春陽長講 神田春陽「忠治の娘」、そして人形町噺し問屋 三遊亭兼好「文違い」

新宿講談会夜の部「春陽長講」に行きました。

「本能寺の変」神田伊織/「忠治の娘」神田春陽/中入り/「石川一夢」一龍斎貞奈/「佐倉義民伝」神田春陽

春陽先生の「忠治の娘」。東海道の島田宿で中屋という釣道具屋を営んでいる文蔵の娘、お福は器量良しで多くの男が狙っていたが、正太郎という男と所帯を持つことになった。正太郎は金谷の鬼鉄一家の子分の侠客だったが、堅気になることを誓って、婿入りが許された。

だが、ある日、昔の弟分が訪ねて来て、鬼鉄親分が縄張りを広げるために日坂の金兵衛を殺すことにした、ついては正太郎にその仕事を任せたいという。足抜けしたのだから出来ないと正太郎が断ると、「親分は手柄で盃を返す」と言っており、断ったらこの預かってきた匕首で命はないと思ってほしいと脅された。正太郎は舅や嫁に危害が及ぶことも恐れ、泣く泣く承知をする。

約束の期限の三日目、舅の文蔵は仕入れに府中に出掛けている。正太郎はお福に「床屋に行って将棋を差してくる」と言って、ぼろきれで巻いた長脇差を携えて家を出る。大井の渡しの草むらに潜み、金兵衛を待つ。すると、そこに舅の文蔵が現れた。「日坂の金兵衛を待っているんだろう」と訊かれ、正太郎は驚くが、気を取り直して、「どうしてもドスを抜かないといけないんです。お目こぼしください」と正直に言うと、文蔵は意外な答えをする。「もう、その必要はない。俺が金谷の鬼鉄を叩き斬ってきた。金兵衛さんは仏の金兵衛と渾名される良い人だ。だから、鬼鉄を殺した」。

すべてをお見通しの舅とともに、正太郎は家に戻る。そして、お福を交えて酒を酌み交わす。そして、文蔵は二人に打ち明け話をする。「お福は俺の本当の父親ではない、お前の本当の父親は上州国定村の長岡忠治だ。俺は三ツ木の文蔵という子分だった」。20年前に越後や上州に大飢饉があった。忠治親分は家財道具などを売り払い、百姓たちを助けた。だが、それでも足りない。代官の松田軍兵衛に年貢の軽減を直訴したが、「飢饉は俺のせいじゃない」と冷酷にあしらわれた。

そこで、忠治は百姓のために討死に覚悟で代官所に斬りこみを掛ける決意をする。気にかかるのはおきんという女房との間に生まれた娘のお花だった。おきんは出産後まもなく亡くなった。このお花を連れて逃げてくれと、忠治は文蔵に託した。文蔵は娘さんを立派に育てると誓い、国定村を去る。このとき、忠治は路銀二十両、商売の元手五十両を渡してくれた。そして、「この娘は堅気の亭主を持たせてくれ」と頼まれた。お花はお福と名前を変えて、自分の娘として越中富山に出て、薬売りなどをした。

鈴鹿で追剥に遭っている藤左衛門夫婦を助けてやったのが縁で、その父が手広く商売をしている島田に来て、釣道具屋を始めた。お前たちが「夫婦になりたい」と言ってきたとき、忠治親分との約束である「堅気の亭主」を守るために、正太郎を鬼鉄一家から足抜けさせた。

文蔵は言う。「正太郎、お福を可愛がってくれ。お福、正太郎を大事にしろ。俺はこれから、上州に行って、御恐れながらと名乗って出るつもりだ」。正太郎とお福は「ここに残ってください。そして、親孝行させてください」。だが、文蔵はそれを拒み、「そろそろ、あの世で親分や仲間と馬鹿話がしたい」と言って、忠治から貰った五十両を二人に渡す。「これは忠治親分の形見だ。大事に使えよ」。

そうやって、文蔵は島田を去って、上州に行くが、国定一家のことは過去のことであり、「お咎めなし」となる。そこで、文蔵は忠治の墓の前で切腹しようとしたが、それを寺の住職が見つけ、諭される。そして、出家をして、国定一家の菩提を弔うことで一生を終えたという…。三ツ木の文蔵の義侠の一席だった。

「人形町噺し問屋~三遊亭兼好独演会」に行きました。「たがや」と「文違い」の二席。ゲストはオペラ座の道化師のみまさん、開口一番は三遊亭げんきさんで「真田小僧」だった。

「文違い」。新宿の女郎お杉をめぐる角造、半次、芳次郎の三人の騙し騙されの人間関係をユーモラスに描く。角造に対しては「おっかさんが病気で二十両する高価な人参を飲ませないと治らない」と言って、「夫婦約束をしているというのに、おっかさんと馬を比べるなんてもってのほかだ」と憤慨し、角造は村の平助から馬を買ってほしいと託された十五両を渡してしまう。「お前さんに金を出させたり、頭を下げさせたりする働きのある女じゃないけれど…」と言いながら、心ではベーッと舌を出しているお杉の悪知恵が肝だ。

同様に、日向屋の半次には「義理の父がしばしば金をせびる。お前さんと夫婦になる前に二十両を渡して縁切りをしたい」という違う嘘。なまじ半次は斜前の座敷で角造とお杉のやりとりを聞いているから、自分のためにお杉はこんな嘘をついているのだと田舎者より俺が上だという優越感が仇をする。同じく「夫婦約束をなかったことにする」という脅しで、半次はお杉に十両を渡してしまう。お杉はここまでは悪女である。

ところが、このお杉の上をいっているのが芳次郎で、眼病に罹って高い薬で治さなければ盲目になってしまうという芝居の千両役者だ。芳次郎に惚れているお杉はころっと騙され、角造と半次から巻き上げた金を芳次郎に渡してしまう。「せめて、今晩は泊まっていって」と懇願するお杉に対し、「俺の目を治すには一刻も争うんだ。目が大事だから早くお帰りと言うのが夫婦だろう。世話になったな、さよなら」と芝居を打つところは流石だ。すぐにお杉は素直に言うことを聞く。そして、芳次郎の「お前に金を出させたり、頭を下げさせたりする働きのある男じゃないが…」はどこかで聞いた台詞ゆえ、可笑しい。

最終的に、芳次郎は小糸という女と出来ていて、小糸が田舎の大尽の妾にならないように二十両を支度する必要があったということが、落としていった手紙から判明したときのお杉の悔しさ。と同時に、半次もお杉の部屋の引き出しから出てきた手紙によって、騙されていたことが判る…。お杉と半次が「騙した」「騙された」と喧嘩をする人間の愚かさと可笑しさ。その横で何も知らずに自分が「色男だ」と信じている角造が一番幸せなのかもしれない。