春風亭一花真打昇進披露興行「厩火事」「明烏」

上野鈴本演芸場の春風亭一花真打昇進披露興行七日目に行きました。

江戸曲独楽 三増紋之助/「初天神」柳亭市若/「釜泥」柳家三三/漫才 ニックス/「ぼやき酒屋」春風亭小朝/「時そば」柳亭市馬/奇術 ダーク広和/「壺算」春風亭一朝/中入り/口上/浮世節 立花家橘之助/「危ない」桂三実/「反対俥」春風亭一之輔/紙切り 林家楽一/「厩火事」春風亭一花

口上の司会は三三師匠。一花は「人良し、芸良し、姿良し」と褒め、温かい仲間に恵まれ、温かいお客様に恵まれ、幸せ者だ、と。「寄席に伝わる格言に、9月27日のお客を大事にしろというのがあります。きょうお越しになったお客様はラッキーです」と口から出まかせを言って、口上の他のメンバーから突っ込まれるのが可笑しかった。

一之輔師匠。師匠一朝は「女性の弟子は取らない」と思っていた。だから、一花を取るという連絡が来たときは、「何かやましいことでもあるのか。引き受けなければならない深い事情があるのか」と変な勘繰りをしてしまった(笑)。女性によくある甘えた口調が一切なく、サバサバした性格。普段は芸人らしくない、どこにでもいる女性だが、一旦高座に上がると水を得た魚のようにお喋りをする。亭主の馬好から解放されているからなのか…と笑いを取った。

小朝師匠。楽屋入りした前座の頃から、心映えが豊かで美しい人だと思った。前座が履いている足袋の裏は汚れている場合が多い。これでは客席のお客様が見て不愉快に思う。だが、一花の足袋の裏は真っ白だった。この人は売れるな、と思いました。師匠譲りで、滑稽噺の中にも人物に情がある。その原点には真っ白な白足袋があると力説し、「一花の白い足袋」というエッセイのような口上を言えるのは私くらいと自画自賛しているのが、可笑しかった。

市馬師匠。私が前座で楽屋にいたときに、小朝師匠の真打披露があった。あの頃、「横丁の若様」と呼ばれていた人が、今ではすっかり「ご家老」になった、と。スターを拵えるのは難しい。本人の努力は勿論、持って生まれたモノ、そしてお客様のお引き立てがなければならない。どの道をどうやって進んだら良いのか。それを導くのもお客様。落語の中で歌を歌うようになったらお終いです(笑)。悪い見本を見て学んでほしいと言っておいて、一花を祝う相撲甚句を披露した。高座に咲いてる芸の花、見事に咲いてる一の花、ここにめでたく真打に昇進しました一花がこれから益々芸の道、茨の坂が続くけど、御来場なるお客様、寒さ暑さにかかわらず、看板見かけてお運びを、それが芸人一花の芸の支えとなりましょう、どうぞよろしく願います~アー、ドスコイ、ドスコイ。

一朝師匠。一花は気遣いのできる前座で、何でもこなしてしまう。師匠を師匠とも思わない一之輔とは大違いだ(笑)。NHK新人落語大賞の優勝賞金50万円を使って、私たち夫婦と子供まで高級レストランのディナーに招待してくれました。親孝行な一花が益々好きになった。一之輔はクビだな(笑)。

一花師匠の「厩火事」。お崎さんは勝気なんだけど、亭主に関しては滅法惚れていて、それゆえに女心が揺れる様子を実に巧みに表現している。亭主と喧嘩して仲人の旦那のところに勢いよく飛び込んだときのお崎さん。帰りが遅くなって、「どこでのそのそ遊んでいたんだ!」と亭主に怒鳴られたので、「私が一体どこで遊んでいたんだい!?誰のお陰で昼間から怠けていられるんだい!?」。おかめ!ひょっとこ!般若!外道!と罵り合い、「愛想もこそも尽き果てた。別れるように話をしてください!」と旦那に頼むが…。

ここぞとばかりに旦那は「別れなさい、別れなさい!お前が何が何でも所帯を持つというのを、あいつだけはやめた方がいいと言ったろう」。昼間から一人で刺身一人前誂えて、二合徳利でチビチビやっている。「お前さんが油まみれになって髪結をして働いているというのに。別れろ、別れろ!」。

ところが、これにお崎は反論する。「何も刺身百人前誂えて、長屋中に配っているわけじゃなし。二升、三升飲んで泡吹いて寝転がっているわけじゃなし。私は嫌と思っていないんだから!それがいけないんですか!」。舌の根の乾かぬ内にはこのこと、お崎が未練たらたらなのがよく伝わってくる。

そこで、旦那はお前の亭主は唐土なのか、麹町なのか、試せと提案したときもそうだ。お崎は旦那に先に行って、「女房が縁日で買った茶碗を割るけど、女房の体のことを心配しろ」と言ってくれと頼む。お崎は亭主が唐土であってほしいと願うが、もしかしたら麹町なんじゃないかと不安で仕方ないのだ。旦那は諭す。「お前自身のことだよ。一生を懸けてやってごらん」。優しい。

帰ってみると、亭主は飯を食べずに待っていて、「夕飯くらい、一緒に食べたいじゃないか」。お崎、「唐土だよ!」。早速、麹町に取り掛かろうと茶箪笥の茶碗を引っ張り出すと、亭主が「それは俺の大事な茶碗…」と慌てる。「唐土と思ったら、麹町になりやがった」。亭主の態度に一喜一憂するお崎に揺れる女心が表れている。

サゲが秀逸だ。最終的にお崎がケガをしていないか、心配した亭主が「お前にケガされたら、明日から酒が飲めない」と言うと、お崎は「お酒は白馬かい?やっぱり唐土だ」。どんなことがあろうがお崎は亭主に惚れている。ほっこりする。一花師匠らしい工夫である。

上野鈴本演芸場の春風亭一花真打昇進披露興行八日目に行きました。

江戸曲独楽 三増紋之助/「牛ほめ」吉原あさひ/「初天神」林家たい平/漫才 すず風にゃん子・金魚/「池田屋」春風亭小朝/「時そば」柳家さん喬/奇術 ダーク広和/「芝居の喧嘩」春風亭一朝/中入り/口上/浮世節 立花家橘之助/「つる」桂二葉/「七面堂」柳家三三/紙切り 林家楽一/「明烏」春風亭一花

たい平師匠の口上。お客様は一花と同じ時代に生きていることが幸せだ。一花というジェットコースターに乗って、スリルと高揚感、そして達成感を味わうことができる。そのためには、お客様の応援という太陽の光を当ててほしい。そうすれば、一花はさらなる大輪を咲かせることになると願った。

小朝師匠。一花は頭が良い。以前に女性噺家というちょっとしたブームがあった。一花は先頭集団の後ろにピタッと付いて、風を避けていた。そして、第3コーナー、第4コーナーを回って、直線でスッと先頭集団を追い抜いていった。私は一花のことを「女ルメール」と呼んでいます。仲良くしているようで、心の中でファイティングポーズをとっている。打ち上げでも強かです。おじさんたちが下ネタを連発するのを、明るい笑顔で聞き流すことができる。目の奥には醒めた一花がいる。それがまた、おじさんには堪らないと絶賛した。

さん喬師匠。一朝師匠の教育方針が素晴らしく、一花はすくすくと育った。前座の頃から達者だったが、その芽が水のやり方、肥料の与え方で大きな花を咲かせた。大輪は大きいだけではいけない。客様の好みの色に染まらなければいけない。萎れないように、頑張れ!と声を掛けてやってくださいと頭を下げた。

一朝師匠。セクハラ、パワハラが当たり前の世界。一花に悪い虫がつかないように、いつも傍にいた。だが、二ツ目になったときに油断したのがいけなかった。相手は馬生さんのところの弟子だという。でも、とても良い旦那で安心しました。一花は目が高い。まだまだ伸びしろのある噺家、益々活躍してほしいと期待した。

一花師匠の「明烏」。時次郎のことを親父が心配するのがよく分かる。笠森様の祭礼に行ったら、お煮しめが美味しかったので、赤飯を菓子盆に三杯お代わりした、子どもたちと一緒に太鼓を叩いていたら、蝶々が舞い込んできたので、追い掛けたら、お花畑に迷い込んだ、それで子ども達に連れられて帰ってきた…。いずれは稼業を継いでもらわないといけない。十八歳でこれでは困る。そのためには世の中の表裏を見てほしい。本当にそうだ。

お稲荷様のお籠りと言われ、源兵衛と太助に連れられてきたところが吉原だと知ったところ。「生まれてこの方、こんな恥辱は受けたことがない」とか、座敷で畳にのの字を書きながら泣きじゃくっているとか、「こっちへこないでください、汚らわしい!あなた方、いい年をして恥ずかしくないんですか?二宮金次郎という人は…」とか、この時次郎には協調性という社会性が欠けている。だけど、おかしなもので、花魁浦里が「そんな初心(うぶ)な若旦那なら、あちきの方から出てみたい」とお見立てされるという…。そんなことはあり得ないんだけど、そこは落語でユーモアに包んで「空気の読めない時次郎」を描いているのが愉しい。

そして、翌朝の豹変。「おはようございます。昨夜は大変に結構なお籠りでした」「花魁は口では起きろと言いながら、布団の中で足を絡ませて起きられない。苦しい…」。太助が「どうして、昨夜からそういう了見にならなかったの!」と、怒りにまかせて甘納豆をぶつけるところ、一花師匠の男の人物造型が実にうまいなあと感心した。