しゃべっちゃいなよ祭り 立川吉笑「鳥弁護士」弁財亭和泉「行列の先に」柳亭信楽「御本人」

配信で渋谷らくご「しゃべっちゃいなよ祭り」第一部と第二部を観ました。歴代の創作大賞受賞者による新作ネタおろしである。

第一部 「承認欲求」笑福亭羽光/「鳥弁護士」立川吉笑/「BBQでげす」桂伸べえ/「行列の先に」弁財亭和泉

第二部 「そば~ん」「与太郎だらけの地球(ほし)」立川志ら乃/「LOVE♡春の冨士」春風亭昇々/「御本人」柳亭信楽/「招かれざる蚊」林家彦いち

吉笑師匠の「鳥弁護士」。焼鳥屋と弁護士という組み合わせを実に巧みに構築した笑いが吉笑師匠らしい。タドコロさんは満員電車で痴漢の罪を被され、冤罪を訴えたいと無料相談の弁護士を訪ねたが…。弁護士はそのときの状況や駅員の対応、被害に遭ったという女性が内容証明を送ってきたこと、示談金狙いの可能性まで含めて、タドコロさんから話を聞き取るが、なぜか弁護士は焼き鳥を焼きながらという…。

この方が頭脳が活発に動くのだという理由で、今では弁護士と焼鳥屋を兼業している、このミスマッチが面白いだけでなく、吉笑師匠が扇子を何本も使って釈台に置いたり、タレをつける仕草をしたり。真剣な痴漢の冤罪の訴えと飄々と焼き鳥を焼く様子の乖離が笑いを増殖していく。発想の奇抜さがなぜか噺が進むにつれて説得力を増す不思議な感覚。これも芸の力ゆえだろう。すごい。

和泉師匠の「行列の先に」。傑作である。私たちの生活に「飲食店を評価付きで紹介する媒体」として定着している「食べログ」をネタにしながら、不特定多数の人間があるモノを点数で評価することの功罪を問い、その点数よりももっと大切なものがあるのではないかという現代社会への警鐘、提言に聞こえたというのは大袈裟だろうか。

行列のできる評判のラーメン屋。1時間近く並んでいたカップルだが、店から店員が出てきて行列に並ぶ客に番号札を配りはじめた。「スープがなくなり次第、販売終了」と食べログに書いてあった。運の悪いことにそのカップルのところで番号札が終わり、二人のうち一人しか食べられないことに…。戸惑っていると、前に並んでいた男性が番号札を譲ってくれた。それで、二人は美味しくラーメンを食べた。

店から出てきた二人に、譲ってくれた男性が細かく感想を訊いてきた。実はこの男性はこのラーメン屋の店主の父親で、10年前に自分の借金のために女房と息子と離縁をしたのだという。工事現場を転々としながら稼いだ給金から毎月決まった額を養育費として振り込んでいた。母親は養育費を貯金していて、息子が独立してラーメン屋を開業したときの資金にしたのだと聞いた。

食べログで2.8という評価を見て、気になって店まで来た。息子にはまず謝りたいと思っていたが、順番が近づくにつれて段々逃げて帰りたくなったのだという。なぜ、満点を取れないのか。カップルは二人とも「とても美味しかったけど、床がベタベタだったから」と言った。ベタベタじゃなかったら、と訊かれ、「4.2かな?」。

カップルの男性が言う台詞が秀逸だった。満点じゃない理由なんて、人それぞれ。説明が難しい。そんなことを訊くよりも、自分で体験した方が良い。それで感じたこと、思ったことが一番自分が信頼できることだ。そのことを息子さんに直接会って言った方が良いのではないか。

行列に並んで食べた客のほんの一部の評価なんか気にしても仕方がない。同様に、物事の価値判断なんて最後は自分で確かめるしかない。自分を信じることが一番大事だ。そう、和泉師匠は言いたかったのではないか。人情噺風味のとても素敵な新作落語だった。

信楽さんの「御本人」、信楽さんらしいセンスの光る一席だった。ユウナが働いているレストランに大ファンの御本人がお忍びでやって来た。「いつも見ています。御本人ですよね?サインしていただけますか?写真撮ってもいいですか?」。有名人なら誰でもあることだ。だが、その有名人とは…。

本物の非常口の方!「プライベートでも緑なんですね」「子どもの頃から緑です。親代々、緑。世襲制なんです。九代目です」。サインには座右の銘「逃げるが勝ち」と書いた。直火焼きハンバーグにドリンクバー。ドリンクはやっぱり、メロンソーダなんだあ。

「一人で出歩くな」といつもマネージャーに管理されているので、撮影途中で逃げ出して来たという。消防庁の本物の非常口でカメラマンが撮影するのだという…。だけど、非常口さんは「目立つことが嫌い。有名であることから逃げたい」という。そして、アイドル志望で実家を飛び出した「有名になりたい」ユウナを誘って、「この世界」から一緒に逃げよう!というのが可笑しい。

非常口の向こうに何があるのか。なぜ、僕だけ緑なのか。父は「ただの壁しかない」と言っていたが、緑の人間ばかりいる世界があるのではないか…。有名人=非常口の人という発想の奇抜さをきちんと論理構築し、ストーリ展開させているところが、信楽さんの才能である。