津の守講談会 神田すみれ「耳なし芳一」宝井琴星「雪夜叉姫」

津の守講談会七月千秋楽に行きました。今月は小泉八雲特集。

「長短槍試合」一龍斎貞司/「耳なし芳一」神田すみれ/中入り/「雪夜叉姫」宝井琴星/「扇の的」一龍斎貞橘

すみれ先生の「耳なし芳一」。滅亡した平家を弔う墓碑がある阿弥陀寺の住職に声を掛けてもらい、身寄り頼りのない琵琶法師の芳一は身を寄せた。ある夏の夜、檀家の通夜で住職らが出払ったときに、一人で琵琶の稽古をしていた芳一近づき、「芳一!芳一はおらぬか」という声を聞く。盲目の芳一は、その男が甲冑を着た侍だと察する。男は「赤間ヶ関にある高貴な方が逗留しており、合戦の物語りをしてほしい」と頼む。芳一は言われるがまま、男に同行した。

屋敷らしき門が開き、草履を脱いで、女中の案内する大広間に通される。大勢の人がいるようだった。老女が「芳一さま、よくぞお運び頂きました。是非あなたの平家物語を主人が聞きたいと申しております」。どの段を?と訊ねると、「一番哀れみ深い壇ノ浦の段を」という返答。芳一は♬祇園精舎の鐘の音~と朗々と琵琶の音とともに情景を描き出し、広間にいる者は皆、物語に吸い寄せられ、静まり返った。とりわけ安徳天皇が六歳にして入水自殺をするところは嗚咽の声が聞こえた。二位局とともに安徳天皇が黄泉の世界へ導かれていく…まるで目の前にその情景が広がるかのようだった。

老女は芳一が語り終わると、「あなたの琵琶は日本一だ。平家一門も喜んでいると思います」と労い、この赤間ヶ関に六日間逗留するので、毎晩来てほしいと殿が望んでいると請い願った。芳一は約束通り、二日目も三日目も出掛け、琵琶を弾き、平家を語った。芳一の行動を不審に思った住職は「毎晩、どこに出掛けるのだ」と訊くが、芳一は「お許しください」と言って、約束を守ってこのことは明かさなかった。

住職は「芳一は魔物に憑りつかれているのではないか」と心配し、寺男に後をつけるように命じた。四日目の晩は大雨だった。芳一の後を追ったが、姿を見失う。耳を澄ますと、墓場から琵琶の音が聞こえてきた。行ってみると、安徳天皇の墓の前に芳一がいて、墓碑には人魂が浮かんでいる。寺男は芳一に「あなたは化かされている。寺へ帰りましょう」と言うが、芳一はこれを断る。寺男は力づくで芳一を寺に引き戻す。そして、ずぶ濡れの芳一に対し、住職がどこに行っていたのかを訊ねる。

芳一は三日前からの一部始終を噓偽りなく話した。住職は「それは平家の怨霊だ。芳一は八つ裂きにされてしまう」と怖れた。そして、芳一の体に般若心経の経文を書いた。「迎えが来たら、黙っていろ。助けを求めてはいけない。声を出すと殺されてしまう」。

やがて、迎えが来た。「芳一!」と呼ぶが、芳一は答えない。そこには琵琶と耳が二つあるのみだった。迎えの男は「耳だけ持って殿様の許へ帰ろう。それなら殿様も信じてくれる」と考え、耳二つを引き千切った。余りの痛さに芳一は声を出しそうになったが、我慢した。そして、石のようにじっとしていた。そこに住職がやってきた。芳一の耳のあったところから血が流れている。住職はハッとする。「すまない。わしの手落ちだ。耳にだけ経文を書き忘れた」。

だが、悪霊は退散した。芳一の命は助かったのだ。医者の治療で耳は治った。そして、日本一の琵琶法師、芳一は「耳なし芳一」という名前で諸国に知れ渡ったという…。すみれ先生の淡々とした語り口がとても良かった。

琴星先生の「雪夜叉姫」。小泉八雲の原作「雪おんな」を、平将門の乱に絡めて、雪女のおゆきは将門の娘だったというアレンジを加えているところに新鮮味を感じた。

吹雪のために船着場に渡し守がおらず、家に帰ることの出来ない茂作と巳之吉は小屋で一晩泊まることにするが…。夜半に出入口が開いて、白い着物を着た女が現れ、茂作の息を吹きかけると、茂作はそのまま凍死してしまった。だが、一緒にいた巳之吉は許され、命が助かった。

というのも、茂作は藤原秀郷に味方して、平将門を死に追いやった前歴があった。若い巳之吉はそれには関与していない。この女性は雪夜叉姫といって平将門の娘であった。父の仇討として、茂作を殺したのだった。雪夜叉姫は「ここで見たことは口外するな」と巳之吉に釘を刺し、「喋ると命はないぞ」と脅して去って行ったのだった。しかし、巳之吉はこれが夢の出来事にしか思えなかった。

一年後。巳之吉は前を歩く娘に声を掛ける。娘は両親を亡くし、下総に住む親戚に身を寄せるために旅をしているという。巳之吉は親切心から、「我が家に泊まっていきなさい」と誘い、娘は自分の名前はおゆきというと名乗って、世話になる。巳之吉の家は母一人子一人に所帯だったが、巳之吉の母が大層おゆきを気に入り、「もっと泊まっていけ」と引き留めた結果、巳之吉とおゆきは夫婦になった。

17年後。巳之吉とおゆきの間には10人の子宝に恵まれた。子供たちが寝静まって、行燈の灯で針仕事をするおゆきの姿を見ながら、巳之吉は「18年前のことを思い出す」と話し始めた。茂作が凍死し、自分だけが助かった夢のような恐ろしい体験。おゆきの美しい顔を見て。思い出したと話す。あれは夢だったのか、現実だったのか。

すると、おゆきは「あれはこのわしじゃ!」と叫ぶ。「決して口外するなと約束したのに、人間は信用できない。父の将門は人を信用して窮地に陥り、死んだのだ」。そう言うと、おゆきの姿は消えてしまった。以来、巳之吉はあの日の夜のことは二度と誰にも話していない…。

平将門の乱を絡める琴星先生の創作手腕によって、読み物に膨らみが出た。