泉岳寺講談会 四谷怪談俥読み 神田陽乃丸~田辺銀冶~神田菫花~神田蘭

泉岳寺講談会に行きました。四谷怪談俥読み特集である。

「おつなと伝助」神田陽乃丸/「お岩誕生」田辺銀冶/中入り/「伊右衛門婿入り」神田菫花/「伊藤喜兵衛」神田蘭

陽乃丸さんの「おつなと伝助」。民谷又左衛門の一人娘おつなと飯炊きの伝助を夫婦にしたのは、実は父の又左衛門の策略があった。身分違いの許されぬ仲を表向きは憤慨しているように見せて、裏では娘の恋心を叶えてやろうという親心があったのだ。

伝助の寝起きする部屋は玄関の傍で、西北の風が吹き抜け、寒い。薄い布団一枚では耐えられず、何度も厠に行く。それを見た又左衛門は「娘の部屋は暖かい。娘の部屋に行け」と言う。だが、おつなは幼い頃に松皮疱瘡に罹り、あばただらけの醜い顔で、伝助は躊躇う。だが、主人の言いつけを聞かねばならず、おつなの部屋に行く。おつなは暖かい掛け布団を貸してくれ、伝助はよく寝ることができた。ふと目が覚めた伝助に、おつなが「私の顔、怖い?」と訊く。伝助は「お嬢様は心根が優しい。その優しさに惚れました」。「本当かい?」と喜んだおつなと伝助は一つの布団の中で寝た。

それが何回か続くと、おつなは懐妊する。そのことを伝助に告げ、「父は知っている。怒って、討ち首にすると言っている。私を連れて逃げておくれ」。躊躇う伝助に対し、「お前はそんな不人情な人だったのかい」と迫り、伝助は覚悟を決める。又左衛門夫婦が「急な用事で家を出る」と言って、おつなに五両の金を渡し、涙を浮かべた。二人で逃げろということか。おつなと伝助は荷物をまとめて、神田松田町の叔父の重兵衛の家を訪ねる。

翌朝、重兵衛は又左衛門のところを訪ねると、「二人を夫婦にしてやってください」。わかってのことであった。そして、二人は京橋五郎兵衛町に所帯を持った。

銀冶先生の「お岩誕生」。伝助は松平安芸守の足軽・高田大八郎の飯炊きに雇ってもらう。このことが、おつなと伝助の運命を決め、四谷怪談の主軸となる。

高田は霊岸島の金貸しの伊勢屋重助から1年前に十両借りたが、返済できず、利子を含めて二十五両に膨れあがってしまった。執拗に返金を求める伊勢屋を、高田は斬り殺してしまう。その死骸を収めた合羽樽を二階に置いておいたが、伝助がこれを見つけてしまい、風呂敷に包んで棄ててくるように命じられる。弱った伝助はおつなのいる自宅に行き、「布団の洗濯を頼まれた」と言って、押し入れに仕舞いこんだ。そして、伊勢屋の女房に知らせようと家を出る。

だが、このときには伊勢屋女房はこの世のものではなかった。帰りが遅い亭主を心配し、高田大八郎のところを訪ね、重助同様に斬り殺されてしまったのだ。伊勢屋女房の幽霊が、おつなのところを訪ねる。「伊勢屋重助の家内です。主人がお邪魔しています。会わせてください」。押し入れから生首がコロコロと転がり出して、幽霊はそれを嬉しそうに拾い上げ、「お陰様でここにおりました…へへへ」。これを見たおつなは絶叫し、落命。同時に、女の赤ん坊を出産した。民谷又左衛門はこの赤ん坊を引き取り、岩と名付ける。この岩もおつなと同様に、七歳のときに松皮疱瘡に罹り、醜い顔になってしまった。

菫花先生の「伊右衛門婿入り」。高田大八郎の息子数馬と伝助おつなの娘のお岩の因果因縁の巡り合わせが大変に興味深い。

高田はその後、結婚して直参旗本にまでなったが、性根が悪いのは直らず、物捕りに落ちぶれ、お縄となる。高田の息子は出家したが、十八歳で深川芸者に狂い、五十両を盗んで逐電。その後、二十二歳で花川戸の戸沢長屋に住み、柳原数馬と名乗って易者になった。

一方、民谷又左衛門は孫娘のお岩の婿探しをしていた。三十俵二人扶持の婿養子の口だが、お岩の顔が醜いためになかなか進まなかった。親戚の河合三十郎に依頼、河合は商人の藤八に三両の御礼を餌にこの難しい難題の助力を頼む。ある日、藤八は浅草寺境内で易者をしていた数馬と久しぶりに再会した。数馬は二十二。お岩は二十五。「御家人の婿に入らないか」と誘う。数馬が隣人で女衒をしている風車の長兵衛に相談すると、長兵衛は元武士で四谷左門町に住んでいたことがあり、「民谷家の婿とは良い話だ」と言われ、その気になる。

藤八は作戦を立てた。不器量を隠して、身代に惚れさせればいい。その筋書きを考えた。婿入り次第、家督を継がせるという好条件。早速、屋敷で対面となったが、現れたのは河合と民谷又左衛門の女房の二人。又左衛門は病に伏せているという。酒肴が運ばれ、酌をするのに、「そろそろお岩さんを」と言うと、四、五日前から風邪で休んでいて、「出るのは嫌だ」とのこと。藤八は数馬に「そろそろお決めになったらどうですか」と急かすが、数馬は「顔も見ていないのに」と躊躇うが、あまりに執拗なので、「承知」してしまった。河合三十郎の養子として婿入りすることになる。

婚礼の日。花嫁のお岩が現れるが、綿帽子が深く、顔が見えない。三々九度を済ませ、お色直しとなった段で、白塗りの顔があばたで埋まっていることが判る。数馬は驚いて逃げ出し、「あばたのことは知らされていなかった」。すると、藤八が言う。これが普通の顔ならあなたを迎えるようなことはない。不器量なればこそ、あなたのような人を婿にするのだ。これ以上の良い話はないではないか。生涯、安楽に暮らせるのですよ。これを聞いて、数馬は承知、民谷伊右衛門を名乗り、家督を継ぐことが決まった。

お岩の亡くなった両親の位牌が同年同月同日になっている。実は両親は高田大八郎に殺されたとお岩が物語る。大八郎は自分の父…伊右衛門はお岩を可愛がれば父の罪も消せるのではないかと思った。

蘭先生の「伊藤喜兵衛」。伊右衛門は組頭の伊藤喜兵衛と懇意になる。そして、喜兵衛の娘のお花と恋に落ち、一目を忍ぶ仲になったことが新たな展開を生む。

この密通を知った喜兵衛は伊右衛門に対し、怒りを露わにする。娘を傷モノにして、本来だったら手討ちにするべきところだと言いながら、命を助ける条件を出す。お岩を追い出して、お花を妻として迎えろ。だが、伊右衛門は養子という立場上、追い出せない。折檻をするが、お岩は逆らわず、効果がない。

伊右衛門は風車の長兵衛、杉山長兵衛に相談する。長兵衛曰く、夜鷹に叩き売ればいい、二十両で売ってみせる。長兵衛はお岩に「伊右衛門が博奕にはまり、莫大な借金の証文に判を押してしまった。遠島の罪になる。金さえあれば、助けることができるのだが…」と言う。だが、お岩には三分しか持ち合わせがない。五十両要ると言われ、良い知恵はないかと訊ねる。

「金貸しの女中奉公の口がある」と長兵衛は言って、実のところ夜鷹宿に売り払ってしまった。戸惑うお岩。薄汚い夜鷹と一緒に稼いで来いと言われるが、これを拒む。物置小屋で縛られ、吊るされ、鞭で打つという折檻を受ける。だが、お岩の意志は固く、承知しない。挙句に失神する。そんな毎日が続き、主人も音を上げて、女中としてこき使うことにした。

ある日、買い物に出たお岩が伊藤喜兵衛の中間の角助に声を掛けられる。お岩が伊右衛門のために辛抱しているだと説明すると、角助は堪りかねて「本当のことを申し上げましょう」。伊右衛門はお花と夫婦になったことを話す。悔しい!お岩は「おのれ、伊藤喜兵衛、杉山長兵衛、伊右衛門、お花…人に恨みがあるものか、ないものか、思い知らせてくれましょうぞ」。川へ身投げをして、亡くなった。

お岩の亡霊は伊藤喜兵衛に祟り、喜兵衛は体調を崩す。使用人は恐れおののき、角助一人しか伊藤家には残らなかった。お岩が取り憑き、喜兵衛の体を無数の鼠が食い散らかす。そして、天井からお岩が姿を現し、物凄い形相で恨みを晴らすのだった…。

四谷怪談を俥読みで聴くことで、この怪談の凄さに魅了された。良い企画だった。