新宿末廣亭二月中席 春風亭昇也「百年目」

新宿末廣亭二月中席中日夜の部に行きました。今席は春風亭昇也師匠が主任を勤める興行。5月から真打に昇進する雷門音助、桂竹千代、春風亭昇吾、昔昔亭喜太郎の4人の交互出演があり、披露興行の新宿・浅草・池袋の三館共通前売チケットの手売りをしていた。
「和田平助」神田青之丞/「真田小僧」桂竹千代/相撲漫談 一矢/「ふぐ鍋」笑福亭羽光/「すたんどさん」瀧川鯉朝/「石川五右ヱ門の法事」坂本頼光/「新聞記事」三遊亭萬橘/「堪忍袋」三遊亭圓丸/歌謡漫談 東京ボーイズ/「家見舞」桂文治/中入り/「個室らくご」昔昔亭喜太郎/コント コント青年団/相撲駄洒落 三笑亭可風/「蔵前駕籠」瀧川鯉橋/漫才 宮田陽・昇/「百年目」春風亭昇也
昇也師匠の「百年目」。旦那含め店の者には秘密裏で遊んでいる番頭の治兵衛の後ろめたさと警戒心が前半によく出ていた。茶屋遊びをしている二番番頭の佐兵衛はじめ小僧たちに散々小言を言って、「得意先を廻る」と出掛けるが。迎えに来た幇間の一八に店先でウロウロしていたことが気になって仕方がなかったと叱り、「店では堅物で通っているんだ」。番頭の隠れ遊びも大変だ。
駄菓子屋の二階を借りた衣裳部屋ですっかり“旦那”風な洒落た身なりに着替えた番頭だが、「狭じきものは宮仕え」とばかり、せっかくの向島の花見なのに、芸者衆に対して、屋形船の障子は締めろ、お前たちだけ岸に上がれ、俺はここで飲んでいるとあくまで警戒心を緩めなかったのだが…。酒が進むにつれて、その警戒心も緩み、岸に上がって、肩脱ぎになって自慢の長襦袢を見せて鬼ごっこに興じるところが人間臭くて良い。
そこに通りかかった、旦那と玄白先生。芸者衆に囲まれて真中で踊っているのは治兵衛さんでは…。ここで旦那は「楽しく遊んでいるから、顔を合わせたら可哀想だ」と気遣うところ、優しくて人格者だ。番頭が旦那にぶつかって、旦那に気づき、「長々ご無沙汰しております」と平身低頭。だが、旦那は「だいぶ酔っているようです。怪我をしないように遊ばせてやってください」と言って、この場を去る。粋な旦那である。
しかし、番頭の方はパニックだ。「失態をしてしまった」と、一遍に酔いが醒め、花見から離脱して店に急いで戻り、「頭が痛い」と二階に床を延べて寝込んでしまった。あんなところを旦那に見られてしまった。叱られるどころか、暇を出されるのではないか。逃げよう。いや、優しい旦那だから一回は許してくれるのではないか。悶々として夜も眠れない。寝たかと思ったら悪夢で目が覚める。「なんで、あのとき、岸にあがってしまったんだ!」。
翌朝。旦那から呼び出しがかかり、番頭が旦那の部屋へ。定吉の伝達がなっていなかったのを見て、旦那は「出来の悪い小僧の手綱を締めたり、緩めたり、さぞかし大変だろう」と番頭を労う。そして、「旦那」という言葉の由来。天竺の百栴檀の木は南縁草に露を下ろし、南縁草は百栴檀の肥やしになっている。持ちつ持たれつの美学。この頃、栴檀の番頭には勢いがあるが、南縁草の奉公人がげんなりしているのではないか。枯れてしまわないように、露を下ろしてやってほしい、と。
そして昨日の一件。「お楽しみのようだったね、お得意様のお付き合いであれば、相手に負けないようにお金を使いなさい、不細工な真似はしないでおくれ」。そう言って、旦那は治兵衛の思い出を懐かしそうに語る。十一歳のときに葛西の惣兵衛さんに連れてこられたお前は、色が黒くて痩せていて、目がギョロギョロして寝小便ばかりしていた。お灸を据えるのに、色が黒いから白粉を塗って目印にした。二桁の算盤がなかなか覚えられず、二つ用を言いつけると必ず一つは忘れてくる不器用な子だった。それが…昨日の踊りの器用なこと…ここにおもちゃの太鼓があるから踊っておくれ…(笑)。
で、切り出す。「昨夜は眠れたかい?私は眠れなかった」。帳面に大きな穴でも空いているのではないか。帳面をすべて見せてもらった。一つの穴もなかった。お前は自分の甲斐性で稼いで、自分の甲斐性で遊んでいた。驚くような遊びをする人ほど、驚くような稼ぎをするんだね。番頭を褒めちぎったのが印象的だ。
そして、訊く。「お前は二番番頭の佐兵衛をどう思う?」。治兵衛が「頼りないところは多少ありますが、他の店に引けを取らないと思います」。すると、旦那は「お前のお墨付きがあるなら、心配ない」と言って、治兵衛に「あと半年待っておくれ。今年の秋には暖簾分けをさせる。そして、来年の春には一家の主同志で花見をしようじゃないか」。嬉しい言葉である。
上司は部下に対し、全幅の信頼を置いて仕事を任せる器量が必要だと思う。随所随所のチェックは欠かせないが、細かいことまで口煩くするのは部下のやる気を損なう。経営者、中間管理職、そして労働者。お互いに信頼できる関係を保てることが経営の基礎にあるのではないか。「百年目」を聴く度に、これは経営論の噺だなあと思う。

