面影橋の会 三遊亭花金「干物箱」、そして座・高円寺寄席 国本はる乃「項羽と虞美人」田辺いちか「カナリアと軍人」

面影橋の会に行きました。三遊亭花金さんが「干物箱」と「松山鏡」、入船亭扇兆さんが「元犬」と「茶の湯」だった。
花金さんの「干物箱」。声色が得意なところを見こまれて十円札に羽織一枚で、若旦那の身替りとして二階で留守番をすることになった本屋の善吉だが…。若旦那の部屋に花魁からの手紙があるのを見つけて読んでみたら、自分の悪口が書いてある。「善公はもとより嫌な客なれど、愛想もコソも尽き果てた。先日は越中褌を置き忘れ、その臭気はなはだ強く、衛生係の巡査がやってきてDDTを散布した。チーチーパーパーの数の子野郎なり」。この文面に善吉は大層憤慨し、興奮して声を荒げたのが下の親父に聞こえてしまって身替りが露見する。これで若旦那の作戦が失敗に終わるところを愉快に演じた。
花金さんに限らず、この噺を演じる人が最近は「運座の巻頭巻軸の句」を演らなくなってしまったのが残念だ。若旦那は吉原の花魁に会いたいから、善吉に二階の自分の部屋にいてもらって、親父への対応を得意の声色で誤魔化してもらおうと考えた。そこは用意周到にしなくてはいけない。予め親父に訊かれそうなことを想定して、「先日親父の代わりに行った運座」について善吉に仕込んでおくことくらいは考えそうなものだ。巻頭の句「親の恩夜ふる雪に音もなし」、巻軸の句「大原女も今朝新玉の裾長し」。当然、善吉は覚えられないから紙に書いてもらうわけだが、そのくらいの準備を若旦那だったらするだろうと思うのだが。
これに加え、もう一つ親父の代わりに行った無尽のことも訊かれ、こちらは若旦那が想定していなかったから、親父に「どこへ落ちた」と訊かれた善吉は当然あたふたする。運座の件と無尽の件がセットでまずあって、それに続けて近所から土産にもらった「干物はどこにしまった?」と訊かれるから善吉のパニックぶりが一層引き立つと思うのだけれど。この「干物箱」が掛かる度にいつも思うのである。
座・高円寺寄席「浪曲、講談たっぷり!」に行きました。天中軒雲月先生が病気療養のため休演、国本はる乃さんが代演した。
「木村又蔵 清正との出会い」一龍斎貞昌/「項羽と虞美人」国本はる乃・玉川鈴/「仁礼半九郎 カナリアと軍人」田辺いちか/「赤穂義士本伝 内匠頭切腹」一龍斎貞寿/中入り/「陸奥間違い」玉川奈々福・広沢美舟
はる乃さんの「項羽と虞美人」。天下統一を目指していた項羽は初めて虞美人と出会ったとき、鬼のような顔をしていたという。そのとき、虞美人は十四歳。「この方に生涯を捧げよう」と項羽の側室になった。項羽は正室を持たなかったので、虞美人に戦いの愚かさを教えられ、項羽は強さの上に優しさを兼ね備え、鬼から人間に変わった。戦いで沢山の命が消えていく。天下を統一することによって、真の平和がもたらされるのかと疑問を抱いた。
劉邦に攻め込まれたとき、虞美人は「この世の縁は薄くとも、来世で固い契りを結ぼう」と言って、舞いを終えた後に自らの胸を剣で突き刺し死んでいった。そして、項羽も敵陣に突き進むが多勢に無勢。虞美人と「あの世の二人旅をしよう」と心に決めて、討死をする。はる乃さんが戦乱の世の恋の儚さを巧みに聴かせた。
いちかさんの「カナリアと軍人」。女性嫌いで通っていた薩摩隼人の半九郎だが、愛玩していたカナリアが迷い込んだ隣家の長谷部家の庭にいたお嬢様、由起子に一目惚れしてしまう。武骨な軍人ではあるが、一旦惚れこむと恋煩いになってしまうという人間的な側面が見えるのが良い。
岡本少佐が仲立ちすると、由起子は「こちらから望んで妻になりたい」という嬉しい返事が返ってきて、不安そうな顔から満面の笑みに変わる半九郎がとても愛おしい。すぐに婚礼の準備を…と思っていた矢先、半九郎の上司である西郷隆盛が征韓論に敗れ、鹿児島へ下野。やがて西南戦争になる。さて、半九郎と由起子の運命やいかに?と気になるところで、いつも終わってしまうのが悩ましい。是非、続きを聴きたい。


