談春浅草の会 初日「お若伊之助」

「談春浅草の会~真打昇進予行演習」初日に行きました。弟子の立川こはるさんが、明日に真打昇進ということで、きょうは二ツ目として最後の高座。そして、立川小春志(こしゅんじ)と名を改めるため、こはるとしても最後の高座である。

冒頭、緞帳が上がると師匠談春とこはるが並んで頭を下げていて、ご挨拶。談春師匠は大変な照れ屋だから、餞(はなむけ)の言葉と言っても、小言に聴こえるが、それがまた師匠の愛情表現なんだと思う。こはるさんが「粗忽長屋」を演じ終わって、談春師匠が高座に上がると、「俺の方が拍手が少ないってどういうことだ。俺の独演会なのに」と言うのも、師匠らしい照れ隠しだ。そして、「粗忽長屋」に関して、実際に自分が演じてみせて、「俺はこう演るんだけどなあ。誰に習ったかしらないけど」。これも談春流の愛情表現である。

御挨拶 立川談春・立川こはる/「粗忽長屋」立川こはる/「棒鱈」立川談春/中入り/「お若伊之助」立川談春

談春師匠の「お若伊之助」、また進化を遂げていて素晴らしい。一中節の師匠・菅野伊之助をお若が恋い焦がれるあまり、狸が化けて悪さをしでかしたのは、よっぽどお若が重い恋煩いをしていたのだなあと思う。大家の生薬屋の一人娘と芸人が身分違いの割りなき仲になってしまったのは、仲に入ったに組の初五郎に断じて男女の仲にはならないと堅く誓った伊之助の失態だが、それだけお若が魅力的だったということもあるだろう。

幸いお若の母親が理解のある人で、30両の手切れ金を伊之助に渡し、綺麗に別れた。だが、叔父の長尾一角が根岸に構える剣術の道場に住まうことになったお若は何もすることがなく、ただただ伊之助のことを毎日恋しく思い、患っているところを、狸がつけ入ったのだろう。

また、に組の初五郎の真っ直ぐで、気が短くて、喧嘩っ早いキャラクターが、この噺を大変に面白くしている。長尾一角の道場のある根岸と、伊之助の住む両国の間を、言われるがままに、行ったり来たりする。ちょっと考えれば、昨晩は初五郎と伊之助はずっと一緒に吉原に居たのだから、根岸までやって来てお若と逢瀬をするというような暇はなかったことぐらいわかりそうなものなのに。

そうでなくても、30両の手切れ金を貰って、まだ禁断の恋を愉しむというようなことが伊之助にはできない、堅い信用の置ける男だということも判っているだろうに。でも、この噺の面白さのカギは初五郎で、憎めない、愛すべきキャラクターなのだと思う。

最後は長尾一角が伊之助に化けた狸を火縄銃で射抜いて、伊之助の無実は証明される。そして、お若は双子の狸の子を産む。だが、死産。その噂は江戸で知らない人はいないというくらいに広まってしまい、お若は気鬱で家に引きこもってしまう。それを聞いた伊之助はお若さんと一緒になって、助けてあげたいと進言し、お若を芸人のおかみさんとして迎い入れる。そして、こうやって二人が夫婦になれたのも狸のお陰と、一角が撃ち殺した狸とお若が産み落とした双子の狸の死骸を因果塚に葬ったという。因果塚由来の一席という演出で談春師匠は締めた。ハッピーエンドで素敵な終わり方だと思った。