真夏の暑苦しい十席 柳家喬太郎「抜けガヴァドン」「任侠おせつ徳三郎」

上野鈴本演芸場七月中席夜の部初日に行きました。今席は柳家喬太郎師匠が主任を勤め、「真夏の暑苦しい十席」と題したネタ出し興行だ。①抜けガヴァドン②任侠おせつ徳三郎③寝床④品川発廿三時廿七分⑤本当は怖い松竹梅⑥結石移動症⑦すなっくらんどぞめき⑧ウルトラ仲蔵⑨残酷なまんじゅうこわい⑩極道のつる。きょうは「抜けガヴァドン」だった。
「牛ほめ」柳家小ふね/奇術 ダーク広和/「おすわどん」柳家小平太/「不安な母」柳家花ごめ/漫才 ニックス/「宮戸川」柳亭左龍/「銀河の恋の物語」柳家小ゑん/中入り/三味線漫談 林家あずみ/「夏の顔色」弁財亭和泉/「長短」古今亭文菊/太神楽曲芸 翁家社中/「抜けガヴァドン」柳家喬太郎
喬太郎師匠の「抜けガヴァドン」。小田原宿に一カ月逗留し、毎日酒を三升五合飲む客に宿屋主人が宿代を請求すると、その男は無一文の狩野派の絵師で「代わりに仕事で払う」と言う…。ここまでは古典落語「抜け雀」なのだが!
裏の空き地にあった同じく無一文だった土建屋が作ったという土管に、絵を描く。それは三角形で、穴の空いたはんぺんのような、水餃子のような。「ガヴァドンAだ」。翌朝、空から宇宙船が近づくと、その絵は土管を抜け出し、巨大化し、実体化する。だが、いびきをかいて寝ているだけ。近所の人たちが集まり、「名人だな。でも、迷惑なんだよ!」。見物料を取って儲けようとするが、誰も金を払って見ようとはしない。
「不思議な絵がある」という噂を聞いてやって来た老体。土管の絵を見て、「確かに腕がある。だが、この絵にはぬかりがある。抜け出すほどの勢いがあるのに、迫力がない。これでは子どものおもちゃだ」。そして、土管に絵を描き加え、似ても似つかぬ「ガヴァドンBだ」。また、空から宇宙船が近づくと、絵は巨大化し、実体化する。その怪獣を見ていた群衆に、「父上!」と現れたのは無一文だった絵師。そうなのだ。ガヴァドンBを描いたのは狩野派の絵師の父親だった。
暴れるガヴァドンを退治するために、絵師は土管にウルトラマンを描くと、これもまた抜け出て、ウルトラマン対ガヴァドンの戦いがはじまる。喬太郎師匠が立ち上がり、座布団を相手にした格闘シーンを展開。客席は大盛り上がりだ。そして、「ガヴァドンを殺さないで!」と民衆は叫ぶ…。
「こんな落語を創ったんですけど」と喬太郎師匠が鈴本の席亭に台本を見せると、無惨にもその台本は上野広小路の駅のゴミ箱に捨てられてしまった。だけど、聞こえてきませんか?上野広小路の方から怪獣のうめき声が…。ウルトラマン誕生60周年を飾る大爆笑の高座だった。
上野鈴本演芸場七月中席夜の部二日目に行きました。今席は柳家喬太郎師匠が主任を勤め、「真夏の暑苦しい十席」と題したネタ出し興行だ。きょうは「任侠おせつ徳三郎」だった。
「反抗期」林家きよ彦/奇術 ダーク広和/「宮戸川」柳家小平太/「サイン」吉原馬雀/漫才 ニックス/「千早ふる」橘家文蔵/「鉄千早」柳家小ゑん/中入り/アコーディオン漫謡 遠峰あこ/「スナックヒヤシンス」林家きく麿/「堀の内」隅田川馬石/太神楽曲芸 翁家社中/「任侠おせつ徳三郎」柳家喬太郎
喬太郎師匠の「任侠おせつ徳三郎」。今年の花見であった詳細を旦那が定吉に訊くところ、最初は口ごもっていた定吉が段々積極的に喋るようになったのは、実はお嬢様と徳三郎にはまるでいかがわしいところなどないのに、番頭が根も葉もない作り話を拵えて定吉にそれを喋るように仕組んでいたというのが、この「任侠」編の肝だ。
実に腑に落ちる改作である。たとえ徳三郎とお嬢様が定吉の言うような「深い仲」になっていたとしても、旦那は徳三郎は人間的に良く出来た奉公人であり、お嬢様の婿にしても良いと考えた。しかし、番頭は「主従の間柄でそれは許されないこと」と強く主張し、旦那に対して「私にお任せください。私が憎まれ役になります」と言って、徳三郎とお嬢様を生木を裂くように別れさせ、徳三郎には暇を出して日本橋の叔父夫婦に預けてしまう。それらは全て番頭が婿となり、店を乗っ取る策略だったという…。
お嬢様が自分でない男を婿に迎えて婚礼を挙げると知った徳三郎はお嬢様に裏切られたと思った。暇を出されたら主従でなくなる、そうすれば夫婦として結ばれる日が必ず来ると言って別れたお嬢様だったのに、牛を馬に乗り換えたのか、畜生!と思ってしまった。村松町の刀屋で刀を購入し、お嬢様と婿の二人を斬り殺し、自分も喉を突いて死んでしまおうと考える。
この刀屋主人の諭しがとても良い。そんなことに使う刀など売っていない。刀鍛冶もそんなつもりで刀を鍛えていない。そのような考えは馬鹿だ。可哀想でも何でもない。お嬢様は偉い。跡取りを迎えて、父親を安心させようという孝行者だ。お嬢様と婿を斬る?それじゃあ、ただの人殺しだ。溜飲をさげるためだけに人を殺めるなんてもってのほかだ。そこをグッと堪えて、仕返しするのが本来だ。良い嫁を見つけ、一生懸命働いて、店を持てば、お嬢様の耳にもその噂は入る。逃がした魚は大きかったと地団駄を踏ませればいい。それが出来ないなら、自分だけで死ねばいい。そのためにうちの刀は使わせない。辛いだろうが、何とか乗り切ってほしい。尤もである。
お嬢様が婚礼の席から抜け出したという情報が入る。二人がよく逢引していた閻魔堂に徳三郎が行くと、やはり白無垢のお嬢様がいた。「あなたのための花嫁衣裳ではない。見ないで」「私は考え違いをしていました。お嬢様を憎みました。信じられなくなった。でも、あなたは婚礼の席から抜け出した。私は愚か者です」。これを聞き、お嬢様は婿というのは番頭で、その口車に乗せられて父親が婚礼の段取りをしてしまったこと、すべては番頭の店乗っ取りの罠だったことを徳三郎に告げる。
そこに番頭が現れ、「いい加減に俺のモノになれ」と力ずくでお嬢様を連れ戻そうとする。番頭は騙されていたことを覚った旦那を殺して、婚礼の席を血まみれにして、やって来たのだった。そこに現れたのは刀屋主人。「こんなことじゃないかと思った」。実は刀屋と旦那と番頭は若い頃、三人で悪さを働きながら、旅から旅を続けていた仲間だった。だが、堅気になろうと改心し、自分は刀屋、旦那もコツコツと店を大きくした。番頭だけは了見が改まらず、恩を仇で返すような真似をしたのだった。そう言って、刀屋は番頭を斬る。さらに追いかけてきた定吉も斬られる。さらに瀕死の番頭が刀屋を背後から襲い、「お前も地獄に道連れだ!」。
残された徳三郎とお嬢様。「私たちのために何人もの人が死んでしまった。もう、生きていくわけにはいかない」。せつ!あなた!と呼び合う二人は「もう私たちも綺麗なところへは行けない。俺と一緒でいいかい?」「未来永劫、紅蓮の炎に包まれても構いません」。大川に沈んだ徳三郎とお嬢様…。二人はあの世で夫婦として幸せになるのか。シリアスな展開に息を飲む高座であった。


