津の守講談会 田ノ中星之助「せつとハーン 天の川縁起」神田山緑「ろくろ首」

津の守講談会七月二日目に行きました。今月は小泉八雲特集。
「秋田蕗」田辺一記/「せつとハーン 天の川縁起」田ノ中星之助/中入り/「明智左馬之助 湖水渡り」宝井琴鶴/「ろくろ首」神田山緑
星之助先生の「天の川縁起」。ラフカディオ・ハーンはアメリカの新聞記者として来日するが、新聞社の要望する記事を書かず、そのまま日本に在住。偶然に見つかった松江の高等師範学校の英語教師の口を見つけ、島根へ。そのとき、風邪をこじらせたハーンの看病役をしたのが小泉せつで、女性を大事にする優しい心を持つハーンに惹かれ、二人は結婚する。ハーンが日本に帰化し、小泉八雲を名乗った。
ハーンはしばしば、せつに「面白い話を聞かせてください」と求め、日本に残る民話などを読み聞かせた。同じ話を何度も何度も、「あなたの言葉で話してください」と言って書き留め、夫婦で物語の世界を作り上げたと言ってもいい。
その中の一つ、「天の川縁起」はまるでせつとハーンのような仲睦まじい夫婦の物語だ。月が出ると二人でそれを眺めて時間を過ごす夫婦がいた。九十九歳で亡くなった妻はカササギに乗って天に昇った。百三歳の夫は月を眺めていると、妻と一緒にいる心地がすると言って、毎晩月を眺めていた。あるとき、若くて美しい頃の妻が訪ねてきた。夫をお迎えに来たのだ。夫も命が尽き、カラスに乗って天に昇った。だが、天の川を挟んで東側にカラスの夫、西側にカササギの妻という風に分断されてしまった。逢瀬を楽しめるのは、帝が沐浴をする年に一度、七月七日のみに限られた。以来、その日が織姫と彦星が出会う七夕ということになったという…。神秘的な小泉八雲の世界の一端を見た。
山緑先生の「ろくろ首」。ろくろ首というと、首が長く伸びることを想像するが、八雲の描いたろくろ首はそうではない。胴体から切り離された首のことを差す。
菊地家の家臣だった磯貝平太左衛門は、菊地家が滅亡すると、出家して囘龍(かいりゅう)という僧侶となって、諸国を行脚した。甲斐国の山中で道に迷い、大木の根元で野宿をしようとしているところを、一人の木こりが見つけ、「ここは妖怪が出るからやめた方が良い。我が家で休めばいい」と声を掛けてくれた。家の中には5人の者がいて、皆立ち居振舞いが素晴らしい。囘龍は主人にそのことを訊ねると、「元は大名に仕えていたが、酒と女に溺れ、しくじってしまった」と語る。
夜、寝静まったとき、囘龍が居間を見ると、布団の上には6人の首のない胴体だけが横たわっていた。血の跡などはない。胴体のみ。奇妙である。囘龍は主人の胴体を窓の外へ放り投げた。そして、山中に出た。すると、6つの首が虫を食いながら、何か喋っている。「あの坊さんの肉は美味いだろう」。主人が一人の女に家の中を探りに行かせた。やがて、囘龍がいないこと、主人の胴体が消えていることを報告に戻ってくる。
囘龍はずっと身を潜めて、その様子を窺っていたが、ぬかるみに足を滑らせてしまった。この音に気づいた首たちは「食い殺せ!」と囘龍に襲い掛かってきた。囘龍は拳で首を殴り、落ちていた木の枝を刀の代わりにして、首を叩きつける。首たちは畏れ慄いて逃げてしまった。主人の首は「よくも、やりやがったな」と言って、囘龍の右袖に食らいついた。どんなに叩いても、その首は離れない。他の首たちは胴体に戻り、ワーワー泣き叫んでいる。
囘龍は諏訪の町に出る。町人は「生首が付いた坊主がいる!人殺しだ!」と叫び、ひっ捕らえられ、牢にぶちこまれた。奉行が白州で取り調べをおこなう。これまでの一部始終を嘘偽りなく、囘龍は話したが信じてもらえず、死罪を申し渡される。
だが、役人が生首を検めると、これが妖怪の類であることが判る。囘龍は今は僧侶をしているが、元は武士で、磯貝平太左衛門という名前だったことを明かすと、ようやく無罪放免となったという…。小泉八雲らしい、不気味な物語だった。


