桃花らくご 蝶花楼桃花「三年目」、そして国立劇場歌舞伎「本朝廿四孝―筍掘り―」

「桃花らくご~蝶花楼桃花独演会」に行きました。「湯屋番」「三年目」「お見立て」の三席。ゲストは太神楽の翁家勝丸師匠と丸果さん、開口一番は三遊亭歌きちさんで「元犬」だった。
「三年目」。自分の余命が幾ばくも無いことを悟った妻のいじらしさがもっと表現できていると良いのにと思った。早く死んで夫に楽をさせたい、だが愛する夫が後添えを持つことが気になって安心して目が瞑れない。この女性としての気持ちが肝の噺だ。
夫は優しい。伯父さん伯母さんが口喧しく後添えを持てと言ったら、仕方ないから持とう。だが、婚礼の晩にお前が幽霊となって出てくれば、それを怖がって二度と後添えの話は来なくなるだろう。
果たして百箇日を過ぎて、後添えを持った。だが、いつまで経っても先妻の幽霊は出て来ない。後妻もよくしてくれるし、先妻は成仏してくれたのだろう。そう判断して、夫は諦めて後妻との間に子宝にも恵まれた。
なのに、三回忌の晩にお前はなぜ出てくるのか!?夫はそうも言いたくなるだろう。その理由が出棺の際に頭を丸められたから、髪が生え揃うまで出るのを待っていたとは…。これも女のいじらしさと得心のいく高座になると良いと思った。
「お見立て」。我儘な花魁、喜瀬川が桃花師匠のニンに合っている。ただ、オーバーアクション気味の演技をもう少々抑えてもよいかなあと思った。
杢兵衛大尽を諦めさせる作戦として「花魁は死んだ」ということにするのも、乱暴ではなくて、杢兵衛を良い気持ちにさせる狙いがあるというところに、喜瀬川の悪知恵が働いている。ここ二か月ほど来なかった、どうして来てくれないのかしら、他に女でも出来たのではないか…。喜瀬川はそう思い詰めて、何も喉に通らずに、痩せ衰え、恋焦がれ死にをしたという筋立てはなかなかの狂言作者である。
「だから、あなたが殺したようなものですよ!」と、言われた通りに演技をする喜助は主演男優賞をあげても良い。廓の若い衆は客と花魁との間に入って、苦労が多かったのだろうなあ。被害者は寧ろ喜助で、そこのところを滑稽に描いているのが愉しかった。
国立劇場歌舞伎「本朝廿四孝―筍掘り―」を観ました。「廿四孝」というと、八重垣姫と武田勝頼の恋を描いた「十種香」がよく掛かり、知名度が高いが、「筍掘り」は戦後5回の上演にとどまり、直近では昭和52年、平成11年にいずれも国立劇場で上演されたきりだそうだ。
主人公は中村又五郎演じる横蔵、後に山本勘助なのだろうが、寧ろ中村錦之助が演じた慈悲蔵実は直江山城之助がキーマンのように思った。二人は兄弟で、実は武田方と長尾方に分かれ敵対する関係なのが面白い。
慈悲蔵は女房お種との間に生まれた峰松を桔梗ヶ原に捨ててしまう。お種には「養子に出した」と言うのだが、これは暮らし向きが苦しいために母親の越路への孝行として捨てたと粗筋には書いてある。だが、その後の展開を見るに、武田方への計略に使ったのではないかと推察できる。峰松には「甲州の住人 山本勘助」と記した札を付けていた。
それゆえに、武田信玄の執権である高坂弾正と妻唐織が峰松を拾い、これを囮(おとり)に使い、軍師として優秀だった山本勘助の二代目を武田家の軍師に迎えたいと考えて訪れるのだ。だが、慈悲蔵は実は長尾方の家来だから武田家の味方になることはできない。家の外に峰松を放り出す。だが、母親であるお種は我が子への未練があり、峰松を助け出そうとする。すると、手裏剣が飛んで来て、峰松は命を落としてしまう。そして、その手裏剣を投げたのは誰あろう、慈悲蔵だった。私は武田側に付くことはあありませんよということを暗に伝えたかったのか…。
一方の兄の横蔵は実は武田信玄側の人間であった。こちらは逆に長尾謙信側からのアプローチがあった。すなわち、長尾景勝が諏訪明神で横蔵に目を付け、母親の越路に話をつけ、横蔵に景勝の身替りになってほしいと頼む。越路はそのことを横蔵に言い渡し切腹をするように促すが、長尾側に与することになるためにそれはできない。そして、自分の右目をえぐり、人相を変えることまでする。
もう一つ大事なことがある。横蔵には亡くなった女房との間に次郎吉という息子がいるが、その世話を慈悲蔵の女房のお種にさせていた。だが、その次郎吉は暗殺された足利義晴の愛妾である賎の方との間に生まれた松寿君だった。将軍の御落胤を保護することで、武田家が有利に働くようにという考えだったのだろう。
このように兄弟が相反する目的をもって行動していることを、母親の越路はどこまで見抜いていたのだろう。雪降る中、慈悲蔵に裏の竹藪から筍を掘れと越路は無茶振りをする。だが、それは謎かけだった。竹藪には父親の勘助が伝える軍法の奥義が書かれた「六韜三略」が入った箱が埋まっていた。山本勘助という名跡を兄弟どちらに継承させるか、苦悩していたことも伝わる。
最終的に兄の横蔵が二代目山本勘助となり、弟の慈悲蔵は実は直江山城之助であることを明かし、兄弟は戦場での再会を期して別れる。ならず者だが、なぜか母に愛された横蔵と、孝行者なのに、なぜか母が辛く当たる慈悲蔵の対照的なキャラクターと武田vs長尾の対峙がオーバーラップするところが、大変に興味深い芝居だった。

