三月大歌舞伎「三人吉三巴白浪」

三月大歌舞伎夜の部に行きました。「壽春鳳凰祭」と通し狂言「三人吉三巴白浪」四幕七場。
「三人吉三巴白浪」は令和元年10月歌舞伎座以来となる「割下水伝吉内の場」がとても興味深かった。夜鷹を取り仕切る伝吉にまつわる物語パートである。
伝吉は和尚吉三の父親だが、夜鷹をしているおとせという娘の父でもある。お嬢吉三に大川端で店の客が忘れていった百両を強奪され、川に突き落とされたのがおとせだ。幸い、八百屋久兵衛に助けられて戻ってきたが、百両を忘れたのが久兵衛の息子の十三郎で、奉公先から百両を持ち出して行方知らずになっていた。伝吉が十三郎を匿っていたが判り、お互いの息子と娘が無事だったことを確認して一安心する。
実は十三郎は久兵衛の実の子ではなく、19年前に行方不明になった我が子を探しているときに拾った子であると告白する。これを聞いた伝吉は思い当たる節があるというのがミソだ。「実は」が続くが、実は十三郎は伝吉の実の子で、おとせとは双子の兄妹だった!おとせが十三郎に心を寄せているようなので、それが気がかりでもある。
その昔、双子は畜生腹と忌み嫌われていた。伝吉は娘のおとせは金になると思い、手元に残したが、息子の十三郎を捨てたのだった。実は伝吉は当時盗賊をしていて、奉公先の海老名軍蔵に頼まれ、安森源次兵衛の屋敷に忍びこみ、将軍家から預かっていた庚申丸という刀を盗み出した。そのときに吠える犬を庚申丸で斬り殺したが、その弾みで刀を川に落として紛失してしまった。
その後、伝吉の妻の産んだ双子の体には犬の斑と同じ痣があり、これは犬の祟りだろうと話すと、妻は錯乱して川に身を投げて死んでしまった。以来、伝吉は改心し、水死体を葬って供養することを熱心にして、「土左衛門伝吉」と渾名されているという。
十三郎が落とした百両は、おとせからお嬢吉三、そして和尚吉三の手に渡った。何とか百両を捻出し、十三郎を救ってやりたいと考えていた伝吉に息子の和尚吉三が百両を差し出す。だが、伝吉は普段から素行の良くない和尚から受け取ることはできないと考えた。
だが、和尚は仏壇に百両を置いておいた。それを見つけた伝吉は門口にいる釜屋武兵衛を和尚だと思い込み、百両を投げつけてしまう。後からそれは和尚ではなく、武兵衛だと気づいて追いかけるが…。武兵衛は本所お竹蔵でお坊吉三にその百両を奪われてしまう。今度は伝吉がお坊吉三に金を返してほしいと訴えるが、お坊は耳を貸さずに、揉み合い、やがて伝吉を殺害してしまう。そこへ現れた十三郎とおとせは父親の亡き骸に気づき、悲しみにくれる…。
この後、伝吉が昔庚申丸を盗み出したことで、その責任を取らされて切腹した安森源次兵衛の息子がお坊吉三であったとか、八百屋久兵衛はお嬢吉三の実の父親で、安森家に出入りしていたこともあり、お坊とは旧知の仲であったとか、河竹黙阿弥独特の因果は巡る「人間関係」が明らかになり、面白い。
だが、一番の悲劇は十三郎とおとせの死だろう。父の伝吉の仇討をしようとお坊吉三をつけ狙うと、それに気づいた和尚吉三が「俺の義兄弟のために犠牲になってくれ。悪い兄を持った因果と思い、死んでくれ」と頼む。和尚は実の兄妹であることを知らずに深い仲になってしまったこの二人へのせめても計らいをしたのだ。そうとは知らない二人は「兄のため」と覚悟をして死んでいった…。
今回、伝吉を軸にこの「三人吉三」を観たことで、色々な発見があったのが面白かった。

