一龍斎貞鏡修羅場勉強会「破られた約束」、そして柳枝百貨店 春風亭柳枝「もう半分」

一龍斎貞鏡修羅場勉強会に行きました。「難波戦記 真田の入城」と「破られた約束」の二席。前講は神田ようかんさんで「違袖の音吉」だった。

「破られた約束」は小泉八雲原作。松江藩の貧乏御家人、長谷川左門の妻うめは病に伏せて、二十七歳で夭折してしまった。左門はうめに対し、万が一お前が亡くなっても後添えは持たないから安心しろと約束した。うめは安心して、亡き骸はこの家の庭に二人で植えた梅の木のふもとに埋めてほしい、棺の中には巡礼の方が持つような小さな鈴を一つ入れてほしいと頼む。そして、「うめは幸せでした」という言葉を残して息を引き取った。左門は約束通り、弔いを行い、梅の木のふもとに墓を建て埋葬した。

やがて、一周忌。知人の紹介で、組頭の伊藤殿の一人娘の花が左門に惚れているので嫁に貰わないかという話が舞い込む。左門はこのまま傘貼りをするような貧乏御家人のままでいるより、出世が望める嫁を迎える方が良いのではないか。悩んだ末に、出世の道を選んだ。「許してくれ、うめ」と自責の念にかられたが、うめより十歳若い花が尽くしてくれ、次第に心の底から深く愛するようになる。

ある日、左門が城の泊まり勤務を終えて帰宅すると、花が「どうか離縁してください。里へ帰らせてください」と切り出す。留守中に何があったのか。喋ると八つ裂きにされてしまうと怯えていた花だが、意を決して留守中の出来事を語る。巡礼の鈴の音とともに、目の前に亡き奥方様が現れ、「ここから出て行け。さもないと、八つ裂きにするぞ」と言ったというのだ。

左門はそんなことがあるわけがない、死んだ人間に何ができるというのだ、今わしは幸せに生きている、その何が悪いというのだ、それは夢ではないかと信じない。いや、信じたくなかったのだろう。左門は花に対し、「案ずるな。わしがついておる」と言って、次の城の泊まり勤務のときには屈強な侍を二人、警護につかせた。

その晩のこと。犬の遠吠えとともに、巡礼の鈴の音が近づいてくる。警護の侍に助けを求めると、二人はすでに固まっている。やがて耳元で鈴が鳴り、人の気配を感じた。白装束姿でもつれた髪の隙間から目玉のない穴の空いた顔をした女が舌のない口で言う。「この家の女主は私だ」。

左門が帰宅したとき、家の中は血の海だった。そこに花が倒れていた。しかも、首から先がない。何者かに引き千切られたのか。血潮を辿ると、雨戸が破られ、庭へ続いている。それは梅の木のふもとに行き着き、そこにはうめの姿があった。左手に巡礼の鈴、右手に生首を抱え、ニッコリと微笑んでいる。

「うめ!迷うたか!何故だ。約束を破ったのはわしだ。花には何の罪もない。何を笑っておるのだ」。左門はバッサリとうめを斬ったが、うめは生首を抱えたまま、いつまでも立ち尽くしているのだった…。うめが左門を恋い慕う気持ちを裏切ったことに対する恨みの大きさを思った。

「柳枝百貨店~春風亭柳枝独演会」に行きました。「あくび指南」「鰻の幇間」「もう半分」の三席。開口一番は春風亭柳吉さんで「穴子でからぬけ」だった。

「もう半分」。丹念に情景と人物の描写を重ねた見事なネタおろしだった。八百屋の爺さんは居酒屋の常連ではなく、初めて来店した設定。「もう半分」を繰り返しながら、芋の煮っ転がしも食べ、自分が昔は立派な青物問屋の主人だったのに酒で身を持ち崩して今では棒手振りをしている身の上を淡々と語り、それが五十両を置き忘れたことに気づいて戻って来たときに「娘が吉原に身を沈めて拵えた五十両」であると訴える仕込みになっている。

居酒屋主人は善良で、風呂敷包みに気づいたときに「さぞ爺さんは困っているだろう」とすぐに届けに行こうとするが、女房の方が性悪で「忘れた方が悪い。わかりゃあしない」とネコババを唆す役回りで描かれていて、それが最終盤の爺さんそっくりの赤ん坊が産まれたときに繋がってくる。

爺さんは「お酒はもう飲まないで」という娘との約束を破って居酒屋に入ったことを「身から出た錆。娘に会わせる顔がない。馬鹿な親父を勘弁してくれ」と悔やみ、千住大橋から大川へ身投げして死ぬ。その一方で、「あの五十両」を元手に居酒屋夫婦は店を広げ繁盛し、女房は念願の懐妊をするが…。

生まれてきた赤ん坊が「玉のような男の子」とは真逆の皺だらけ、瘦せこけて、禿げあがった八百屋の爺さんと瓜二つ。この赤ん坊を見て卒倒してそのまま死んでしまった女房は五十両をネコババした主犯として罰が当たったと思えば得心がいく。

一方の居酒屋主人は「悪いことはできない。報いだ」と反省し、こんな子でも大事に育てれば仏も浮かんでくれるのではないかと考える。女房の性悪とは対照的に善良であることが救われる。だが、乳母を頼むと、ことごとく一晩で暇をくれと断られてしまう。給金を倍出すから、と頼むのも爺さんへのせめてもの供養と思っているからではないか。

赤ん坊が夜中に起き出して行燈の灯し油をグビリグビリと飲む様子を目撃した主人は「やい、爺!化けて出たな!」と叫ぶが、この噺に続きがあるとしたら、この奇形の赤ん坊を大切に育ててほしいと願う。居酒屋主人には善良な市民であってほしいと思うのだ。