【大相撲秋場所】大の里が安青錦との相星決戦を制し、6場所ぶり6回目の優勝

大相撲秋場所千秋楽結びの一番は、横綱・大の里と大関・安青錦の三敗同士の相星決戦となり、大の里が突き出して安青錦を下し、1年ぶり6回目の優勝を決めた。
涙の優勝になった。豊昇龍がケガのために初日から休場し、大の里が一人横綱としての重圧を背負う形で場所はスタートした。春、夏場所と左肩の故障で休場し、名古屋場所は9勝と不本意な成績に終わっていたから、その重圧はなおさらのことだったと思う。序盤戦は引いてしまう悪い癖が出て、何とか星を拾うという横綱らしくない土俵だったが、四日目に高安に金星を献上した以外はなんとか白星を重ね、中盤戦以降は力強く前へ出る相撲へと調子が上向きになり、8連勝。優勝争いのトップを走り、早くも十三日目にも優勝が決定する可能性があったほど、他の追随を許さなかった。
ところが、十三日目に霧島に下手投げ、十四日目に琴櫻に突き落としと、土俵際で逆転負けを喫してしまった。これも大の里の悪い癖だが、若干勝ち急いだ印象を受けた。これにより、同じく三敗で並んだ安青錦と千秋楽結びの一番で優勝を懸けてぶつかることになった。これも一人横綱という精神的プレッシャーのなせる業だったのだろうか。
そして迎えた千秋楽。大の里はその重圧を振り払うかのように、立ち合い両手突きで攻め込むと一気に安青錦を土俵の外に突き飛ばし、優勝を決めた。勝ち名乗りを受けて土俵を下がった大の里の目に涙が浮かんだ。1年前の秋場所で優勝して以来、怪我によって遠ざかっていた賜杯を引き寄せた喜び。そして、綱の重責を果たせた安堵感がこみあげてきたに違いない。
圧倒的に強かった大の里が戻ってきた。初土俵以来、快進撃を続けて登りつめた横綱の地位。怪物と称された大の里も人の子だった。今回の復活劇を契機に、大鵬、北の湖、千代の富士、貴乃花、白鵬…と続く時代を築く大横綱になっていくのを大いに期待したい。
安青錦は四日目から伯乃富士、豪ノ山、藤ノ川に三連敗をしたときは、先場所に優勝はしたものの、左足首の怪我が完治していない、無理はしないでほしいと思ったほどだ。しかし、七日目から8連勝。低く潜って前廻しを掴み、多彩な技を繰り出す本来の相撲を見せてくれ、気がついたら千秋楽に相星決戦というところまできた。結果は大の里の完勝だったが、千秋楽まで場所を盛り上げた功労者と言えよう。怪我を癒して、さらに上の番付を狙う大関として来場所以降も活躍する期待が膨らんだ。
新関脇の藤ノ川が11勝を挙げ、敢闘賞。三大関に全て勝っているというのがすごい。星の数もそうだが、あの小さな体で連日闘志溢れるきびきびした相撲を取り、秋場所を沸かした功績は大きい。先々代の藤ノ川が「今牛若丸」と渾名されたように、まさに「令和の牛若丸」の名に相応しい。これも稽古の賜物だろう。こういう力士が三役で活躍すると、大相撲人気は盤石である。
美ノ海が二桁勝利で同じく敢闘賞を受賞し、来場所の新三役を確実にした。沖縄県出身としては初の三役となる。今場所は積極的に前に出る相撲が目立ち、攻めきれなくてもしぶとく勝ちに繋げる巧さを持ち合わせていた。五日目に琴櫻を押し出し、八日目に霧島を押し倒し、二大関を倒した相撲が象徴的だった。こういう玄人好みする力士が活躍するのは嬉しい。
さて、今場所の注目は霧島の横綱獲りと熱海富士の大関獲りだったが、二人とも8勝7敗という不甲斐ない成績に終わり、挑戦はどちらも振り出しに戻ってしまった。どうしたのだろう。霧島は八日目に美ノ海に敗れて三敗となり、横綱の夢が絶たれると、そこから3連敗。風船が萎れたようになってしまった。稽古量は角界随一と聞く。気力も充実しており、場所前の期待は大きかったのだが、一からの出直しに期待したい。
熱海富士は中盤戦までは二敗を保っていたが、十一日目からまさかの5連敗。幕内最重量を誇る巨体で得意の右四つ左上手を取って前で出る相撲は“横綱相撲”とさえ思える安定感があったのに、終盤戦では相手有利になられる相撲が目立ち、脆さを露呈する形となった。体に恵まれているのだから、それを生かして相手より早く自分の形になることが肝要だ。それには一に稽古、二に稽古だろう。奮起を期待したい。
義ノ富士が初日から5連敗したが、その後持ち直し、十日目から6連勝。9番勝って、三役復帰を濃厚にした。天賦の才を持っているが、相撲にムラがあるのが難点か。右四つで一気に寄る自分の型を磨いて、まずは三役の常連を目指してほしい。
宇良は前頭9枚目で10勝。今場所は技能賞該当者なしだったが、連日技能相撲で土俵を沸かしたことを考えると、宇良が受賞しても良かったのではないか。藤青雲や狼雅を肩透かし、一山本や王鵬をとったり、若元春を外掛けで敗った相撲はまさに技能派力士の面目躍如である。
朝乃山は千秋楽に勝てば11勝で敢闘賞だったが、惜しくも逃した。5年前にコロナ対応ガイドライン違反で大関から三段目まで陥落し、その後小結まで復帰したが、今度は右膝の怪我で再度三段目まで陥落。それを乗り越えて、今場所は再入幕5場所目であり、力強い朝乃山を見ることができた。横綱大関陣と対戦しない前頭6枚目ということが考慮されたのか。来場所こそは、三役総当たりとなる番付に昇進する。不死鳥のような復活を期待したいものだ。
玉鷲が十両3枚目で10勝を挙げ、2場所ぶりの返り入幕を確実にした。41歳の「鉄人」の相撲が幕内の土俵に戻って来るのは嬉しい限りだ。
第39代木村庄之助が65歳の定年を迎え、今場所限りで引退した。北の富士に憧れて角界に入り、「君は行司に向いている」と言われ、昭和52年から軍配を持った。第30代の庄之助に師事し、相撲字のエキスパートでもあった。「相撲は力士が主役。行司は裏方」という哲学を貫き、千秋楽結びの一番を裁いて土俵を去ったときも、花道で花束を渡されるも固辞した。その職人魂に敬意を表したい。49年間、お疲れ様でした。


