噺し問屋本所支店 三遊亭兼好「藁人形」、そして たろじろの会 柳家小太郎「ハワイの雪」柳家小次郎「アザラシ」

「噺し問屋本所支店~三遊亭兼好独演会」に行きました。「藁人形」と「お祭佐七」の二席。ゲストは春風亭朝枝さんで「真田小僧」だった。
「藁人形」。元は遠州屋という糠屋の一人娘で、我儘放題に育ったお熊は、一旦は男と駆け落ちして落ちぶれたが、千住の女郎屋の若松屋に入り器量を武器に板頭を張る。了見は昔のままの性悪ということだろう。こんな女に引っ掛かった乞食坊主の西念は気の毒でならない。「糠に釘」という鮮やかなサゲとは対照的に、後味の悪さに居たたまれなくなる。
お熊の手口が西念の厚意を踏みにじる形なのが嫌だ。大坂の旦那が身請けしてくれ、絵草紙屋の女将に据えてくれる、ついては二階に西念を住まわせて親孝行の真似事がしたい。西念さんは死んだ親父にそっくりで、親代わりになってほしい。こう言われたら、西念の心が動くのも無理がなかろう。
ところが、絵草紙屋の買い取りに関して、仲介した男が「二十両、今すぐ払え」と迫ってくるという。西念は「私がなんとかしましょう」と、自分が死んだときの葬式代として貯めた十八両二分をそのままそっくり、お熊に渡してしまう。自分の老後のことを考えたら、お熊の言葉を100%信じて、全財産を託してしまうのもよくわかる。
そして、それらはお熊の詐欺だった。後日、西念がお熊を訪ねると、「身請け?絵草紙屋?何のことだい?…ああ、その話、やめちゃった。ごめんなさい」。十八両二分について追及すると、「借りた覚えはないね。ああ、あの晩、お前さんこの店に泊まったろう。代金として貰っておいたよ」。見事に巻き上げられたわけである。店の外に弾き出された西念の耳にお熊と他の女郎たちが「騙してやった」と笑う声が聞こえてくる。悔しくて堪らなかったろう。
甥の新吉が気落ちした西念のことなど知らずに訪ねて来て、鍋に油を入れて藁人形を煮込んでいることを知ってしまった。事情を聞いた新吉が「呪い殺そうなんて馬鹿なことを考えちゃだめだ。俺たちが商売で儲けて若松屋に行って、お熊に祝儀を渡して驚かす。これが本当の仕返しだよ」と言う。この台詞が西念の悲哀を救ってくれたような気がした。
「たろじろの会~柳家小太郎・小次郎二人会」に行きました。小太郎さんが「ハワイの雪」と「普段の袴」、小次郎さんが「ガーコン」と「アザラシ」だった。
小次郎さんの「アザラシ」は自作。シャチに追われたアザラシが日本の海上自衛隊の護衛艦の船上に打ち上げられ、対空ミサイルの横の生ゴミ置き場に横たわっていた…。ここはマラッカ海峡、中東に向かう途中の護衛艦に乗船することを艦長が認めてくれた。やがて、インド洋で嵐に遭うと、アザラシは「嵐を鎮める」と海に飛び込み、嵐がやむ。すると、「インドのアザラシと結婚した」とアザラシが報告に戻って来た。だが、それはジュゴンではないか?と隊員が言うが、アザラシは「いえ、インドのアザラシです」と主張するという…。海上自衛隊出身の経験を生かした、ユニークな新作落語が愉しかった。
小太郎さんの「ハワイの雪」は喬太郎師匠作品。戦争によって離れ離れになってしまった留吉と千恵子の永遠に思い合う気持ちがとても良い。「わしを捨てて、大きくなったら結婚しようという約束を破った」チーチャンなんか、会いたくない!…いや、会いたい。庭に出て、抜けるような青空を見上げ、この空は世界中のどこにでもつながっている、生まれ故郷で後生を祈っていれば、思いは伝わると言う留吉の純朴が好きだ。
ハワイの千恵子の住む家で、何十年ぶりかの再会。「いい人生だったらしいな」「いい人と所帯を持って、子どもや孫に恵まれました」「わしも同じじゃ。じゃじゃ馬と一緒にならずに良かった」「ごめんなさい。約束を守れなくて」「今、こうして会えた。十分だ」。
そして、千恵子の掌に積もるハワイの雪で一緒に雪かきをする場面。「出来たな。逝くか?辛気臭いかもしれないが、もし生まれ変われるとしたら、同じ土地の同じ年回りで生まれて来い。今度こそ、所帯を持とう」「約束するわ。ありがとう」。素敵なラブストーリーを、小太郎さんがしっかりと演じて、感動した。


