神田織音独演会「古井戸物語」、そして歌舞伎鑑賞教室「神霊矢口渡」

神田織音独演会に行きました。「古井戸物語」と「狩野芳崖 仁王捉鬼図」の二席。開口一番は神田山兎さんで「南総里見八犬伝 序開き~芳流閣の戦い」だった。
「古井戸物語」。松下軍之進は柳原の土手にいる白雲堂という八卦見(占い師)に「あなたは水難で明朝までに命を失う」と告げられる。果たして、軍之進は子の刻に悲鳴をあげて庭先へ走り、堀へ身を投げて死んでしまった。遺体を出て来ず、女房のお辰は野辺の送りを済ます。
四十九日。軍之進の兄の監物が訪れ、お辰に「仏に義理立てをしても浮かばれるわけじゃない。夫を迎え、安楽に暮らせ」と言って、佐竹様の家臣の織部権十郎を婿養子にする縁談を持ってきて、お辰も承諾をする。女中のお竹が火を熾していたら、煙から「血だらけの旦那様が現れた」と言って怯える。だが、お辰はこれを無視し、仮病を使い、四十九日の法要はお竹一人で行わせた。
深夜二時頃。裏木戸を叩く音がして、ほっかむりの男が訪ねてくる。お竹がかねてより深い仲になっていた飾り職人の金蔵である。お竹は「こんな幽霊屋敷にはいられない」と金蔵に言うが、先立つものがない。すると、板塀から「もし!」という軍之進の声がして、世話になった御礼だと言って紙入れを渡された。その紙入れは軍之進の大事な形見で、中には二十両と紙切れが入っていた。そして、紙切れには「秘密は古井戸の中にあり」と書かれていた。
一方のお辰。「お辰!」と呼ぶ声がするので、茶の間に行くと、箪笥の引き出しが開いていて、金が盗まれていた。「泥棒!」と叫び、お竹の部屋に行くと、お竹はおらず、軍之進の幽霊が「よくも亡き者にしたな。権十郎を婿に取ること、許さない」と迫ってきた。
神田三河町の金蔵の家に着いた金蔵とお竹。お竹は金蔵と夫婦になるために、軍之進の家に3年間女中奉公をして貯金していたのだった。改めて軍之進の幽霊から渡された紙入れを見ると、二十両は確かにあるが、紙切れの文字が消えている。隣に住む八卦見の爺さんが二人を見て、夫婦約束をした間柄であることを見抜き、仲人になることを頼まれる。何を隠そう、この爺さんが柳原の土手の八卦見の白雲堂であった。
軍之進が見立て通り死んだことを知ると、真相を語る。女房お辰は以前から織部権十郎と密通をしていて、軍之進が邪魔になった権十郎は軍之進を井戸の中へ放りこんで殺したのだ。まさに、水難による死だった。このことをお竹は奉行に訴え、お辰と権十郎は処されることになったという…。怪談じみた不思議な物語であった。
歌舞伎鑑賞教室に行きました。「神霊矢口渡」一幕~頓兵衛住家の場。
渡し守頓兵衛の強欲を諫めようとする娘のお舟の必死の覚悟を坂東新悟が熱演した。足利尊氏を討たんと出陣した新田義興は矢口の渡しで穴を開けた舟に乗せられ、殺されてしまう。尊氏の家臣から褒美を貰い、頓兵衛が罠を仕組んだのだった。その後、義興の弟の新田義峰が恋人のうてなとともに矢口の渡し場に到着し、頓兵衛の家に一晩泊まることになる。兄が不慮の死を遂げた謎を解くために、義峰はお舟が自分に恋心を抱いていることを利用し、接近するが…。
義峰が新田家の旗を持っていることを知った下男の六蔵は頓兵衛にこのことを報せ、尊氏に対して点数稼ぎをしてさらなる褒美の金をせしめようと画策する。だが、お舟は恋する義峰を助けたいと考え、頓兵衛が狙う前に義峰とうてなを逃がし、自分が犠牲になることを覚悟する。
頓兵衛が二階に寝ている義峰を床下から刀で突き立てると、刺した相手は身替りになったお舟だった。金のためなら手段を選ばない頓兵衛をお舟は激しく非難するが、頓兵衛は意に介することもなく、義峰たちの後を追う。
深傷を負ったお舟だが、最後の力を振り絞って、櫓に昇り、義峰たちを包囲網を解く合図の太鼓を打ち鳴らす。その執念が実ったのか、どこからか矢が飛んで来て、頓兵衛の喉を射抜く。その矢は無念の思いで亡くなった義興が放ったものだという…。悪事を働く父の頓兵衛への孝行の心を捨て、恋する義峰を救いたいと自らの命を懸けたお舟の正義を貫く精神に感服する芝居だった。


