渋谷らくご創作大賞 立川笑二「帰りたいおじさん」、そして ふたりらくご 柳亭信楽「聖夜の奇跡」

配信で渋谷らくご「しゃべっちゃいなよ」決勝を観ました。今年の創作大賞は立川笑二さんに決まった。
「恋の牧場」柳家花ごめ/「ウミガメのスープ」三遊亭青森/「帰りたいおじさん」立川笑二/「元カノは手ぬぐい」桂伸ベエ/「黄金比」柳家花いち
僕も笑二さんが圧倒的に優れていると思った。地元沖縄に帰っていて、三年ぶりに東京に戻ってきたチバナさんが「明るくなった」というのが良い。以前はバーのカウンターで「帰りたい」とぶつぶつ独り言を言っている暗い人間だったのが、吹っ切れた。それは幽霊が取り付いて心霊写真を撮ることに目覚めたという…。サゲの巧さも含め、実に構成がしっかりしている。笑二さんの創作の個性である「面白いけど、怖い」というテーストが存分に発揮された作品で受賞したことは、今後もこの種の創作路線でいくことが大いに期待できて、僕自身も嬉しかった。
面白い発想という意味では、花いち師匠も良かった。ディテールの面白さ。麵つゆは汁1水4というナツミに対し、タカコは汁1水8と言うと、それは仮面ライダーの黄金比だという。仮面ライダー1に対し、ショッカー8。ふむふむ。餃子のタレの醤油1お酢1ラー油2は体育館裏の女子の告白…2というのは見守る友達女子というが可笑しい。生姜焼きのタレの醤油2酒1味醂1生姜0.1に対し、それは誕生日ケーキの蝋燭の吹き方だというのも面白い。最後の0.1というのに共感。どんどん笑いが進化していくのは素晴らしいが、如何せんストーリー性には欠けるのが残念だ。
花ごめ師匠のアーチェリー部の先輩が実家は恋のキューピットを牧場で飼育しているという設定がユニークだ。野性のキューピットが減少していることを、若者の恋愛ばなれに繋げているところや、狂暴なキューピットが足に取り付けてあるGPSを食いちぎって脱走し、そのキューピットの名前が那須与一というのもセンスを感じる。与一脱走から何か新たな展開が起きるのかと期待したが、地口落ちで終わってしまったのが惜しかった。
青森さんは男二人が時間潰しに水平思考クイズをやろうとするが、一方が頓珍漢な質問しかできない。この男、やたらAIに物事の判断を委ね、友達よりもAIの方が信頼できるという、その愚かさを描くと思いきや、「待ち合わせをしているゴトウが来ない」のはなぜか?というサスペンスになっていくところが面白いと思った。水平思考クイズの部分をコンパクトにして、サスペンスの部分をもっと膨らませると良いのではないか。
伸べえさんは頭痛がするので病院に行ったら、頭の中が「ドーナッツ化現象」を起こしていると診断され、脳みその周りに出来たドーナッツを食べてしまうという奇想天外な笑い。惜しくむらくは、連絡が取れなくなったサトミちゃんがタニグチを介してアイザワに渡した手ぬぐいとの関連性が薄く、噺が繋がらなかった。アイザワが大宮、サトミが南浦和に住んでいるということがドーナッツ化現象と繋げているつもりなのは判ったが、強引に感じた。
配信で渋谷らくご「ふたりらくご」を観ました。
「生モノ干物」「何でもない日」立川談吉/「寿司にぎる。」「聖夜の奇跡」柳亭信楽
談吉さんの二席は言葉遊びのセンスと奇抜なシチュエーションの面白さが光る。ベルトコンベアに乗った生モノと干物を仕分ける作業をする二人の男の会話の奇抜なんだけど伝わる可笑しさ。後半のお茶繋がりや、菓子繋がりの会話の創作は絶妙で、さすが2019年創作大賞作品と思う。
二席目も同様で、冬将軍が最近は騎士パラディンに席巻されているとか、バイソンの大群が西武線を襲い、池袋線と新宿線が運休とか、徒歩で出勤中に「ローマ帝国はどちらですか」と訊かれるとか。スタバで「オットセイの睾丸」を付けるのが流行っているというのも、談吉ファンタジーで愉しい。
信楽さんの一席目は今年の「しゃべっちゃいなよ」でネタおろしした作品で、決勝にもエントリーを打診されたが、スケジュールが合わずに断念したそう。もしかしたら、笑二さんと大賞を競っていたのではと思える仕上がり。40年寿司を握ってきた親方が「限界を感じた」のは、「皆に視力を上げてもらいたい」と考えていたからで、「でも、眼鏡には敵わない」というセンスが抜群の創作だ。
二席目は「中年」の連呼が実に可笑しい。クリスマスには中年が来るんだよねと信じているトモくんはお母さんに「良い子にしていないと中年が来てくれないわよ」と言われ、友達からは「中年なんか本当はいないんだ。それは大人の作り話だ」と馬鹿にされるという…。だが、中年は来てくれた。しかし、その中年は酔っ払いで、涙もろくて、プレゼントもくれない。独身で「家族の団欒に憧れている」と言う中年の人間味が溢れる。そして、中年はトモくんに「中年になると夢を失い、諦めを手にする…だから子どものうちは夢を持ちなさい」と教えてくれる。いい噺じゃないか。

