NODA・MAP「華氏マイナス320°」、そして神田梅之丞二ツ目昇進記念講談会「天保水滸伝 ボロ忠売り出し」

NODA・MAP「華氏マイナス320°」を観ました。

お芝居に限らず、エンターテインメント全般において僕はどうしても「これは何が言いたかったのだろうか」と考える癖がある。そのエンターテインメントのメッセージについて考えてしまう。もっと純粋に楽しめばいいじゃないか、と言う人も多いだろうが、そういう性分なんだから仕方ない。

主に昭和50年代に学校教育を受けてきた僕は、特に国語の授業において、この作品で作者は何を言いたかったのかということを考えてまとめるという訓練を受けてきた。表現という意味では、音楽や美術などの科目においてもそうである。読書感想文とか、音楽鑑賞会や展覧会の感想とかを書かされる。僕はそれが得意であった。しばしば担当教師に褒められた。大学入試や入社試験においても小論文は大きな得点源になってくれた。

でも、それは学校教育の弊害だったのかもしれないと思うことがある。社会人になると世の中の事柄というのは、そう簡単に綺麗にまとめられるものではない複雑なものが多いことがわかった。それを綺麗にまとめようとすると破綻してしまったり、間違った認識を持ってしまったりすることもある。だから、今は自分でわかった風に安易にまとめることは良くないと思っている。

NODA・MAPの芝居を観るたびに、それは思う。野田秀樹さんが言おうとしていること…それを僕が綺麗にまとめることができない。今回も観劇終了後に妻と二人でテーマは何かを話したときに、「科学の危うさ」「命の尊厳」といった単語が出てきたけれど、決してそれは正解ではないだろう。野田秀樹さんが「そんな短絡的なものではない」と嘲笑してそうだ。

プログラムの冒頭に野田秀樹さんが「答えは短い方がいい」と言われる時代に、SNSにおいて「長々と答える」のはオジサンの所業として忌み嫌われるとして、次のように書いている。

「速やかな短い答え」というのは、携帯電話の中にあるゲームやSNSが作り出した「思想/哲学」に思えてならない。いや「思想/哲学」などと大仰に言うほどのものではない。短絡的な思考回路だ。(中略)

今時の科学文明についての答えも、そう簡単には出ない。それでも「短い問いに長々と答えた」のが、この芝居であり、しかも答えになっていない。長々と答えても答えられようのない「短い問い」がこの芝居だ。以上、抜粋。

野田さんの「まずご覧あれ」という言葉が、一番正解に近い答えなのだと思った。

神田梅之丞二ツ目昇進記念講談会に行きました。

「寛永三馬術 出世の春駒」神田青之丞/「寛永力士伝 谷風の情け相撲」神田梅之丞/「鼓ヶ滝」神田伯山/「天保六花撰 松江侯玄関先の場」神田松鯉/中入り/鼎談 松鯉・伯山・梅之丞/「天保水滸伝 ボロ忠売り出し」神田梅之丞

梅之丞さんの「ボロ忠売り出し」。仙台丸屋の勘吉の子分、忠吉の愛嬌、そして度胸の良さがよく出ていた高座だった。勘吉親分が湯屋に行っている隙に、親分の着物、脇差、そして200両入った胴巻をちゃっかり身に付けて、塩釜の丹治の賭場に乗り込むところ。いつものボロではなく、ちゃんとした身なりで、どこかの代貸?と思わせる風体で、賭場に割り込んで入り、大胡坐をかくなんて、なかなか出来ることじゃない。

そして、持っている200両を一遍に駒札に換えて半に張る神経の図太さ。忠吉以外誰も半に張らず、丁方が480両になっても、忠吉は降りない。貸元の丹治に工面を頼むが、断られるのもしょうがないだろう。そんな忠治を気に入った一関の貸元、信夫の常吉が「俺が面倒を見てやろう」と助けてやる。結果、目は半と出て、忠吉は大儲け。

だが、その後がいけない。大一番で勝ったところで「お騒がせしました。さようなら」と勝ち逃げしようとする忠治。塩釜の丹治は「渡世人の仁義として許せない。とんだ賭場荒らしだ」と怒ると、忠吉は見事な啖呵で返し、挙句に煙草盆を投げつける始末。丹治の子分たちが「やっちまえ!」と斬り掛かる。忠吉は脇差を抜いて立ち向かおうとするが、これを常吉が羽交い絞めして止める。忠吉がズタズタに斬られること明白だからだ。

この騒ぎを聞きつけて、やって来たのが忠吉の親分の勘吉。「仙台丸屋の勘吉の身内が賭場荒らしをして暴れている」と聞いてビックリ。常吉が勘吉に対し、「お前も水くさい。こんな威勢の良い若い者がいるのに、なぜ引き合わせてくれなかったんだ」。「いきなり200両を張る度胸」と「錦の忠さんと呼べるくらいのナリ」、両方良いと言うが、これも全部勘吉親方からの借り物という…。

それでも、この喧嘩、五分と五分の手打ちとなって、「ボロ忠」と呼ばれた忠吉の貫禄が上がったというのだから、任侠の世界は何が幸いするか、わからない。忠吉の度胸と愛嬌を愉しく勢いよく読む新二ツ目の梅之丞さん、将来性のある若手が出てきて、講談界はますます活気づいていくだろう。