権太楼噺特選十夜 柳家権太楼「佃祭」「心眼」

上野鈴本演芸場五月上席夜の部七日目に行きました。今席は柳家権太楼師匠が主任で、「権太楼噺特選十夜」と題したネタ出し興行だ。①不動坊②御神酒徳利③疝気の虫④天狗裁き⑤猫と金魚⑥抜け雀⑦佃祭⑧心眼⑨猫の災難⑩幾代餅。きょうは「佃祭」だった。
「道灌」春風亭一呂久/「権助魚」柳家我太楼/太神楽曲芸 翁家社中/「強情灸」橘家圓太郎/「実録鶴の恩返し」三遊亭白鳥/漫才 ホンキートンク/「蛙茶番」春風亭一朝/「壺算」桃月庵白酒/中入り/「手紙無筆」五街道雲助/ジャグリング ストレート松浦/「もぐら泥」春風亭一之輔/奇術 アサダ二世/紙切り 林家楽一/「佃祭」柳家権太楼
権太楼師匠の「佃祭」は、与太郎の悔やみで泣けるのが特徴で好きだ。今回気づいたのは、次郎兵衛さんのおかみさんがほとんど登場せず、おかみさんの悋気の部分を権太楼師匠は描かないということだ。何度も聴いているはずなのに、きょう改めて気づいた。あくまで「情けは人の為ならず」に重点を置いた演出である。
次郎兵衛さんが五年前に吾妻橋で身投げしようとしていた女性に三両を恵んで助けたことが、佃島からの終い船に乗らなかったことで命拾いをしたことに繋がった。船頭の金太郎のおかみさんになったその女性は「あのときにお名前も住まいも訊かなかったので、御礼ができなかった」と悔やみ、亭主にも怒られ、「吾妻橋の旦那様」として大神宮様の隣に祀って、毎日「いつか会えますように」と拝んでいた。
「助けてもらったのに礼も言わずに帰ってしまって、すみませんでした。礼を言うのが遅くなりました」と頭を下げると、次郎兵衛さんは「とんでもない。あの船に乗っていたら、泳ぎを知らない私は溺れ死んでいた。それを呼び止めてくれたことで、助かった。礼を言うのは私の方だ。あなたは命の恩人だ」。
これに対して、金太郎が「この野郎が助けたんじゃない。神様が助けたんだ」と言った。まさにその通りだと思う。お互いに感謝し合う心を見て、美しいなあと思う。そして、「家の者が心配しているといけないから、船で送ってくれないか」という次郎兵衛さんのたっての頼みに、金太郎は「こういうときですから、本来だったらお泊り頂いた方が良いとは思う」と前置きしながらも、決断したように「出しましょう。しばらくお待ちください。仲間に理由(わけ)を話してわかってもらいます」と漢気を出すのも素敵だ。
そして、何も知らない神田御玉ヶ池の次郎兵衛宅では、気が動転したおかみさんの代わりに長屋の連中が葬式の準備を整える。取り繕うばかりで上手に悔やみを言えない長屋の衆とは対照的に、月番の与太郎が形式にとらわれない心からの悔やみを言うところ、涙が出る。
次郎兵衛さん、死んじゃったの?あたい、次郎兵衛さんが好きだった。皆はあたいのことを馬鹿だ、馬鹿だと言うけど、次郎兵衛さんは「与太さんはそれでいいんだよ」と言って優しくしてくれた。次郎兵衛さん、死んじゃ嫌だ。次郎兵衛さんを返しておくれ!
与太郎の純粋で真っ直ぐな性格がよく出ていて、世の中というのは裏表あるけど、こういう裏表のない人間でありたいよなあと思う。情けは人の為ならずのメッセージもそうだが、権太楼師匠はこの噺で正直の大切さを教えてくれているような気がした。
上野鈴本演芸場五月上席夜の部八日目に行きました。今席は柳家権太楼師匠が主任で、「権太楼噺特選十夜」と題したネタ出し興行だ。きょうは「心眼」だった。
「寿限無」柳亭ちょいと/「猫と金魚」柳家甚語楼/太神楽曲芸 翁家社中/「権助芝居」橘家圓太郎/「座席なき戦い」三遊亭白鳥/漫才 ホンキートンク/「湯屋番」春風亭一朝/「親子酒」柳家喬太郎/中入り/奇術 アサダ二世/「締め込み」柳家さん喬/「粗忽の釘」春風亭一之輔/紙切り 林家楽一/「心眼」柳家権太楼
権太楼師匠の「心眼」。人は奢り昂ってはいけない、常に謙虚であれ、毎日に感謝して生きろ。そんなことを教えてくれる権太楼師匠の高座だ。梅喜は二親に死に別れ、自分が育ててやった弟の金公に「ドメクラ、食い潰しに来やがった」と言われ、喉笛に食らいつきたいほど悔しい思いをした。何で俺はこんな不自由な体になっちまったんだろう…。片目でいいから見えるようになりたい。梅喜の心の叫びが聞こえてくるようだ。
茅場町のお薬師様に三七二十一日、日参して願掛けをした。女房のお竹も茶断ち、塩断ち、水垢離をして信心をした。その一念が岩をも通した。目が明いたのだ。さぞ嬉しかったろう。だが、その後がいけない。
人力車に乗っていた東京で五本の指に入る芸者とお竹を比べ、どちらがいい女ですかと上総屋に訊く。お竹さんはニンナシバケジュウ、人間に籍のない拙い器量だと聞き、梅喜は「そんな女と夫婦だったのか、みっともない」と言ってしまう。見栄えは悪いかもしれないが、了見や心持ちで言ったら、お竹さんは日本で五本の指に入る「いい女」だ、お前さんにどれだけ尽くしているか、罰が当たると上総屋は言うが、梅喜は意に介さない。
しかも、梅喜は役者に負けないいい男で、芸者の山野小春が三年前から梅喜に岡惚れしていると聞いたから尚更だ。「目が明いたお祝いにご馳走したい」と言う小春と連れ立って、茶屋に入る。「ずっと岡惚れしていた。でも、梅喜さんにはおかみさんがいるから」と言われたときの、梅喜の返答。「あなたのような人と所帯を持てたらどんなに嬉しいか。あんな化けベソ、みっともないから叩き出しますよ」。梅喜は舞い上がっている。そこへお竹が現れ、「薄情者!」と首を絞める…。だが、それはすべて夢だった。
夢から覚めた梅喜。夢か…信心はよした。俺は汚い男だ。このままがいい。盲目(めくら)は妙だ。寝ているときだけ、よく見える。たとえ、それが夢の中であれ、自分の了見が汚いことに気づいた梅喜はこれから恋女房のお竹に感謝して、幸せを感じながら生きていける。それを思うと救われたような気がした。


