関西浪曲特選会

関西浪曲特選会に行きました。「大阪の浪曲親友協会所属の浪曲師・曲師が豪華出演!」という触れ込み。普段、東京ではお目に掛かれない人たち(日本浪曲協会にも所属している隼人さんは別だが)の、普段耳にすることができない演題をたっぷりと楽しむことができた。

真山隼人「違袖の音吉」(曲師:沢村さくら)

漁師の倅で13歳の音吉の喧嘩っ早いところが痛快だ。“茨の源兵衛”と異名を取る源太源兵衛、36歳に喧嘩を売り、出刃庖丁を持ち出して、「子分になるか、ならぬか!」と迫るのだから、すごい。源兵衛の母親が「お前はせいぜい50~100人の子分しか持てないが、この子は千から二千の子分を持つタマだ」と言うので、源兵衛は母親の助言に従い、親分子分の盃を音吉と交わす…勿論、親分は音吉!

天満橋で源兵衛が根津白右衛門に一杯6文の雑魚を二杯売ったが、そのときに根津の子分が船台も一緒に持って行ってしまった。それを知った音吉が「これで尻をまくりに行ける!」と喜んだ。喧嘩のネタが出来たというわけだ。根津の親分が子分に船台の裏を確かめさせると、何と「丸に音」の印が!根津の親分も音吉の噂を知っていたのだ。慌てて羊羹3本を持って、詫びに行くが、そんなことでは容赦しない音吉。さあ、喧嘩はどうなるのか!?というところまで。面白い!

春野恵子「番町皿屋敷~お菊と播磨」(曲師:一風亭初月、箏:市川法慧能)

いつも聴いている皿屋敷とストーリーが違うので、ものすごく新鮮に聴くことができた。お殿様の青山播磨と女中奉公しているお菊は恋仲という設定。なのに、播磨に縁談の話があると聞いて、嫉妬というか、本心を確かめたいお菊は家宝の高麗焼きの皿10枚のうち、1枚を叩き割って、播磨の胸の内を試そうとした。

皿が割れたと聞いた播磨はお菊に問う。誤って落として割ったのか?運ぶ途中に躓いて割ったのか?粗相の次第を聞きたいと迫る。お菊は「成敗を望む」の一点張りに、播磨は「所詮皿一枚、命には替えられぬ」と言う。これを聞いて、お菊は縁談の真意を問うが、播磨は「縁談はあるにはあったが、断った」。

皿が大事か、自分が大事か、お菊は播磨の性根を見届けようとしていたことを正直に告白する。播磨は言う。「700石の天下の直参、青山播磨。付き合いで座敷に上がることはあっても、他の女の盃を受けたことはない。そなた一人を生きがいに尽くしていた。それを疑うとは」。

播磨は「無念が晴れぬ」と言って、残りの皿も叩き壊してしまう。「男を疑う罪がどれほどのものか、そなたにはわかったはずだ」。お菊も「恋に偽りがなかったことが判れば、死んで本望です」と答える。播磨は「偽りならば斬らぬ。真の恋なればこそ、許せぬ。庭に出よ」。

恋の命の手弱女が死ぬも生きるも恋のため、静かに目を閉じ手を合わす。播磨はお菊を斬り、死骸を井戸の中へ放りこませた。折しも聞こえる鐘の音に、感慨無量の青山播磨。井戸に手を掛け、思いは深き水の底。涙隠して、差し覗く。播磨とお菊の間に本当の恋があったからこそ、起こってしまった悲劇に思いを馳せた。

五月一秀「稲川江戸日記」(曲師:沢村さくら)

大坂相撲から江戸に出てきて、勝てば勝つほど人気が落ちていくことに落胆した稲川次郎吉。両国橋での乞食に対する振舞いに、「土俵では鬼だが、心根は優しい」と見抜いた新門辰五郎の粋な計らいが心に滲みる。乞食に化けて、浅草花川戸の稲川の仮住まいを訪ねると、稲川は「よくおいでなさいました」と下にも置かない扱いに、「惚れた!」。

「肴だ」と言って、持ち込む千両箱。そして、火消し仲間100人が大八車8台を曳いて運んだ米俵。これが本当の相撲の贔屓というものだ、と言わんばかりの待遇に稲川もさぞ喜んだであろう。

京山幸枝若「米屋剣法」(曲師:一風亭初月)

まだ門弟が一人もいない吉岡又三郎の剣術道場を訪ねてきた米屋の清三郎に対する吉岡の心の変化が面白い。町人が剣術を習うのは「生兵法は大怪我の基」とばかりに、最初のうちは痛めつけて追い返そうと考えていたが…。

懲りずに7日も通い続ける清三郎を見て、吉岡も「見込みがある」と判断し、正式に教えてやろうと考えた。一人前になるのに3年はかかるところ、半年で「上目録」の腕前に。だが、慢心してはいけないと「お前は目録の半分の“もく”だ」と半ば清三郎の実力を認め、ただし「他流試合はしない」ように言い渡した。

清三郎の近所にある卜部藤蔵・藤三郎兄弟の道場を覗いていたら、清三郎はコテンパンに打ちのめされてしまった。清三郎は師匠の教えである「他流試合厳禁」を守ったためだ。その上、お前の師匠の吉岡は「竹べら流」「糊べら流」と罵った。

清三郎は「いつか仇討に来てやる!」と心に思い、砂を掴んで男泣き。自宅に帰って布団に入り、医者を呼んで回復を待った。暫く顔を見せないのを心配した吉岡が清三郎を訪ねると、女房は「流行り病だ」と亭主に言われた通りに怪我のことを隠すが、吉岡は「弟子と言えば、我が子も同じ」と言って面会し、事の次第を知る。

さあ、吉岡又三郎は弟子の仇を討つために卜部道場に乗り込む…、というところで「丁度時間となりましたあ」。剣術指南と弟子の心温まるストーリーに魅了された。