駒治の落語をきく麿兄さんと貞寿姐さんがやってくれる会 一龍斎貞寿「西武家の一族」、そして立川談吉ひとり会「シロサイ」

「駒治の落語をきく麿兄さんと貞寿姐さんがやってくれる会」に行きました。
「同窓会」古今亭駒治/「車内販売の女」林家きく麿/中入り/「西武家の一族」一龍斎貞寿/「公園のひかり号」古今亭駒治
きく麿師匠の「車内販売の女」。新幹線の車内販売で売り上げナンバーワンを誇るマキ。そして、かつてナンバーワンだったが競争に負けて、今は金魚売りに転落したタエコのライバル物語が面白い。「お弁当にコーヒー、時代の先端をいく雑誌ウェッジはいかがですか」という売り声からしてまず可笑しいが、マキは全身美容整形してSuica機能を尻に埋め込んで、先月の売り上げが1億2千万というのが笑える。
ライバルを蹴落とすために、釣銭をウォンにしちゃう嫌がらせとか、成績の悪い売り子は常磐線に飛ばされるとか、巨人軍の選手が乗ってきたときは一度で3千万の売り上げがあったとか…ディテールの面白さが肝だ。ちなみにSuica機能は駒治原作ではおでこに埋め込んだことになっているが、きく麿師匠はそこをお尻にしちゃうのが、いかにもきく麿師匠らしい。
貞寿先生の「西武家の一族」。姉が西武池袋線、妹が西武新宿線、この姉妹の仲が険悪というのが面白い。池袋線は石神井公園にクイーンズ伊勢丹、ひばりが丘にパルコを抱えているのに対し、新宿線の新宿駅はJR新宿駅と750メートル、徒歩18分も離れていて、実質新大久保の方が近いという…。池袋線は東京メトロ有楽町線、副都心線、さらに東急東横線が乗り入れているが、新宿線はかつて東京メトロ東西線乗り入れが検討されたが、JR総武線に奪われてしまった…。妹は姉に引け目を感じているのだ。
新宿線は本川越が終点のよしみで、川越市駅を持つ東武東上線とお付き合いをはじめた。だが、このことを知った池袋線は怒りだす。JR川越線が告げ口をしたのだった。そこで、池袋線は新宿線と駅の数で勝負しようということになる。池袋線は池袋から西武秩父まで36駅、これに対して新宿線は新宿から本川越まで29駅。純粋な数では負けてしまうが、接続している西武線の駅を加えることで勝負に出る。
池袋線は豊島園線、有楽町線、狭山線の5駅を加え、41駅。だが、新宿線は多摩川線、拝島線、多摩湖線、国分寺線、西武園線、レオライナーこと山口線の18駅を加え、47駅。新宿線の逆転勝利だ!このすべての駅の読み上げを駒治師匠は空で言い立てるのだが、貞寿先生は講談ということで、巻物を用意して読み上げ、これを乗り切った。あっぱれ、であった。
立川談吉ひとり会に行きました。「シロサイ」「田能久」「崇徳院」の三席。
「シロサイ」は談吉さん得意の寓話的新作。見事に独自色を打ち出して、不思議な世界に連れていってくれる。
紅葉に見惚れ、じいさんは思わず木々を伐採してしまう。そのために、巣を作っていた鳥たちの住処を奪ってしまった。ばあさんにそれを指摘され、罪の意識を持ったじいさんは鳥たちのための巣箱を作った。だがある朝、餌を与えようと巣箱を見ると、巣箱の穴に角を突き刺してしまい、取れずに足踏みをしている大きなシロサイがそこにいた。
どうしよう。じいさんとばあさんは「生卵のヌルヌル」を使えば、角が抜けるのではないかと考え、試す。果たして、スポン!と角は抜けた。自由を得たシロサイは大地を駆け抜けていった。そして、その足跡には葱が生え、沈丁花が咲き、そして卵が産み落とされていた。
「これは何らかの何かに違いない」。そして、その村は長く繁栄したという…。サイの卵、サイタマの由来という一席。談吉さんの唯一無二の不思議な味わいを感じる高座である。