梅之丞のアサカツ!神田梅之丞「阿武松緑之助」、そして けんこう一番!三遊亭兼好「へっつい幽霊」

「梅之丞のアサカツ!~神田梅之丞勉強会」に行きました。「違袖の音吉」「阿武松緑之助」「宗悦殺し」の三席。

「阿武松」は長吉が武隈部屋を破門になり、一分の金を懐に死を決意するところ、講談や浪曲では東海道の川崎宿が多いが、梅之丞さんは中山道の板橋宿。長吉は能登出身なので、故郷に戻るとしたら、中山道で帰るのが通常だから、梅之丞さんの選択は正解だと思う。ちなみに落語だとほとんどが板橋宿である。

大飯食らいで破門になり、「おまんまの食い納めをして戸田の川に飛び込もう」と考えた長吉は、橘屋で一分を女中に渡して「やめてくれと言うまで飯を運んでくれ」と頼む。泣きながら三升五合の飯をペロリと平らげ、「悲しくて味がわからない」と言う長吉に何か事情があるのだろうと訊ねた主人の善右衛門は「武隈関は考え違いをしている」と思い切り飯を食わせてあげた上で、知り合いの錣山親方を紹介してあげる人情が良い。善右衛門が好角家だったというのも幸いしたのだろう。

錣山も優しい人だ。橘屋が「弟子を取ってほしい」と頭を下げると、「板橋の旦那の紹介なら、間違いない。体を見なくても引き受けましょう」。それでも、長吉の体を見ると、「立派だ。これはいい」。博奕も酒も女もやらない、真面目一徹なところも気に入られた。

梅之丞さんの演出では、橘屋が「長吉が大飯食らいで武隈部屋を破門になった」ことについては錣山に言っていない。だから、錣山が「武隈関は了見違いをしている」と批判することもしない。また、橘屋が錣山部屋に年米何俵を提供するということも言わない。相撲が判っているもの同士、気持ちが通じ合っていて、後に六代横綱になる、この逸材を評価しているということだろう。武隈にはそれを見抜く眼力がなかったということだ。

前相撲を錣山の前名である小緑という四股名をもらった長吉はとんとん拍子に出世し、小柳長吉で新入幕すると六連勝。七日目の対戦相手は宿敵の武隈という因縁相撲だったが、ものの見事に投げ飛ばし、溜飲をさげた。その後も破竹の勢いで活躍、長州公に召し抱えられ、阿武松を名乗って横綱を張り、四十五歳まで現役で活躍したという…。めでたい出世譚だった。

「けんこう一番!~三遊亭兼好独演会」に行きました。「日和違い」「汲み立て」「へっつい幽霊」の三席。前座は柳家小じかさんで「小粒」、ゲストは二胡奏者の曹雪晶さんだった。

「へっつい幽霊」。熊五郎の度胸の良さが眼目だと思う。幽霊が出ると悪い噂のある竃を一円目当てで引き取ったのは勿論、竃から飛び出した“幽霊の卵”を割って、三百円が出てくると、若旦那の徳兵衛と折半して、一晩で博奕で使い切り、すっからかんになってもサバサバしている。案の定、竃から幽霊が「金を返せ」と出てくると、若旦那の実家に三百円を都合してもらい、「さあ、出て来い!」と竃の前にどっしり座り込み、睨みをきかせている様子は、幽霊も怖気づくというのが面白い。

幽霊は左官の長兵衛で、丁しか張らないことが幸いして、賭けた丁が面白いように重なり、大儲けした。だが、その噂を聞きつけた周囲の人間が少々都合してくれと五月蠅いので、三百円を竃に埋め込んだ。ところが「当たるときは当たる」もので、酒の肴に買った河豚に当たって死んでしまったという…。

長兵衛が「竃を買った人は皆慌てて逃げ出しちゃったが、親方は強いね」と感心するところ、さすが熊五郎である。その上で、熊五郎は「この三百円、そっくり持って行く気か?普通、拾ったら何割か御礼をするものだ。この三百円が出たのも俺のお陰だろう。折半だな。文句があるなら、出るところに出てもいいんだぞ」と脅す度胸の良さは流石である。仕方なく、長兵衛は渋々承知するしかない。

さらに、その上があるのが、この噺の肝で、「百五十円じゃあ、半端じゃないか?気持ち良く、おっつけっこしないか」。凄い理屈である。丁半博奕で勝負して、百五十円を増やさないかという提案。元々は長兵衛のモノだったのに、博奕好きな長兵衛の足元につけこんで(幽霊だから足はないのだが)、最終的には熊五郎が三百円総取りになるという…。幽霊を相手に博奕をしてしまう熊五郎の度胸が面白い一席だ。