神田梅之丞勉強会「真景累ヶ淵 宗悦殺し」、そして笑二の90分!立川笑二「質屋庫」

神田梅之丞勉強会に行きました。「寛永宮本武蔵伝 山田真龍軒」「真景累ヶ淵 宗悦殺し」「天保水滸伝 三浦屋孫次郎の義侠」の三席。

「宗悦殺し」。深見新左衛門の按摩宗悦に対する冷酷非道な振る舞いを丁寧に描く。五十両借りておきながら、利息だけでも良いからと返済を求める宗悦に、「どめくらが来ると酒が不味くなる」と吐き、挙句には「無礼討ちに致すぞ」。宗悦が「無礼なのは旦那ではないか。そんな法が通るなら、斬ってもらおうじゃありませんか。斬れもしない刀で脅せばよいと思って。なぜ、斬れない。意気地なしめ」と挑発すると、新左衛門はカッとなり、宗悦を斬り殺してしまう。

宗悦の死骸は雪の中、根津七軒町に捨てる。これを発見した近所の者が宗悦の女房おきちに報せると、新左衛門のところに借金取りに行ったことは知っていたので訪ねると、「確かに来たが、金をやって帰した。後は知らない」という冷たい返事。これを苦にしたおきちは四十九日に首を吊って自害してしまう。

祟りだろうか。新左衛門の体調がすぐれず、肩がはる。掛かり付けの按摩の良純に毎日揉み療治をしてもらっていたが、来られない日があった。痛みが激しい。流しの按摩を招き入れると、肩に重石を載せたようだったのが、その重みがスーッと抜けて楽になった。住まいを訊くと「小石川百軒長屋戸崎町」。宗悦と同じ住所である。新左衛門は「もう、よい」と言うが、按摩は「もう二つ、三つ強めに揉んでお暇します」と言う。だが、これが痛い。「どこが痛いのですか」と問われ、新左衛門が「左肩口から乳の下にかけて」と答えると、按摩は「あのときの痛みはこれくらいじゃあございませんでした。ちょうど、去年の今月今夜、宗悦はまだまだ痛かった…」。

これを聞いた新左衛門は「宗悦!迷うたな!」と按摩を斬り殺す。だが、それは見知らぬ按摩だった。さらに、それを目撃した女房おまさまで斬り殺してしまう。行燈の横では宗悦がそっと見つめている。「俺が悪かった」と新左衛門は謝るが、宗悦とおきちの幽霊は毎晩訪れ、とうとう新左衛門は非業の最期を遂げてしまったという…。師匠伯山先生とはまた違った演出の「宗悦殺し」、とても良かった。

「笑二の90分!~立川笑二蔵出し勉強会」に行きました。「お菊の皿」「佐々木政談」「質屋庫」の三席。

「お菊の皿」。熊五郎から青山鉄山とお菊の因縁噺を聞いた八五郎の主張が笑二らしくて面白い。そんなにお菊のことが好きだったら、いっそ襲えばいいのに。だって、最後は殺したんだろう?お菊もお菊だ。家宝のような大切な皿を預けられたときに、「これはなにかあるな」と気づけ。そんなに嫌なら、女中をやめればいい。三平という夫がいるなら、養ってもらえばいい。それから、鉄山も毎晩お菊の幽霊が出るなら、引っ越せばいい。正論であるがゆえに、可笑しい。

その八五郎が皿屋敷でお菊の幽霊を見て、惚れこんでしまい、毎晩通っているというのも面白い。その理屈が、幽霊は裏切らない。人間の女は裏切る、信用できないという。煙草屋のおみつと惚れ合っていて、付き合っていたのに、裏切られた、と。だから、俺はお菊さんに毎晩会いに行くんだ…。視点がとても良い。

「質屋庫」。番頭が三番蔵の前で倒れていて騒動に。夜中、目が覚めて厠に行ったときに、蔵の中から物音がして、人魂のようなものがゆらゆら動いているのを見て、気を失ったのだという。このエピソードが冒頭に入ることで、噺にリアリティーが出る。

旦那が想像するに、質屋商売ゆえに、質入れした品物に持ち主だった人の念が残ってして、幽霊が出るのかもしれないと。本所の長屋のおみつさんが繻子の帯を三円で質に入れた事実から膨らます妄想が具体的で面白い。荷売り商いの呉服商が、十円する帯を元値の六円でいいからとおみつに預けた。おみつは亭主にその話をするが、引け目を感じて六円のところを「五円だ」と言ってしまう。自分で値引きした一円を捻出するために、おかずやらお酒やら手内職の手間賃やらを少しずつ節約して、竹の筒にコロコロストンと蓄えて、ようやく手にした帯。

ところが、暮れにきて亭主が三円の借金を返せないで弱っているのを見て、その帯を質入れして三円を拵えて乗り切った。そのおみつが病で床に伏せて、離縁して出戻ってきた妹が看病する。「私が死んだら御礼にお前に譲りたい帯がある。だが、今は事情があって質屋の蔵の中。許せない…」。よく出来た妄想をする旦那がすごい。

三番蔵を見張りすることになったが、番頭は「独りでは心細い」と、熊さんに助っ人を頼むことにするが、旦那は知恵を働かせて、「泥棒が出るので、見張ってほしい」という口実にするところが、笑二さんの上手いところだ。熊さんは呼び出された理由が「酒樽を盗んだ一件か」と思い込み、酒樽、漬物樽、醤油樽…と次々と訊かれもしないのに、盗みを白状してしまうという…。

そして、寝ずの番で見張っていたはずが、酔って眠ってしまった番頭が目を覚ますと傍にいたはずの熊さんがいない。と同時に、三番蔵から蝋燭の灯が見え、それを人魂と勘違いした番頭は「出たぁー!」。だが、それは熊さんが大きな箪笥を風呂敷に包み運び出そうとしているところ。「見つかっちゃった」。

旦那の考えた質種への持ち主の念が幽霊として出る説は完全に覆され、泥棒癖のある熊さんの犯行だったという…。聴き手が想像していた噺の構造を気持ち良く裏切る、笑二さんの手腕があっぱれな高座だった。