隅田川馬石 お富与三郎~与話情浮名横櫛~「茣蓙松」

鈴本演芸場6月中席夜の部中日に行きました。隅田川馬石師匠の「お富与三郎~与話情浮名横櫛」連続口演興行、きょうは第五夜、「茣蓙松」だ。何と1時間近い長講、これを飽きさせることなく聴かせるのは、さすが馬石師匠である。

「道具や」柳亭左ん坊/「長屋の算術」桃月庵黒酒/江戸曲独楽 三増紋之助/「出来心」古今亭文菊/漫談 林家しん平/三味線漫談 林家あずみ/「紙入れ」春風亭正朝/「癇癪」橘家圓太郎/中入り/漫才 ホンキートンク/「睨み合い」林家彦いち/紙切り 林家楽一/「お富与三郎 茣蓙松」隅田川馬石

黒酒さん、抜群の面白さ。せーの!店賃は払えません!お勘定は大家さんが引き受けてくれるんですよね!紋之助師匠、真剣刃渡り。即位の礼のとき、空港警察の別室で芸を披露したエピソード愉しい。文菊師匠、「つまんない男です」。心を掴むような面白いことが言えないんです。そんなことはないです!サイゴベエは俺だ!

しん平師匠、コメダ珈琲の野菜サンドがお薦め。素麺に納豆、おくら、キムチを入れて食べると美味いとか。あずみさん、知らんけど。木遣りマンボ、祇園小唄、和藤内。正朝師匠、正しい不倫とは。鰻の玉子蒸しはいかにも精がつきそうだ。

圓太郎師匠、絶品。煙くともやがて寝やすき蚊やりかな。ホンキートンク先生、修二と彰がわからない。小林旭の自動車ショー歌はわかったけど。彦いち師匠、ドキュメンタリー落語。ヘッドホン少年の舌打ちが怖い。楽一師匠、注文でにらめっこ、ハリーポッター。

馬石師匠、五夜目。お富と与三郎が目玉の富八を殺害した現場を目撃した蝙蝠の安は、これをネタにちょいちょい無心に来るので、玄冶店の家を売り払い、元柳橋に引っ越した。

夏の日。にわかの夕立、そして雷が鳴る。一軒家の軒下に六十見当のご隠居風情が雨宿りしているのを、お富が見つけ、与三郎に何か耳打ちした後、「中へお入りなさい」と親切に声を掛ける。お富は「親父と二人で田舎から出てきて暮らしているが、親父が田舎に帰ったため、一人で寂しい」と言って、その男を二階へ上げる。

濡れた着物を脱がせて、女物の浴衣を着させて、煙草盆を差し出し、お香を炊いた。男は万八楼の折詰を置き、紙入れを懐にしまう。お富は酒の支度をして、私も飲みますからと言って、酒を勧める。男は折詰の中から芋と蓮と麩を取り出し、小皿を拝借して並べる。これを肴に飲もうという。しみったれとお富は思う。

お富が名を尋ねると、柴田町の松屋喜兵衛だという。通称、茣蓙松。物持ちだが、ケチで、スケベだという噂はお富も知っている人物だ。「すっかりご馳走になりまして、ありがとうございます、おかみさん」と茣蓙松が言うと、お富は「おかみさんなんかじゃないんです」と嘘の素性を話し始める。

3年前、亭主に死なれ、親父と二人で田舎から出てきた。親父が田舎に帰り、独りは寂しい。世話してくれる者もいるが、こんなお多福じゃあ、誰も貰ってくれません。それを聞いた茣蓙松は「相談に乗れるようなことがあったら」と言葉を掛ける。そこに雷が鳴る。お富は茣蓙松の膝にかじりつく。胸元がはだけ、乳が見える。手を差し伸べようとしたとき…。

与三郎が出刃庖丁を持って、「間男見つけた!観念しろ!」と出てきた。「御勘弁を」と言う茣蓙松に、与三郎は「もう逃げられないぞ」と言って、全身傷だらけの身体を見せる。「つい独り者かと。命だけはお助けください。私には倅も孫もいるんです」と謝る茣蓙松。与三郎は「助けてやらあ。いくら出す?」と問う。「二分で」「ふざけるな!百両出せ!」。お富も「出した方が身のためだよ」と言いながら、五本指を与三郎に見せる。「50両にしてやる。びた一文まからない」と言う与三郎に対して、茣蓙松は「万八の帰りで、持ち合わせがない。明日の昼までに必ず」と答える。

紙入れの中に入っていた8両2分、それだけは置いていけ。そして、金50両正に拝借つかまつり候と書いて、爪印を押した証文を与三郎は受け取る。浴衣を脱いで畳んで、折詰は置いていけ、ケチケチするなとどやされる。明日50両を持って来なければ、松屋の店の前に座り込むと脅す。茣蓙松は這う這うの体で逃げるように帰っていった。

茣蓙松は考える。50両払ったとしても、後が怖い。度々無心に来られても困る。掛け合いに出そう。田町一丁目の家主、伊之助に頼もう。そう考えて、伊之助を訪ねる。内々の話と言って、女房のお兼も外させ、お富との間男騒動の経緯を話した。

伊之助は、相対(あいたい)間男だなと言う。やましいところがあるのか、ないのか、はっきりさせないと掛け合いができないと言って、茣蓙松に正直に話してもらう。あなたは昔から妾を囲えばいいものをそれをしないで、下女に手を出したり、子守っ子に悪戯したり、出し惜しみするから、こういうつまらないことに引っ掛かるんだと説教される始末だ。

8両2分は手付金として、向こうに50両の証文があるのだから、それとは別に50両を持って行かねばならない、そうすれば「以後何も申しません」という証文を貰うことができると伊之助は言い、さらに遣い賃1両を貰って、ようやく引き受けた。そして、50両の他に包み金を携えて、元柳橋のお富与三郎の処へ赴く。

一方、お富と与三郎。どうせ本人は来ない、遣いの者が来るだろう。そのとき、切り口上で脅かしてやりな。50両はきのうの8両2分差し引きなんかしないで、50両そっくり貰いな。そう、お富は与三郎に知恵をつける。そこへ、「ごめんください。お富さまというご婦人宅はこちらですか?」と伊之助が訪ねてくる。「柴田町の松屋喜兵衛の遣いで参りました」。お富が予想していた出入りの職人ではなく、商人風の男だ。

伊之助は中に通されると、団扇を拝借と言って、風を送りながら、「結構なお住まいですな。こちらはお水の方は?」などと世間話を始めるので、お富が「何か、お持ちじゃないんですか?」と催促する。すると、伊之助は「つかぬ事をお伺いします、間違いましたらごめんなさい。あなたは、横山町伊豆屋の与三郎さんではありませんか?貸本屋をしている時分、ご新造さんにお世話になりました。あの頃は可愛かった坊ちゃん、その後今業平などと呼ばれていましたが、木更津のとんでもない女に騙されたと聞きました。伊豆屋の若旦那の姿が見られるなんて、胸がいっぱいです」と言う。

そして、「あなたがお縄にかかるようなことになれば、ご両親様はどんなにかお嘆きになることか。親不孝ですよ。元の鞘に収まるのが一番です。話をします。悪いことをすれば、お天道様はお見通しです。相対間男で奉行へ訴えるなんてことは、若旦那にはできない。世間を知らないから、あんな悪いことをしてしまったのでしょう。掛け合いの顔を一つ立てて貰いたい」と続け、松屋の隠居も倅に店を任せてしまい、簡単に金を動かせない、“土産代わり”の包み金、10両で勘弁していただけないか、駄目なら奉行に訴えるけれど、それは若旦那に対してできないと頼む。

与三郎はすっかり情にほだされ、「その10両を置いて、お帰りなさい」と言ってしまう。伊之助が「以後は何も言わぬ」と書付を要求し、さらに印形を貰う。横でジリジリするお富だが、伊之助ペースで事は運び、「来た甲斐がございます」と言って、喉が渇いたとそこにあった燗冷ましを呷って、さらには「8両2分は渡してありますね」と、「差し引き2両」を渡して帰ってしまった。

呆気のとられたお富は、「あいつのことを知っているかい?」と与三郎に訊くが、「知らない。だけど、お奉行様に訴えると言うから」。「癪にさわるね!手だてを考えなきゃ」とお富は苛々するばかりであった。

残暑。お富の家に小間物屋が訪れ、品定めをしている。櫛を求めようとしている脇に、与三郎が入り、符丁を巧みに操った駆け引きをして、二分する品を一分に負けさせて買う。「俺は鼈甲問屋の倅だよ」と種明かしすると、小間物屋は心を開き、「このあたりで相対間男で悪いことをした夫婦がいるそうですね。それをやりこめて、うちの伯父が大層儲けたと聞きました。利口にならなきゃ、美味い酒は飲めないと言ってました」と、茣蓙松の一件をペラペラと喋ってしまう。

伯父というのは、貸本屋をしていた、今は田町一丁目の家主の伊之助。松屋から50両貰って、2両だけ渡して、あとの48両を横取りしたということまで喋ってしまった。命懸けの仕事をした夫婦はたったの2両と言うと、「その夫婦というのは俺たちのことだ!」と与三郎が怒鳴った。

お富と与三郎は伊之助のところへ行く。「黙って金を出せ!茣蓙松の隠居の50両だ。人のことを馬鹿にしやがって!」。すると伊之助は「掛け合い代金というのは、千両のものを50両に値切って儲けるもの。俺は値切るのを商売にしているんだ。書付を貰ったらお終いだ。悔しいから、よこせ?ふざけるな!」と言い返す。「お前が横櫛のお富だな!二人とも突き出してやる!」。

すると今度は、お富と与三郎は柴田町の松屋の前に座り込む。面倒なことになった、と伊之助は思う。そこへ町方定廻りの役人が通りかかった。そして、これが大捕物となります、この続きは明晩と切った。続きが気になるところだ。