田辺いちか真打昇進披露パーティー

浅草ビューホテル飛翔の間で行われた田辺いちか真打昇進披露パーティーに出席しました。
司会は兄弟子の田辺凌鶴先生。松任谷由実の「春よ、来い」の演奏に乗って、新真打の田辺いちか先生が師匠の一邑先生を伴って入場した。
挨拶は講談協会の宝井琴調会長。「鬱陶しい天気が続いているが、きょうは青空がちらりと見えました。一邑さんの厳しくも個性を伸ばす指導方針の許、いちかは努力を重ねて大変評判の良い講談師に成長し、真打の名に恥じない新真打が誕生した。流浪の民の講談協会だが、興行におけるお客様の動員が何よりの支えになります」。そう言って、「駆け付けるよ!」という気持ちを拍手で表してくださいと300人の出席者に求めると、大きな拍手が巻き起こった。
「入門すると、スーパー前座と呼ばれるほど、パーフェクトな働きぶりだった。着付けがしっかりしているなと思ったら、高級和食料理店で働いていた経験があるそうです。帯にはビールの栓抜きが挟まっていたとか…」「この興行で真打が終わるわけではなく、これから長い道のりが待っている。それに付き合ってくれるのが御贔屓様です。順風満帆でないこともある。迷うこともある。そんなとき、大事なのは御贔屓のお言葉…そして、ご祝儀です!」(笑)。講談界のスター誕生に浮かれることなく、息の長い応援を願った。
続いて、来賓の俳優、大島宇三郎さんの祝辞。いちか先生が演劇をやっていた時代に芝居で御一緒し、丁寧で正確な日本語を指導するなどしてくれた尊敬する大先輩だ。「(本名桃子から)ももちゃんは当時から明るくて可愛くてチャーミングでした。そして、内に秘めた芯の強さがあった。エネルギーの塊。それをどこへぶつけていいのか、右往左往していました。そして、講談と出会った。いつまでも、あの頃の気持ちを忘れないでください」と激励した。
鏡開き。そして、乾杯の発声は講談協会相談役の宝井琴柳先生。中締めは神田香織先生。「いちか先生が前座として楽屋入りしたとき、その仕事ぶり、美しい仕草、細やかな気遣いに驚いた。お盆の上で豆を転がすようにという表現がありますが、これはいちかのためにあるのではないか、すぐにでも、二ツ目にしたいと思ったくらいです。落語家さんとの交流もあり、テレビやラジオでも活躍している。世の中に講談を広めるために、実力派の一人として頑張ってもらいたい」。
前座の頃からの贔屓の方から招木の贈呈。筆は橘好樂師匠によるもの。ここで司会が一旦、渋谷らくごのキュレーターであるサンキュータツオさんに交替。
ビデオメッセージが流れた。柳家喬太郎師匠は「いちか先生は講談界の星になる」と賞賛しつつ、「このビデオの撮影がいちか自身とは!」と突っ込みを入れた。春風亭一花師匠は「道楽亭の橋本さんの企画で、当時前座だった私といちかちゃんの二人会『いちいち』を開いてくれて以来の長いお付き合い」と言って、「可愛いのに、武士のような潔さがある」と讃えた。春風亭一之輔師匠は「凛とした高座とは対照的に、人当たりの良さがある。俺のことを好きなんじゃないかと思ってしまう。それは皆思っているかも。そんな強かなところが素晴らしい。これからも手玉に取ってください」と笑いを交えて持ち上げた。最後は歌舞伎界から中村勘九郎・七之助兄弟。BSフジの中村屋の番組にいちか先生が3年連続で出演した縁があるそうだ。「また共演して、コラボレーションしましょう!」とラブコールした。
続いて、国本はる乃さんの創作浪曲「田辺いちか一代記」。曲師は玉川鈴さん。引っ込み思案だった幼少期、学芸会で白鳥の役を演じて快感を覚えた桃子。演劇の道へ進むが、なかなか芽が出ず、苦悩の日々があった。そんなとき、上野本牧亭で活躍していた錚々たる講談師の高座に触れ、私もこういう高座に上がりたいと思うようになった。ついに見つけた生きる道。これから目指すものは講談が結ぶ縁を大事にして、いつか本牧亭のような講談の聖地、拠点を作りたい。夢は大きく膨らむいちか先生を唸った。
いちか先生の苦悩の日々で心の支えになったのが、上々颱風(シャンシャンタイフーン)の音楽だった。その憧れの上々颱風がステージに上がり、2曲を演奏した。1曲目は「愛より青い海」。ただひとつの歌を歌うために生まれた…夜が明けたなら行こう、遠くまで遠くまで、人はみな青い空の向こうからやって来た…愛よりも青い海、いつも心に抱いて…。
2曲目は「レット・イット・ビー」。いつでも神様が見つめているよ、だから泣かないで、レットイットビー…夜が暗くて一人ぼっちでも、もう泣かないで、レットイットビー…どこかで誰かがきっと待っている、あなたを待っている、レットイットビー…。胸がキュンとなる2曲だった。
そして、師匠一邑先生の挨拶。私は今回、弟子の真打昇進披露に立ち会うのは3度目です。私は2009年に真打に昇進した。その3年後に何と新真打の師匠として披露目の場に立った。司会をしている凌鶴の披露目です。というのも私が真打になった直後に師匠一鶴が他界し、弟弟子や妹弟子を預かることになったからです。
今回、初めて堂々と直弟子の真打昇進披露に立ち会うことができた。もう、いちかは私の及ばないところに羽ばたいています。ただ一つ自信をもって言えるのは、いちかという種を講談界に撒いたのは私だということです。どうか、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
いよいよ、新真打の田辺いちか先生の挨拶。私は器用だと思われがちですが、実は不器用の塊なんです。しかも、甘えるとか、頼るということができない。高座は誤魔化すことができますが、今回の披露目で思い知りました。自分は何一つできない。「助けてください」と言ったら、驚くほど沢山の人が助けてくれた。後輩たちが手伝ってくれ、先輩たちが相談に乗ってくれた。
そして、「あなたの講談が好きだから」と、沢山のお客様が駆け付けてくれた。そういうお客様のお陰で講談を読むことができる。15年前に「こんな面白い話芸がある」と飛び込み、楽しくてしょうがなかった。すべては師匠一邑のお陰です。これからも応援して良かったと思っていただけるよう、死ぬまで講談を読み続けたいと思います。
大締めは講談協会顧問の一龍斎貞花先生だ。もうすぐ88歳になる。「彼女が入門してきたとき、可憐な乙女だと思った。それが四十過ぎても変わらない。先日、NHKで彼女の『宇野千代伝』が放送されました。素晴らしかった。知り合いに、『真打になって、何年なの』と訊かれ、今度真打昇進だと答えたら、大変に驚いていた。嬉しいです」。そして、「真打はゴールではなく、スタート。相撲で言えば、十両に昇進して、関取になったところです。これから、幕内、三役、大関と昇っていかないといけない。当人の努力は勿論ですが、皆様のご支援ご指導を何よりお願い申し上げます」。
講談界を背負って立つことのできる、牽引力のある真打誕生に立ち会えたことに感謝したい。田辺いちか先生、誠におめでとうございます!

