末広亭できく麿噺 蜃気楼龍玉「首領が行く!」橘家圓太郎「あるあるデイホーム」

新宿末廣亭二月上席中日夜の部に行きました。今席は10人の古典派真打が林家きく麿師匠の新作落語でトリを取る特別興行。きく麿師匠は毎日、ヒザ前を勤めている。きょうのトリは蜃気楼龍玉師匠で「首領が行く!」を演じた。

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龍玉師匠の「首領が行く!」。4年2組のヨシダタケシとタケイトオルがVシネマの世界にどっぷりとはまって、感化されている様子を実に巧みに表現していた。龍玉師匠の声質や雰囲気がこの噺に合っていると思った。

ヨシダとタケイが春雨サラダの小鉢を盃に見立て、酒の代わりに牛乳で兄弟盃を交わしたというのも可笑しいが、口調がすっかり関西系反社会的勢力の組員っぽくなっているのが面白い。担任教師に「これからもお見知りおきを」とか、「わて、死んでも兄貴についていきます」とか、「わてらがこの組を、この日本を変えていく」とか。

担任に「盃」を没収されると、タケイが「我慢の限界」と言うのに対し、ヨシダが「辛抱せい」となだめ、「極道というのは、そういうもんや。親父はんが白を黒と言ったら黒なんや。親父はんには逆らえない」。担任教師を「親父はん」呼ばわりするところも愉しい。「親父はんがオスギは面白いと言ったら、それはピーコでっせと言うてはならぬ」(笑)。

噺の途中で何回か出てくる学級委員長のタドコロのナレーションも良いスパイスだ。「ヨシダとタケイは熱い涙を流し合った。しかし、この後に血で血を洗う抗争に巻き込まれるとは、その時には知る由もなかった」…。

昼休みにドッジボールをするのに、運動場は「5、6年生の島」だから、二宮金次郎の像がある通称「金次郎広場」で遊ぶのだが、その場所を4年1組に奪われ、1組と2組の抗争になる。そのことが担任にばれて、「チンコロしたのは誰や?」。チンコロとは「東の人が言うチクリや」と説明すると、担任が「あなた、世田谷の子供でしょ!」(笑)。喧嘩の原因を追及されても、ヨシダは黙ったままで、「自分、不器用ですから」。担任がつかさず、「その人はVシネマには出ません!」。

生徒たちの情報網は馬鹿にできなくて、担任教師が終業後にパピオンという喫茶店の一番奥に座ってビールの小瓶を1本だけ飲むことを指摘され、「その席に見知らぬおっさんが座っていたら、どないしますねん?」。タジタジになる担任教師が可笑しい。

その担任教師が「三日待ってくれ。先生、勉強して解決法を見つけるから」と生徒に言った三日後。めちゃくちゃ岩下志麻みたいになって、「校長先生が間に入って、1組と2組は1日交代で金次郎広場を使うことで手打ちになった」。「これは呑み込んでもらわないと困る。女には女の意地がある。往生しいや」。担任教師もVシネマに感化されるという…。これぞ「きく麿ワールド」を龍玉師匠の巧みな話術で実に愉しく聴かせてくれた。

新宿末廣亭二月上席六日目夜の部に行きました。今席は10人の古典派真打が林家きく麿師匠の新作落語でトリを取る特別興行。きく麿師匠は毎日、ヒザ前を勤めている。きょうのトリは橘家圓太郎師匠で「あるあるデイホーム」を演じた。

「狸札」林家十八/「追っかけ家族」林家きよ彦/漫才 横山まさみ・浮世亭とんぼ/「金明竹」入船亭扇橋/「ざるや」蜃気楼龍/奇術 伊藤夢葉/「粗忽長屋」柳家はん治/「鼓ヶ滝」林家正雀/ジャグリング ストレート松浦/「長短」柳家小里ん/中入り/「反対俥」隅田川馬石/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「手紙無筆」橘家文蔵/「ロボット長短」林家きく麿/太神楽 翁家勝丸/「あるあるデイホーム」橘家圓太郎

圓太郎師匠の「あるあるデイホーム」。高齢者介護施設の女性の人気者だったヨシダトメキチが、新参のサクライに人気を奪われ、落ち込んでしまった。それを小学校以来75年ぶりに再会したノブちゃんが「力になりたい」と励まし、再び人気者になれるように作戦を練ってあげる男の友情という部分にスポットを当てているのが圓太郎師匠らしくて良かった。

トメさんは話が面白くて、一緒にお茶を飲みたいと女性入所者が群がっていた。ところが、元寄席芸人だというサクライの方が背も高いし、お洒落な服装だし、ギター漫談で一世を風靡した話術で女性たちが鞍替えしてしまった。その上、「トメさんは臭い」と悪評が立つ。やれ乾燥ワカメを水に浸けたまま五、六日放置したときの匂いだとか、やれ運動靴で靴づれができたときに貼ったバンドエイドを剥がしたときの匂いだとか…。

男の焼き餅は女性のそれより強いと言うが、まさにそうで、トメさんは「ばあさんとはいえ、女性たちにもう一度囲まれてちやほやされたい」と思う。親友のノブさんが「向こうはプロかもしれないが、笑いのセンスはトメちゃんが上だ」と励ます。将棋をやったときに俺が「王手金取り」と攻めたら、トメさんは「そうはいかねえ!」と股座を押さえた。「そのセンスだよ。トメちゃんから笑いを取ったら何も残らない」と言って、今度の施設の交流会で「あるあるネタ」「自虐ネタ」を孫に教わって準備し、発表すれば人気も復活するよ!と提案したが…。

このネタが「きく麿ワールド」なんだけど、それを圓太郎師匠がきっちり演じているのがとても良かった。耳は遠いが、トイレは近い!トメさんだよ!ミツコさん、朝御飯食べた?食べちゃった?食べたんだって!毎日同じことを繰り返しするとボケないと言われたんだけど、最初に何をするか忘れちゃった!孫におやつにカリントウをあげたら、犬のウンコって言われちゃった。ネタの間に「冥途の土産に聞いておけ~」というフレーズが必ず入るのが味噌だ。

運動靴を履こうとして、靴ベラがなかったから指を入れたら、指が折れちゃった!孫に口が臭いって言われた。犬のウンコ食べているからだって!アマゾンからお届けものでーす。遠路はるばると思ったら、川口から来たんだって!コンセント差すのに、3分かかる。最後は「そろそろ冥途に旅立ちまーす」。

きく麿的ギャグを圓太郎師匠が大真面目にやると、これが実に面白い。そして、高齢者男性の哀愁も漂ってくる。これがいい。素晴らしく愉しい高座だった。

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