中島みゆきコンサート 歌会VOL.1劇場版
「中島みゆきコンサート 歌会VOL.1劇場版」を観ました。
「中島みゆき 2020 ラスト・ツアー『結果オーライ』」はコロナ禍によって、8公演で中止を余儀なくされた。この「歌会VOL.1劇場版」は2024年5月8日と10日に東京国際フォーラム ホールAで4年ぶりに開催されたコンサートの全19曲を完全収録したものだ。
僕が中島みゆきさんでまず思い浮かべる曲は「時代」。そして、高校時代にラジオの深夜放送で流れていた「ひとり上手」や「悪女」だ。「わかれうた」はそれより前の曲だが、あとから知って好きになった。いずれも70年代後半から80年代初頭にかけてリリースされた曲ばかりだ。その後の楽曲はぼんやりとしか知らない。あと、90年代の「空と君のあいだに」はドラマ「家なき子」の主題歌だったから知っている程度か。
今回の19曲の中にこれらの曲は含まれていない。だけれども、中島みゆきさんの独特の世界観と魂を揺さぶるような楽曲、そして圧倒的な歌唱に心が震えた。惹き込まれた。「この歌、知っている」「知らない」という安易な価値観を超越するパフォーマンス。72歳ということは、僕の丁度一回り年上なのだが、そういう年齢を全く感じさせない、アーティストとしての存在感に圧倒された。
2020年10月に、ずっと中島みゆきさんのバンドマスターをしていた小林信五さんが亡くなったそうだ。享年62。みゆきさんは信五さんへの追悼の気持ちをこめて、「LADY JANE」の演奏の中に、信五さんのピアノ演奏の録音を挿入し、無人の椅子とピアノの前に寄り添って、みゆきさんが歌っていたのが印象的だった。そして、「最後に小林信五にもう少し拍手をください」と観衆に呼び掛け、大きな拍手が贈られた。素晴らしい。
3曲目の「倶(とも)に」は、これからの時代を生きていく我々が手を携えていかねばならぬことを訴える、とても良い曲だ。倶に走り出そう、倶に走り継ごう、過ぎた日々の峡谷を、覗き込む暇はもうない。そうなのだ。過去を振り返ることよりも前を向いて歩く、いや走らなければいけないのだ。
8曲目の「愛だけを残せ」も勇気をくれる。激流のような時の中で、生命の証に愛だけを残せ。自分の名前なんか残そうとするな。そんなものは儚い過去でしかない。これもまた、過去など振り返っていてはいけないと教えてくれる。
そして、17曲目の「心音」。この曲を歌う前に、みゆきさんは「私は先を案じてしまう癖がある。今を粗末にしてしまう。それはよくないことだ。今ここに生きていることを大切にしたい」と言った。そして、歌のなかでは「未来へ」を3回繰り返し、「君だけで行け」と背中を押している。やはり、前を向いて進むことの大切さがそこにある。
最後の曲は「地上の星」。この曲は80年代の「ひとり上手」や「悪女」と同じくらいに、よく知っている。2000年から2005年までNHK総合テレビで放送された「プロジェクトX~挑戦者たち~」の主題歌だからだ。この番組に憧れ、いつか製作したいと希望したが、叶わなかった苦い思い出とともに。僕が結婚するとき、披露宴で上映する“なれそめビデオ”を同期のディレクターが国井雅比古アナウンサーの協力を得て、「プロジェクトX」のパロディ風に作ってくれて、出席者から大喝采を浴びたのは今でも忘れない。
名立たるものを追って、輝くものを追って、人は氷ばかり掴む、つばめよ高い空から、教えてよ地上の星を。「名立たるもの」「輝くもの」は努力のあとについて来るものなのだと思う。