立川志らく独演会「妾馬」、そして一龍斎貞鏡修羅場勉強会「安兵衛婿入り」

立川志らく独演会に行きました。「鮑のし」「一文惜しみ」「火焔太鼓」「妾馬」の四席。

「妾馬」。身分の差など無頓着、殿様の前でも物怖じしない八五郎が良い。赤井御門守が「朋友に物申すようでよい」と言われ、八五郎は膝を崩して胡坐をかいてフランクに喋る。大層なご馳走が運ばれ、「見栄は張らなくていいよ」「手ぶらでごめんね。佃煮でも土産に買ってくるんだった」、さらに殿様と俺とは兄弟、大工と殿様という違いはあるけど、俺は殿様の義兄さんだと言って憚らないところが魅力だ。

そして、「いつでも気に入らない大名がいたら教えてくれ、おれがのしてやる」とも。目の前に妹のお鶴がいることに気づき、「こんな良い娘はいないよ。孝行娘だ。可愛がってやってくれ。捨てないでおくれよ」。屈託のない物言いは嫌味がなく、好感が持てる。

八五郎が殿様に「一つお願いがある」と言う。おふくろを呼んでやってくれませんか。別にこんな料理を出すことはない。ただ、孫を抱っこさせてやってください。お鶴が赤ん坊を生んだとき、おふくろは「初孫だ!」と喜んで踊りながら長屋中を歩いて回っていた。でも、「身分が違うというのは情けない」と泣いていた。可哀想になってね。子守唄を歌って、抱っこをさせて、おしめを取り替えさせてやってくれませんか。何とも優しい息子ではないか。殿様も承知し、八五郎はお鶴に「お前の亭主は物わかりがいいね」。

この兄を気に入った赤井御門守は八五郎を士分に取り立てる。暫くして、侍となった八五郎が長屋を訪ねくる後日談が興味深い。「ババアに会いに来たんだ。お土産がある」と言って、駕籠を呼び、そこから赤ん坊を抱っこしたお鶴が現れたのだ。“お世継ぎ”を抱っこさせ、子守唄を歌わせた。これこそ、親孝行だ。「屋敷に呼ぼうと思ったけど、この方が良いと思って」。

そして、八五郎は打ち明ける。「もう、侍はやめようと思ってね。おふくろを独りで置いていかれない。元に戻ろうかと思って」。殿様には了解を得たという。お鶴が口を利いてくれて、町人に戻れる。これが「鶴の一声」…。志らく師匠らしいサゲがついた素敵な高座だった。

一龍斎貞鏡修羅場勉強会に行きました。「明智左馬之助 湖水渡り」と「安兵衛婿入り」の二席。前講は宝井優星さんで「石川虎次郎 箱根の災難」だった。

「安兵衛婿入り」。中山安兵衛は案外素直で、堀部弥兵衛が婿に迎えたいという熱意をあっさり受け入れて、中山家の再興は次世代に託すことにして養子となり、堀部姓を名乗る。重点を置いているのは、安兵衛が吉田忠左衛門の仲介で浅野内匠頭に目通りする場面だ。ここで安兵衛と内匠頭はしっかりと主従の関係を表面的ではなく、心の奥底から結んでいる。後に赤穂事件が起き、仇討となったとき、安兵衛の忠君が生きてくる演出だ。

いわゆる「安兵衛駆け付け」と呼ばれる、高田馬場において「グズ安」「吞兵衛安」が伯父の敵二十数名をばったばったと斬る獅子奮迅の活躍ぶりも、勿論貞鏡先生は鮮やかに描き、江戸市中に安兵衛の名が轟くであろうと思わせる。当然、その名声は家来を通じて内匠頭の耳にも入っていたのだろう。

安兵衛が内匠頭と対面し、形ばかりの主従固めの盃を交わした後。浅野家に伝わる「十二カ月の大盃」を一月一合、二月二合、三月三合と一合ずつ増えていき、最後の十二月の一升二合を豪快に飲み干した安兵衛。これに対し、内匠頭の悪戯心が働く。「閏を致せ」。盃は一合でも二合でも良いのだが、安兵衛はあえて十二月を選び、これを一気に飲む。その上で、「舞いをご覧にいれましょう」と言って、安兵衛は踊る。身のこなし、足さばき、とても五升も飲んだとは思えない見事な舞いである。内匠頭は「面白き奴である」と気に入るのも当然だ。

だが、その後、安兵衛は高いびきをかいて寝てしまう。内匠頭はそっとしておいてやれと言って、自分の羽織を安兵衛に掛けてやり、その場を去る。そのときに、わざと刀の鍔の音を立てた。すると、安兵衛はハッと飛び上がり、何事もないことを確認すると、また寝入った。内匠頭は「一分の隙もない。酔っても武士であることを忘れていない」と益々気に入った。

目を覚ました安兵衛も、殿様の羽織が掛けられていることに気づき、その心遣いに頭が下がる思いである。この殿様のために命を投げ打とう。そう心に決めた安兵衛は松の廊下以後、誰よりも仇討本懐を遂げることに執着したのであろうと思った。