意義のあるものだと感銘を受けました。

以下、2020年上半期の昇進まとめです。

★真打昇進

落語協会 3月21日~たん丈改め三遊亭丈助・春風亭一左・歌太郎改め三遊亭志う歌・柳亭市楽改め玉屋柳勢・三遊亭歌扇

落語芸術協会 2月11日~松之丞改め神田伯山 5月1日~昔昔亭A太郎・瀧川鯉八・伸三改め桂伸衛門

落語立川流 4月1日~立川志の春

五代目圓楽一門会 4月1日~三遊亭鳳笑・三遊亭楽大

★二ツ目昇進

落語協会 2月11日~門朗改め橘家文太・柳亭市若・市朗改め柳亭市次郎・朝七改め春風亭朝枝 5月21日~彦星改め林家彦三・三遊亭ぐんま・柳家小はだ

落語芸術協会 3月21日~金かん改め三遊亭花金・あんぱん改め三遊亭小とり 5月1日~神田桜子・三遊亭遊七 6月21日~馬ん次改め三遊亭仁馬・春風亭昇りん・全太郎改め昔昔亭昇

落語立川流 4月1日~立川かしめ

五代目圓楽一門会 2月1日~じゃんけん改め三遊亭好二郎 6月1日~西村改め三遊亭好志朗

以上29人全員にお声がけして、出演が可能になった22人が高座を務めるという、ある意味、画期的な披露興行が実現した。拍手喝采です!

6月12日(金)18時

柳亭市若「まんじゅう怖い」春風亭朝枝「短命」柳家勧之助「寝床」

市若さん、「万物の霊長、わかる人、手を挙げて!」とか、「ねぇー、教えてってばぁ、教えておくれよ」とか、「10円饅頭、100個!」とか、何気ないフレーズが可笑しい。ひよこ饅頭の美味しい食べ方も。怖いものなんかない!という長さんのキャラクターが強がるんじゃなくて、「長短」の長七さんっぽい感じで、のんびりとしているのが特徴的で、面白かった。

朝枝さん、お嬢様の二番目の丈夫一式のお婿さん、真っ黒を何度も強調するのと、あだ名が「鉄下駄」というのには笑った。あと、お嬢さんの器量の良さを「弔いで会えるってだけで、俺の胸がときめくんだ」って、すごくいい。自宅に帰って自分の女房で試そうとすると、女房が「私だって、きのうきょうの女じゃないよ。やってみようじゃないか!」という台詞も新鮮!

6月12日(金)20時

柳家小はだ「やかん」立川かしめ「金明竹」三遊亭遊七「元犬」瀧川鯉八「やぶのなか」「にきび」三遊亭志う歌「芝浜」

小はださん、魚根問の部分が面白い。スルメイカ。群れをなして行動し、隊長が「家来たち、標的はあそこにある。準備はできたか?イーカ?前へ、スルメー」。サヨリを最初に食べたのが吉永、次が石川、そして国生。カツオは魚類にあらず、貝類だ、サザエの一種である、というのも可笑しいね。

かしめさん、マクラで相槌の「さしすせそ」。さすがですね、しらなかった、すごいですね、センスがありますね、そうなんですね。それを本編でも生かしているのがよい。仲買いの弥一の言伝、与太郎が「すげー練習したろ。でも、何言っているか、わからない」から可笑しい。おかみさんが「何か覚えていることはないかい?」に、与太郎が言伝を完璧に再生しちゃうのが大爆笑!「そういう類のバカだったのね。この子には絵か数学をやらせよう」という女房に、帰ってきた亭主が「いや、こいつには音楽が向いている」。もう、天才的!

逆におかみさんが間違えて書き留めているのも笑いに輪をかける。U字工事、掃除、三人揃って水戸黄門。以前、おじさん狂いだった義光。古田さんが「いやあ」と言ったそうですが、気が違ったそうで、うんち漏れ気味だそうで、ちょっとお琴を割って暮らしている。時代は子沢山、金明竹。沢庵と木炭と隠元を混ぜた小料理、兵庫のお坊さん、ヒョー!遊七さん、奇を衒わずに、しっかりと演じる姿に好感。

鯉八師匠、なんと二席!談志「業の肯定」、枝雀「緊張と緩和」と並べ、会話の妙である(歌丸師匠)の論に反旗を翻す一席としての「やぶのなか」は姉夫婦VS弟夫婦4人の会話に潜んだ心理が複雑に絡み合い、でも噛み合っていない。これが会話の妙かもしれないと、聴き手も混乱してくる楽しさがある。

志う歌師匠、芝の浜でタバコを一服しながら、海を眺め、お天道様が顔を出し、革財布を拾う場面を丁寧に描く、三代目三木助型。安藤鶴夫をともに磨き上げた「美学の芝浜」をベースに挑む無垢な高座に好感を持つ。3年間酒を飲むことを断ってきたのだからと拒む魚勝に、女房は「もう一つ、飲んでもらいたい理由があるんだよ。出来たみたいなんだよ」「子どもか?」。いいですねえ。

6月13日(土)14時

三遊亭ぐんま「初天神」三遊亭小とり「写真の仇討」柳亭市次郎「悋気の独楽」古今亭文菊「安兵衛狐」三遊亭歌扇「竹の水仙」

ぐんまさん、群馬県の物産展か!というような縁日の屋台が楽しい。玉こんにゃく、もつ煮、水沢うどん、ひもかわうどん…。中でも、「焼きまんじゅう」が気になる!醤油と味噌と砂糖で味付けされた喉が焼けるような甘さ、ネチョネチョした食感、饅頭だかパンだかわからなくなるパサパサ感、でも一度食べたら癖になるという!金坊がおねだりして泣く、サイレンのような大音量で息の長い叫び声は今も頭に残っているよお。

小とりさん、レアネタ!主君・趙襄子の暗殺を狙っていた家来・豫譲に対して、趙襄子はその背景に国のことを思う豫譲の熱い忠義心があったと解釈し、「これを自分と思え」と片袖を渡したという中国の故事。これに従って、惚れた女性に振られてた男が、彼女の写真を短刀で突き刺して鬱憤を晴らすという、これだけではあまりに説明的すぎて面白くないだろうが、そういうネタがあるということだけ知っていて、そのネタと巡り会えた!という喜びがあった。

市次郎さん、お妾さんの魅力が伝わらず。艶っぽさ、もしくは可愛さがあれば、「ああ、こういうところに惹かれて、旦那はこの女性を囲うのだな」と合点がいくのだけれど。無邪気な定吉は印象に残った。歌扇師匠、真っ直ぐな芸。おめでたい甚五郎モノ、いいですよね。

6月13日(土)17時

春風亭一花「雛鍔」林家きく麿「おもち」三遊亭楽大「粗忽の釘」柳亭小痴楽「磯の鮑」

楽大師匠、元調理士だそう。梅干しと鰻は食い合わせが悪いというのは間違いとか。お茶のお供にカリントウというのは良い組み合わせだが、注意点はカリントウを先に食べること。カリントウの鉄分が、お茶のタンニンによって効果を発揮するので、お茶を飲んでからカリントウでは意味がない!以前から、らくごカフェで「楽大の正座の限界」という落語会を長くやっていることは存じ上げていたが、実際、この高座でも「この体重だから、正座がきつい。最後までもつか心配」とおっしゃっていた。是非、ダイエットを!

6月13日(土)20時

柳家緑太「長い夏休み」「ねずみ」

6月14日(日)14時

三遊亭好二郎「代脈」神田桜子「五郎正宗孝子伝」橘家文太「珍宝軒」立川吉笑「ぞおん」林家正蔵「一門笛」

好二郎さん、初めて落語家になろうと思って聴きにいった落語がシブラクで吉笑さんの「ぞおん」が面白かったと。奇遇にも同じ回に出演できて感激している、とマクラで喋ったら、吉笑さんが「ぞおん」を演った!すごい!たまたま横の席にタツオさんが座っていたので、タツオさんが笑ったときに笑うようにして、「初心者とみられないように」していたというエピソードが初々しい。前座じゃんけん時代から、ユーモアセンス含め師匠・兼好さんによく似ている高座と思っていたが、そこをベースに大切にしながら、自分の言葉で喋っていることに大変なポテンシャルを感じた。

桜子さん、ハキハキとはっきりした読み方にすごい伸び代を見ました。講談は伯山先生が道筋を作っているように、聴き手が理解できることが一番大切だと思う。刀鍛冶の親方と弟子になった五郎の発端から、その才覚をメキメキと現わしていく様子が目に見えるようで、素晴らしい。実の息子を後継ぎにさせたい親方女房の嫉妬もどう絡んでいくのか…、次が聴きたくなる。応援していきたい。

文太さん、きく麿作品を北九州出身という利点を生かして自分の噺として確立している素晴らしさ。「八っつぁん、熊さん、ご隠居さん、人の好いのが九州のおじさん」と初っ端から掴む。♪たまには喧嘩に負けてこい~、福岡銘菓の「二〇煎餅(にわかせんぺい)」のCMソングからして、九州ぽっさが板についている。

6月14日(日)17時

田辺いちか「長門守木村重成最期」春風亭昇々「千両みかん」隅田川馬石「粗忽の釘」春風亭一左「締め込み」

一左師匠、予定していた真打披露興行50日間、5人で廻すので10回のトリをとるチャンスがあったのに、2回で終わってしまったと。DA PUMPのISSA、俳人の小林一茶と並び、日本三大「いっさ」(笑)。軍隊だと相当に偉い地位とも。本編は基本に忠実に、しっかりと。今後、自分の個性を打ち出してくと思います。

6月15日(月)18時

三遊亭鳳笑「胡椒の悔やみ」橘家文蔵「子別れ」

鳳笑師匠、レアネタが嬉しい。マクラで自己紹介的に自分の風貌についてのエピソードが可笑しかった。師匠は頬がこけて、目がギョロッとした顔。落語会の打ち上げで、若い医者さんが「教科書に載っていた甲状腺の病気の症状の図にそっくり」と食いつき、専門のクリニックへ行った。その道では屈指の名医が自分の顔を見ただけで、「はい、わかりました。投薬治療で大丈夫です」ときっぱり言う。

「一応、検査はしておきましょう」と、血液や尿やエコーの検査をしたら、さっきまで自信にあふれていた医師の顔が落ち込んでいる。「癌で言えばステージ4で、余命幾ばくもない」と宣告するような顔。ところが!「100人に一人の綺麗な甲状腺です。あなた、それ、何ですか?」「子どもの頃から、こういう顔です」「あなた、それを先に言わなきゃ」。結局、6千円を払って帰ったそう。

6月15日(月)20時

台所おさん「あくび指南」玉川太福「地べたの二人~おかずの初日」三遊亭丈助「老人前座じじ太郎」昔昔亭A太郎「紺屋高尾」

丈助師匠、お決まりのなまはげ小噺、そして白鳥作品。A太郎師匠、男前の風貌に似合った廓の純愛物語、良かったです。

6月16日(火)18時

三遊亭好志朗「野ざらし」林家彦三「初音の鼓」三遊亭花金「置き泥」

好志朗さん、きっりした芸。このネタは崩し方にセンスが問われると思う。彦三さん、こちらも基本に忠実。マクラの油揚げの話題が個人的には可笑しかった。受けなくても良いと貫くチャレンジ精神もいいと思う。

花金さん、マクラで祖父母地元佐賀の「モレボドン」という子どもを誘拐して袋詰めにする伝承の話から、聴き手を惹き付けている。これまでは泥棒に入ったはずなのに、気が弱いために住人に脅されて立場逆転という型しか聴いたことがなかったが、住人が「上等の旦那は本宅を大事にするから、妾宅(おめか)に入れ」と勧め、おめかから「昔の男に似ている。まぁ、よく来てくれた。座んなさい、泥ちゃん」と、ちょっとかわいい一面を出している。大師匠の先代圓遊、亡くなった師匠・金遊に受け継がれた型だそう。新鮮でした。

真打、二ツ目22人。それぞれに特徴や個性や長所を持っており、それをどう自覚し、どう芸に結び付けていくのか、そのための切磋琢磨はまだはじまったばかり。とても楽しみです。16日(火)20時の「しゃべっちゃいなよ」については翌日に。タツオさんはじめ、シブラク関係者すべての方たちに感謝!