琴調侠客の世界を語る 宝井琴調「笹川の花会」「平手造酒」

上野鈴本演芸場七月下席夜の部四日目に行きました。今席は宝井琴調先生が主任を勤め、「琴調の夏 琴調侠客の世界を語る~サイコロの ころがる先へ 旅鴉~」と題したネタ出し興行だ。①清水の小政②大瀬の半五郎③飯田の焼き討ち④笹川の花会⑤髪結新三⑥お民の度胸⑦平手造酒⑧芝居の喧嘩⑨潮来の遊び⑩国定忠治。きょうは「笹川の花会」だった。

「村越茂助 左七文字由来」宝井小琴/「首領が行く!」林家きく麿/「お血脈」古今亭志ん輔/粋曲 柳家小菊/「二階ぞめき」柳家花緑/「安政三組盃 間抜けの泥棒」田辺いちか/中入り/太神楽曲芸 翁家社中/「本能寺の変」一龍斎貞橘/「片棒」三遊亭歌奴/紙切り 林家楽一/「笹川の花会」宝井琴調

琴調先生の「天保水滸伝から笹川の花会」。岩瀬の繁蔵こと笹川繫蔵が十一屋で花会をするという招待状が届いたが、飯岡助五郎は「あんなちんけな奴の花会なんかに行ってたまるか」と、子分の洲崎の政吉を名代に立て、自分は「風邪をひいた」ことにして代理出席させる。「義理」、いわゆる祝儀も自分が五両、身内一同三両でいいだろうと判断し、政吉に持たせる。繁蔵を過小評価していたのだ。

ところが、政吉が十一屋に到着し、二階の大広間に上がると、遠方からの貫禄のある親分衆がずらりと顔を並べていて、驚く。自分はどこに座ればいいんだ…と政吉が戸惑っていると、「おぉ、政じゃねえか」と声を掛ける男がいる。土浦の大親分、大塚の皆治だ。皆治が「飯岡のところの跡目だ」と皆に紹介され、ようやく安堵できた。

だが、一人の男が「おい、スケの若いの!スケはどうしたんだ?風邪ひいている?遠方からこれだけの親分さんがわざわざ来ているのに、近所のスケは這ってでも来るのが当たり前だろう。義理と褌は欠かさないのが、この世界の礼儀だ」と怒鳴りつける。その男は…上州国定村の長岡忠治、通称国定忠治だ。

すっかり恐縮してしまった政吉。そこへ笹川の子分が祝儀のビラを貼りに来た。皆、三十両は下らない金額が貼り出されている。それなのに、俺の親分は五両…立つ瀬がない。どうしよう?とドギマギしていたが…。笹川の子分が貼り出したビラには「飯岡助五郎、五十両。身内一同、三十両」と書かれている!これを見た政吉は安堵するばかりか、「恥をかかせちゃいけないと…笹川の親分はよく分かった人だ…鼻で笑っていた俺がバカだった」。国定忠治の機嫌も良くなった。「ひとつ、やろうじゃねえか」と盃を差し出してきた。帰り際、政吉は繁蔵の前にピタリと手をつき、頭を下げた。「この恩は生涯忘れません」。

早速、政吉は飯岡の親分のところに帰り、これを報告する。だが、助五郎は「繁蔵の奴、いつの間にそんな貫禄をつけやがったんだ」と言うばかりで、自分の非礼を詫びることはなかったという。その一方で政吉はあのときに恥をかかないで済んだことは、命を助けて貰ったようなものだと、この後に笹川と大利根河原の合戦があったときにも、このことは忘れなかったという…。侠客の世界の義理と人情が垣間見えた。

上野鈴本演芸場七月下席夜の部七日目に行きました。今席は宝井琴調先生が主任を勤め、「琴調の夏 琴調侠客の世界を語る~サイコロの ころがる先へ 旅鴉~」と題したネタ出し興行だ。きょうは「平手造酒」だった。

「たらちね」桃月庵ぼんぼり/太神楽曲芸 翁家社中/「三方ヶ原小豆餅由来」旭堂一海/「託おじさん所」林家きく麿/「元犬」古今亭志ん輔/粋曲 柳家小菊/「もぐら泥」柳家花緑/「キリストの墓」田辺いちか/中入り/奇術 ダーク広和/「お坊主稲川」一龍斎貞弥/「初天神」三遊亭歌奴/紙切り 林家楽一/「平手造酒」宝井琴調

琴調先生の「平手造酒」。笹川繫蔵の用心棒をしていた平手だが、大酒飲みがたたって体を壊し、妙蓮寺で養生していた。繫蔵から「絶対に酒は飲むな」と厳命されていたので、素直に従っていたのだが…。

旧知で荒物屋渡世を今はしている甚兵衛のところへ将棋を指しに出かけると、甚兵衛は女房と酒を飲んでいる。甚兵衛も平手には盃も徳利も見せちゃいけないと言われているので、平手の目の毒になってはいけないと、「暫くの間こちらを見ないでください」と断って、早々に酒を飲み干してしまう。

甚兵衛が酒をすっかり片付けた後、平手が言う。「お前は武士に対する礼儀を知らぬ…どうせ飲まないのだから『一杯、いかがですか』と、なぜ言えぬ」。甚兵衛は仕方なく、「一杯、いかがですか」と言うと、平手は「そうか。侍は敵に背中を見せられない。いいから、よこせ。酒を出せ」。すっかり甚兵衛は騙されたのである。

「一杯だけですよ」と言う甚兵衛に対し、平手は傍に置いてあった湯呑に注げという。盃ではなかったのか。湯吞の酒を味わいながら、平手は「久しぶりだな。美味いな。いい酒だ」。これが一杯で終わるわけがなかった。「注げ!」。もう無いという甚兵衛に「無いわけがない。無いなら、酒屋で二升買って来い!」。もう止まらない。さすが、酒豪。あっという間に二升を飲み干して、上機嫌な平手は「また来る」と言って去ってしまった。将棋を指しに来たのではなかったのか。面食らった甚兵衛である。

泥酔した平手は妙蓮寺に帰り、玄関先に倒れる。尼の妙心は驚くが、仕方なく寝間に床を敷いてやり、寝かせる。さっき十一屋の若い衆が来て、手紙を置いていったと言伝をするが、平手はそれを読まずに寝入ってしまう。

平手は夜中に目を覚まし、手水に行き、外の風に当たる。酔いは覚め、自分が二親と死に別れ、千葉周作の道場の門を叩いたときの頃を思い出した。そして、妙心から渡された手紙のことを思い出し、読む。それは四年半世話になった笹川繫蔵から「飯岡に殴り込みに行く。助太刀は決してしないでくれ」という内容だ。恩義ある繫蔵親分を見捨てるわけにはいかない。

平手は明神の森に向かって駆け出す。だが、病に冒された体でありながら、止められていた酒を呷ったために、平手は血を吐いてしまう。何度も血を吐きながら、明神の森へ駆ける。到着すると、飯岡方の連中十数人の中へ斬りこむ。多勢に無勢。さすがの平手造酒も非業の最期を遂げたのだった。剣豪の心意気が伝わってきた。