彦いち噺パレード十夜之興 林家彦いち「神々の唄」「愛宕川」

上野鈴本演芸場六月上席夜の部初日に行きました。今席は林家彦いち師匠が主任を勤め、「彦いち噺パレード十夜之興」と題したネタ出し興行だ。①神々の唄②身投げ自演③さとみ④という⑤記憶椅子⑥愛宕川⑦つばさ⑧青畳の女⑨私と僕⑩長島の満月。きょうは「神々の唄」だった。また、中入りの出番は日替りゲスト出演者が彦いち自作の「彦いち噺」を演じるという二重のお楽しみも。きょうは柳家三三師匠で「掛け声指南」だった。

「狸札」柳家小すも/「令和が島にやってきた」林家きよ彦/ジャグリング ストレート松浦/「表彰状」蝶花楼桃花/「妻の旅行」柳家はん治/漫才 風藤松原/「湯屋番」古今亭文菊/「掛け声指南」柳家三三/中入り/アコーディオン漫謡 遠峰あこ/「ロボット長短」林家きく麿/紙切り 林家楽一/「神々の唄」林家彦いち

三三師匠の「掛け声指南」。古典本格派が演じる新作は本当に面白い。「頑張れー」でボクシング世界チャンピオンを育てることが夢のタイ出身のムアン・チャイの一生懸命を実に愉しく表現していた。新宿を歩き回って、セコンドとしての「具体的アドバイス」のヒントを無意識のうちに会得したムアン・チャイが、実戦で本領を発揮するところ、伏線を次々と回収していって、面白い。

フルーツ屋の「腐らない」や「細かく、細かく」、薬物中毒患者の「シャブを打て」や「ストレートで胃袋えぐれ」、サラ金のティッシュ配りの「廻りこんで、出てきたところをポン!」…彦いち原作にあるギャグを自然な形で繰り出すところも流石三三師匠だが、オリジナルのクスグリも挿入するのが良かった。

末広亭の小三治師匠の「小言念仏」の「どじょうやぁー」が、「同情なんかいらねえ」になり、はん治師匠の「妻の旅行」の「あれ、人形だよ」が「あれは人形だ」になって、ボクサーに戦意を高揚させるところ、笑った。特にはん治師匠の人形の件はきょう、前に上がったはん治師匠の高座を聴いて思いついた即興だろう。そういう笑いの瞬発力がとても生きた高座であった。

彦いち師匠の「神々の唄」。軽口というか、嘘つきの源さんが八幡様のお祭りの余興で「スーザン・ボイルを呼べる」と法螺を吹いたことがきっかけで、源さんが女房の力を借りて取り繕った結果…思わぬ展開になるのが可笑しい。

源さんには前科があって、「昔、プロボクサーだった」という嘘をついたばっかりに、高校のボクシング部の外部顧問になってくれと依頼され、インターハイでとんでもない悲惨な結果となって、打ち上げの席で何級だったんですか?と訊かれて「4級」と答えたという曰くつきの嘘つきだ。

それでもそんな源さんを女房は「しょうがないわねえ」と思い、「嘘をつくなら、一貫してつき通しなさい!」と説教した上で、自分がスーザン・ボイルになってあげると引き受けるのが愛しい。ドラえもんや相田みつををパクって「八幡様の唄」を作る源さんは相変わらずだが、女房は源さんに「二度と嘘はつきません!」と約束させるところに夫婦愛を感じる。

すっかり源さんのことを信じた町内の連中は、「わが町に天使の歌声がやって来る!」と喜び、期待を膨らませる。だが、源さんの司会で現れたのは東北訛りの「北の果てからやって来た」スーザン・ボイと名乗る女性。一発で皆は「源さんのかみさんだ!」と見抜くが、その歌声で盛り上がるから不思議だ。

この評判が隣町から、その隣町へと伝わり、次々と招かれる。あっという間に北関東を中心に売れっ子になったという…。亭主の嘘つきが治りますようにと八幡様に拝んでいた源さんの女房の祈りが通じたのか。そして、それは天使の歌声ならぬ、神様の歌声になったのだ!まさに「神々の唄」である。

上野鈴本演芸場六月上席夜の部六日目に行きました。今席は林家彦いち師匠が主任を勤め、「彦いち噺パレード十夜之興」と題したネタ出し興行。きょうは「愛宕川」だった。また、「彦いち噺」を演じる日替りゲスト出演者は弁財亭和泉師匠で「保母さんの逆襲」だった。

「表彰状」蝶花楼桃花/「手水廻し」春風亭百栄/漫才 風藤松原/「粗忽の釘」隅田川馬石/「保母さんの逆襲」弁財亭和泉/中入り/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「老人前座じじ太郎」三遊亭白鳥/紙切り 林家楽一/「愛宕川」林家彦いち

和泉師匠の「保母さんの逆襲」。彼氏に別れを切り出され、尚且つ職場の保育園では園児たちにからかわれ、自暴自棄になってしまった主人公の保母さんの心の叫びが胸に響く秀作だと思う。そして、銀行強盗に入った日の丸銀行の支店長の対応が温かいのが素敵だ。

園児のサトミちゃんのママが偶然、保母さんが道端で携帯電話に向かって「別れたくない!」と叫んでいるところを見てしまった。この噂が園児の間に広がり、「先生、彼氏と別れたの?」と訊くが、懸命に否定する保母さん。園児たちがお別れの唄として、千昌夫の♬星影のワルツを合唱するのが残酷だ。別れることはつらいけど、仕方がないんだ、君のこと、別れに星影のワルツを歌おう~。保母さんは滂沱の涙だ。

金の切れ目が縁の切れ目。サラ金のティッシュで涙を拭きながら、「復讐してやる!札束を叩きつけて、こっちから別れてやる!」。追い詰められたら、何でも出来る。そこで実行したのが、銀行強盗だ。ボロボロのカッターナイフを持って、銀行に入り、「手をあげなさい!」。

だが、支店長は冷静だった。周囲の行員が銀行強盗だ騒ぐ中、「あの人の目は違う」と、警察に連絡するのではなく、「お客様対応」として扱う。「どのようなご用件ですか?ご不明な点、ご不満な点があれば、なんなりと話してください。あなたのご意見を受け止めます」。優しい。

保母さんは支店長に抱きつき、「私の過去を返して!全部でなくていい、少しでいい、二人で過ごしたあの時間を返してください!」。行員たちは「支店長の彼女?痴話喧嘩?」と囁くが。「私だって頑張っているんですよ!皆に喜んでもらいたいと思っている。歌ってほしいのに、歌ってくれない」。すると、支店長は保母さんと一緒に♬グーチョキパーの唄を歌ってくれる。グーチョキパーで何作ろう、右手がグーで、左手もグーでドラえもん~!ほっぺに持っていて、アンパンマン~!

なんだか、落ち着く。世の中、捨てたもんじゃない。支店長の神対応が、自暴自棄の保母さんを救った。素敵な人情噺だと思った。

彦いち師匠の「愛宕川」。夢枕獏さんたちアウトドア仲間でカナダに旅行し、ユーコン川の川下りを体験したときのことをきっかけに、古典落語「愛宕山」にヒントを得て創作した落語だが、僕には理解が追いつかなかったのが残念だった。

旦那と一八が現地のガイドのシゲジロウさんとともにユーコン川をカヌーで川下りする。そのときに、川に沿って沢山の墓があるのを見つけ、シゲさんが「川は神聖なるものと信じられている」と言って、「Shall we Gather at the River」を歌う。それが日本の♬たんたんたぬきの〇〇は風もないのにぶらぶら~になっているというのを初めて知った。

到着地点から下を見晴らすと、一面の針葉樹林。旦那がここはかつてゴールドラッシュで騒がれた土地なのだと言って、鳥の羽の輪を的にしてライフル銃を撃ち、鈴を鳴らすという遊びをする。(これが古典落語「愛宕山」のカワラケ投げに相当するようだ)純金の弾丸で機関銃を連射するところ、扇子と手拭いを使って表現していた。

下に落ちている純金を見て、一八が「あたしが拾ったら、全部あたしのもの?」と訊くと、旦那は「そうだ。お前にくれてやる」。すると、一八は白頭鷲(ハクトウワシ)に掴まり、地面へ。純金を拾うと、「愛宕山」同様に着物を裂いてロープを作り、石を結んで木に引っ掛けるが、竹のようにしなることはなく、針葉樹林なのでポキポキ折れてしまう。

だが、神は見放さなかった。ロープの先の石はユーコン川を泳ぐ巨大キングサーモンに巻き付き、その勢いで水しぶきをあげて、旦那の元へ。「ただいま、戻りました!」、一八生還という…。奇想天外、荒唐無稽な落語だった。