壽二ツ目昇進 全太郎改メ昔昔亭昇 師匠・桃太郎の部屋に飾られている春風亭柳昇の遺影の思い出
新宿末廣亭で六月中席七日目を観ました。(2020・06・17)
前座から二ツ目に昇進するときの方が、二ツ目から真打に昇進するときよりも嬉しかったとおっしゃる噺家さんが多いですよね。前座時代に、公開番組収録などで何回かお世話になった昔昔亭全太郎さんが、六月中席から高座名を昔昔亭昇(せきせきてい・のぼる)と改めて二ツ目に昇進されました。おめでとうございます!公開収録のときには、お囃子さんから「全太郎さんはドラマーだから」と、その太鼓の腕を買われ、また、テレビやラジオの収録では本来は局のADがやるべき出演者の真打の方の身の回りの世話の気働きも率先してされて、本当に感謝しています。改めて、ありがとうございました。
本名、目黒昇(めぐろ・しょう)。1990年、福岡出身。就職の関係で上京した際に、観光で訪れた浅草演芸ホールで生まれて初めて生の落語を体験。そのときに印象に残った高座は、真打に昇進して3、4年目の一之輔師匠の「桃太郎」だったそうです。それで、落語って面白い!と思い、浅草演芸ホールに週末に行くように。そこで巡り合ったのが昔昔亭桃太郎師匠。メクリが「桃太郎」となったときに、「あっ、桃太郎という名前の落語家さんがいるんだ」と思ったそう。それで、その高座を聴いてみると、他の噺家さんとは違う魅力を感じた。「この人、素敵だなぁ」という人柄に惚れこみ、以来、桃太郎師匠が出演する寄席を3か月、追いかけ続けました。ちなみに、最初に出逢ったときのネタは「ぜんざい公社」だとか。
元々、喋るのが好きだったこともあって、噺家になろう!もちろん、桃太郎師匠の弟子になりたい!と決意し、池袋演芸場の楽屋の出入り口で出待ち。東京ボーイズの仲八郎さんと喫煙スペース(現在はない)でタバコを吸いながら談笑している桃太郎師匠の横で、話が終わるのをずっと待ち続けている青年が気になった師匠から話しかけてきたそうです。すると、目黒昇は土下座の格好をして、「弟子にしてください!」。池袋の楽屋口はお客さんのロビーとつながっているので、慌てた桃太郎師匠は「じゃぁ、話を聞こう」と言って、喫茶店に連れて行ってくれ、じっくりと話を聞いてくれた。2016年2月。目黒昇、26歳で入門。全太郎という名前がつき、6月に楽屋入り。
なぜ二ツ目昇進で、全太郎から昇になったのか。そこが気になると思いますが、簡単に言ってしまえば、本名が目黒昇だから。しょう、ではなく、のぼる、と読ませるわけですが、これにはあるエピソードがあるそうです。前座2年目くらいの頃、師匠のお宅の掃除をしていたときに、居間に飾ってある、ある人物の写真を指して、桃太郎師匠が「この人は誰だか、知っているよな?」と訊いた。前から師匠の大事な人の遺影だろう、とは推測していたけれど、わからないままだった。「いえ、わかりません」と答えると、「バカヤロー」と叱られた。桃太郎師匠の師匠・春風亭柳昇の遺影だったのだ。「お前は俺の師匠も知らないで入門したのか。俺はお前の本名が昇だったから、そこに縁を感じて弟子にとったのに」。で、次に「二ツ目になったら、名前を昇にするか」とポツリとつぶやいた。そのことを明確に覚えていると同時に、新作落語の神様的存在である大師匠の「カラオケ病院」や「日照権」などの音源を聴いて勉強した。「与太郎戦記」などの著作も読んだ。
だから、二ツ目昇進が理事会で決まったと、師匠から言われ、「おれは名前は全太郎のままでいいと思うが、お前はどうだ?」と訊かれ、全太郎は二つの名前を師匠にお伺いしてみた。一つは「桃八」。桃太郎師匠に惚れこんで入門しただけに、「桃」の一字がほしかった。そして、もう一つは「昇」。これは2年前の鮮やかな記憶があったから。すると、師匠は「桃の一字は真打までとっておこう。じゃぁ、昇にするか」と言っていただけた。そういう経緯があっての昔昔亭昇なのです。本名が昇だから、ではなく、大師匠・柳昇の「昇」。その意気が好きです。今後は新作にも力を入れて、古典と新作、自分にはどっちが合っているのか、両方できる噺家を目指すのか、色々と模索したいとおっしゃっていました。
昔昔亭昇、30歳。明るく陽気な高座が信条の二ツ目さんが真打までの長い道のりの中、どんな噺家に成長していくのか、応援していきたいと思います。
(昼の部)桂伸び太「出張」壽二ツ目昇進 全太郎改メ昔昔亭昇「新聞記事」できたくん/ハッポー芸 壽二ツ目昇進 春風亭昇りん「人生バラ色」神田鯉栄「山之内一豊 出世の馬揃」青年団/コント 春風亭愛橋「ナレーション」瀧川鯉朝「やかん」 中入り 北見伸/奇術 桂小文治「強情灸」柳家蝠丸「敗者復活戦」東京ボーイズ/漫謡 笑福亭鶴光「甚五郎出世」 中入り 春風亭柳若「壺算」古今亭今丸/紙切り 桂文我「紺田屋」三遊亭笑遊「替り目」ボンボンブラザーズ/曲芸 桂文治「お血脈」
(夜の部)春風亭かけ橋「出来心」春風亭昇吾「権助魚」山上兄弟/奇術 春風亭昇乃進「大安売り」壽二ツ目昇進 馬ん次改メ三遊亭仁馬「手紙無筆」山口君と竹田君/コント 玉川太福「恋する寅さん」 仲入り 三遊亭遊吉「紀州」桂小すみ/音曲 桂幸丸「ノロウイルス」神田松鯉「雁風呂由来」